【将棋解説】
第32期竜王戦七番勝負第5局 広瀬竜王vs豊島名人

目次

解説動画



対局情報

棋戦
第32期竜王戦七番勝負 第5局
対局日
持ち時間
8時間(2日制)
対局者
広瀬 章人 竜王<後手>
豊島 将之 名人<先手>
戦型
角換わり腰掛け銀
主催
読売新聞社
公益社団法人日本将棋連盟
(棋譜利用問い合わせ済み)
対局場所
島根県:藩校 養老館

局面解説

序盤

【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第5局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で20手指した局面
本局は先手が豊島名人、後手が広瀬竜王です。
戦型は角換わり腰掛け銀となりました。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第5局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で34手指した局面
先手の2九飛&4八金、後手の8一飛&6二金は流行形ですが、
先手が▲2五歩を保留するという工夫をみせました。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第5局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で38手指した局面
point
39手目:形勢判断と候補手
互角:▲4五銀、▲4五歩、▲2五歩 など
39手目で▲2五歩と突いて、実戦例の多い形に合流させても良いのですが、
本譜は▲4五銀と仕掛けました。




中盤

【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第5局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で39手指した局面
point
40手目:形勢判断と候補手
互角:△5五銀、△6三銀、△8六歩
40手目で△同銀は悪手で、▲同桂が銀取りになるうえに、
▲6三銀 △同金 ▲7二角の筋を狙われてしまいます。
銀取りを手抜いても▲5四銀から同じがあるので、
△5五銀とかわすか△6三銀と引くかですが、いずれも有力です。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第5局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で40手指した局面
point
41手目:形勢判断と候補手
互角:▲5六角、▲2五桂 など
41手目で本譜は▲2五歩と突いていないことを生かして、▲2五桂と跳ねました。
3三の銀が逃げると▲3四銀と歩を取ることができます。

△6三銀を咎めようとするならば、
▲5六角と打って、同様に3四の歩を狙いに行く手も有力です。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第5局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で46手指した局面
point
47手目:形勢判断と候補手
互角:▲6八玉、▲5六銀、▲3五歩 など
次に△2五歩と桂を取られてしまうと、先手の桂損ですが、
▲同歩となると、後手は歩切れなので2筋の受け方が難しいです。
よって、すぐに桂を取られることはないので、
先手は1歩得の主張を生かしやすい駒組みに変化させる余裕があります。
本譜は▲5六銀と引きました。

後手も歩損の代償として、どこかで有効な仕掛けをしたいのですが、
先手の5六の銀は好位置なので、動き方が少し難しくなります。
結果として、後手の△3一飛を誘って、
△2三金と上がらせることに成功しましたが、後手も負けじと揺さぶります。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第5局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で56手指した局面
point
57手目:形勢判断と候補手
互角:▲5五角、▲5六銀、▲2五歩 など
57手目で▲5五角と打つ手は有力です。
次に▲6四歩~▲2二角成~▲6三銀と力技で6筋を破る狙いがあります。
但し、▲5五角に対しては、△3三桂と跳ねる受けがあり、
これが4五の銀取りになるのでバランスが取れています。

本譜は▲5六銀と引きました。△3三桂の価値を下げつつ、
角を温存することで後手の動きに対応しやすくなる手です。
本局で3度目の▲5六銀ですが、相手に手を渡す場合は、
腰掛け銀の形にしておくと、銀の働きが強まって、隙が生じにくいのです。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第5局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で65手指した局面
point
66手目:形勢判断と候補手
互角:△3六歩、△8六歩、△3六角 など
先手の▲7六歩は、後手からの△7六歩の叩きを嫌った意味がありますが、
ここから△7五歩 ▲同歩 △8四飛で千日手にする権利が後手に生じました。
別の見方をすると、
先手が互角以上に持ち込む手を見つけられなかったということになります。
例えば、先手からは▲2六歩~▲2五歩~▲3四桂という攻め筋がありますが、
後手の方が攻めが速いと、先手が判断してくれた訳です。

後手としてはチャンス到来ですが、
必ずしも後手が良くなる手があるとは限りません。
千日手を打開する手を指した場合の形勢と、
初期局面における先手番のわずかな優位を比較して、選択する必要があります。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第5局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で76手指した局面
point
77手目:形勢判断と候補手
後手優勢:▲6六桂
先手は飛車を切ってしまったので、
王手・詰めろ・厳しい2手すき・駒取りのいずれかとなる手がほぼ必須です。
77手目で王手かつ駒取りの▲3四桂は見えますが、
△3三玉から一直線に入玉を目指されてしまうと、止めることができません。

