【将棋解説】
第60期王位戦七番勝負第2局 豊島王位vs木村九段

目次



対局情報

棋戦
第60期王位戦七番勝負 第2局
対局日
持ち時間
8時間(2日制)
対局者
豊島 将之 王位(二冠)<後手>
木村 一基 九段<先手>
戦型
相掛かり
対局場所
北海道:京王プラザホテル札幌
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局面解説

序盤

point
15手目:形勢判断と候補手
互角:▲2四歩、▲9六歩、▲3六歩、▲4六歩 など
15手目で▲8七歩と打つのは少し損な手で、
△7六飛と横歩を取られたときに▲8二歩と打つことができなくなります。
この桂取りを見せることで、△7六飛をけん制している訳ですが、
▲8二歩からの桂得で形勢を損ねる場合もあるため注意が必要です。
△7六飛に▲8二歩と打った後、△8六飛 ▲8一歩成 △同飛となると、
先手が歩切れなので、今度は△8六歩の垂らしが厳しくなります。

本譜の形であれば▲2四歩 △同歩 ▲同飛が、
次に▲2三歩と打って角を捕まえる先手になっているので、
△2三歩に▲2五飛と引くことで▲8五歩と打つ受けが間に合いますが、
例えば△1四歩と突いてあるだけでも、▲8二歩は成立しなくなります。




point
21手目:形勢判断と候補手
互角:▲7四飛、▲2六飛 など
21手目では▲2六飛と引く指し方も有力ですが、
本譜は▲7四飛と回って、歩を取りました。
これで通常の横歩取りの戦型と同様の理屈になり、
先手は歩得、後手は手得を主張する展開となります。



point
30手目:形勢判断と候補手
互角:△8六歩、△6二金、△7二金、△1四歩 など
後手としては△3四歩と角道を開ける手が自然なようですが、
▲2二角成~▲8八銀とされると8筋を攻めづらくなってしまいます。
攻めやすい場所がなくなって、ゆっくりとした展開になると、
後手の主張である手得が生きづらくなります。
先手の角を攻めの目標として負担にさせたままにするために、
ギリギリまで後手の角の活用を我慢します。



point
35手目:形勢判断と候補手
互角:▲7七金、▲3七桂、▲5八金 など
次に△7六飛~△7四飛とされてしまうと、
部分的に石田流に似た好形となり、後手に不満がありません。
本譜は▲7七金と上がりましたが、
これが△7六飛を防ぐ力強い受けの好手でした。

尚、△3四歩と後手の角道が通っている状態であれば、
この金上がりは悪手で、△8七歩でも△同角成でも簡単に潰れてしまいます。




中盤

point
45手目:形勢判断と候補手
互角:▲2八飛、▲2七飛、▲2六飛
45手目で手拍子に▲同飛と取ってはいけません。
△同桂が金取りになるため▲6七金と逃げますが、
手番を握られたままなので、先に飛車を打ち込まれてしまいます。

逆に言えば、7七の金が6七にいた場合は▲同飛と取ります。
△同桂に▲8一飛と先に打ち込んで先手有利です。



point
53手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲8六金、▲6七金寄
53手目では▲6七金寄も有力ですが、
△9六歩からの端攻めが、後手にとって少し分かりやすい展開となります。

後手は次に▲2四歩から攻められてしまうことが分かっており、
攻め筋がある限りは多少無理でも攻め続けてくる可能性が高いので、
少なくとも分かりやすい攻め筋は潰しておきたいところです。
本譜は▲8六金と上がりました。

金が上ずるので、先手陣内に攻め込まれてしまうと非常にマズいですが、
攻め駒を押さえ込むことでそもそも攻めさせない、という力強い受け方です。



point
65手目:形勢判断と候補手
先手有利:▲2六銀
65手目は▲2四歩と打つ手もありますが、
△同歩と取らずに△2二銀が好手で、2筋を突破することはできません。
よって、消去法で▲2六銀と引くことになりますが、
五段目の銀を引かされてしまうのは少しおかしい流れです。

ここから逆算して考えると、もう少し早い段階で▲2四歩から攻めた方が、
先手にとって分かりやすい展開となっていました。
先手の失敗は明白ですが、後手は歩損かつ歩切れで、攻め駒も進んでおらず、
先手が良いことに変わりはないので、悲観することなく冷静に軌道修正します。



point
75手目:形勢判断と候補手
先手有利:▲6六桂、▲5八玉、▲5六金
75手目は▲6六桂と打って、
△7八歩成からの角交換を手厚く防いでおく手が有力です。

本譜は▲6六銀と上がりました。これも角交換を防ぎつつ、
角取りの先手にもなっていてが良さそうですが、次に絶妙手がありました。



point
76手目:形勢判断と候補手
後手有利:△4五桂
76手目で△2二角と逃げているようでは、
▲5五歩と押さえ込まれて、攻めづらくなります。

本譜は△4五桂と、歩のに打ちました。
金取りですが、▲同歩は△2八角成と飛車を取って後手必勝です。

▲5五銀には△7八歩成 ▲同玉 △5七桂成として、
角金交換の駒損ではありますが、成駒が急所にできて攻めが続きます。

▲5六金とかわしても△6六角 ▲同金 △5七銀で先手玉が丸裸です。

少ない攻め駒でもすべての駒が最大限に働いて歯車が噛み合うと、
時に恐ろしい破壊力となります。特に玉が薄いときには要警戒です。



point
90手目:形勢判断と候補手
後手優勢:△8九金、△6八馬、△同桂成、△同桂不成
90手目で本譜は△8九金と角取りに打ちました。
最上段に金を打つのは筋が悪いことも多いですが、
先手の角が狭いので捕まっており、さらに△6八馬と王手で飛車を取ることで、
8八の角をタダで取ることができるようになります。




終盤

point
100手目:形勢判断と候補手
後手勝勢:△8五飛、△4二銀、△3八飛成 など
100手目で最短の勝ちを目指すならば△8五飛です。
次に△5六桂と打てば、先手は受けに適した持ち駒がありません。

本譜は△4二銀と上がりました。
▲5三桂成で玉が露出しないようにする手堅い指し方です。



point
106手目:形勢判断と候補手
後手勝勢:△6九角成、△8五飛、△8三金
後手は5筋や6筋の突破を防ぐことはできませんが、
現状は、先手に多少の駒を渡したとしても、後手玉は相当詰まない形です。
よって、ここが勝負を決めに行くタイミングで、
本譜は△8五飛と桂を取りました。やはり△5六桂は厳しい攻め筋です。

他に△6九角成 ▲同玉 △4八飛成と迫る手順も有力です。
いずれも先手に大駒を渡しますが、それでも後手玉は大丈夫です。
先手は飛車を取って、かつ、三段目に成駒を作らなければ、
後手玉に詰めろがかからないのですが、その両方は間に合いません。



118手にて、先手の木村九段が投了し、豊島王位の2勝となりました。

投了図以降、後手玉に詰みはなく、先手玉は△4八飛成までの1手詰で、
適当な受けはありません。

本局では豊島王位の、劣勢な局面で耐える指し回しが非常に勉強になりました。


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