本譜は▲6六桂と打ちました。
こちら側から飛車を狙いつつ、駒損の回復を図ります。
後手は元々駒得していたので、駒を取られることを気にする必要はありません。
それよりも盤上に残った先手の駒の働きが悪くなるような取らせ方を探します。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第5局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で85手指した局面
point
86手目:形勢判断と候補手
後手優勢:△8七歩
86手目で△6九銀の割り打ちは、
囲いの金を1枚剥がすことができるので、部分的には厳しい手です。
但し、5八の金が先手玉から少し離れていて働きが弱いことと、
先手に銀をもう1枚渡したときの反動が大きいことを踏まえると、
わずかに損な金駒交換となります。

本譜は△8七歩と打ちました。
角換わりの頻出手筋で、中盤で△8六歩と突き捨てる重要性が分かります。




終盤

【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第5局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で97手指した局面
point
98手目:形勢判断と候補手
先手優勢:△8八銀
98手目で粘るならば△3一銀と打つ手は有力ですが、▲3三銀と打たれると、
駒損によって玉を逃がす形になるので、ジリ貧になりやすい指し方です。

本譜は△8八銀と打って、強く攻めました。これで後戻りはできなくなり、
後手が先手玉を寄せ切るか否かという勝負になりました。
尚、この局面の形勢を「先手優勢」としていますが、
26手後に後手が1歩足りなくて、先手玉が詰まない変化があることが理由です。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第5局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で104手指した局面
相手に駒を渡して寄せにいくと、詰まなければハッキリと負けになりますが、
それでも、詰みそうだと思ったら踏み込むべきだと思います。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第5局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で111手指した局面
尚、途中で詰まないと分かった場合、
唯一、勝つためには絶妙な詰めろ逃れの詰めろが必要となります。
そのような手が生じる可能性は低いのですが、
あることを祈りながら探すしかありません。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第5局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で118手指した局面
point
119手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲6八玉
次に△7七飛が王手になる位置に逃げてしまうと、
盤上の飛車の力が強くて、先手玉が詰まされてしまいます。

▲8八玉は△7七角 ▲7九玉と逃げた時に、有効な飛車の王手がないので、
金駒を持っていない相手に対しては、部分的に有力な逃げ方ですが、
後手の7筋の歩が切れているために、△7八歩と叩かれることで、
飛車で王手をされる形を作られてしまうので、詰みとなります。

このように詰ます側の持ち駒が少ない場合は、
歩の叩きで玉を危険な位置に誘導できるか否かが重要になることも多いです。

119手目の局面で、唯一、先手玉が詰まない逃げ方が▲6八玉です。
△7七角 ▲6九玉となった局面で、△6八歩 ▲7九玉 △7八歩と、
2回叩くことができれば先手玉は詰んでいるのですが、1歩足りませんでした。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第5局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で129手指した局面
point
130手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:△6六桂、△同竜 など
130手目は△6六桂と跳ねて、
少しでも先手玉に対して嫌味を残しておく手が有力です。
但し、▲6四角の王手に対して、持ち駒で合駒ができないので、
実は後手玉が詰んでいるのですが、手数が長いので詰まされるとは限りません。

本譜は△9九角成としました。攻め駒不足なので、香1枚の価値も非常に高いのですが、
角が先手玉から離れてしまったので、明らかに詰めろではありません。
本局の場合は、相手を信頼して形を作りにいったと言えますが、
先手が比較的自由に反撃できる状態となるので、実戦的には避けるべきです。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第5局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局の投了図
143手にて、後手の広瀬竜王が投了し、
豊島名人の4勝1敗で竜王奪取となりました。

投了図以降、△2三玉は▲2一飛成 △3四玉に
▲3五馬と切ってから金を並べていけば入玉ルートがないので詰み、
△1二玉は▲1三銀 △同玉に▲3五馬と王手で上部を押さえてから、
金駒を打っていけば詰みとなります。

本シリーズは1歩の差で勝ち負けが決まるような
非常に高度な将棋ばかりでした。

対局内容が難しすぎて、解説が行き届かない部分もあったとは思いますが、
少しでもプロの読みの深さと正確さが伝わっていれば幸いです。


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