【将棋解説】
第91期棋聖戦五番勝負第3局 渡辺棋聖vs藤井(聡)七段

目次

解説動画



対局情報

棋戦
第91期棋聖戦五番勝負 第3局
対局日
持ち時間
4時間(1日制)
対局者
渡辺 明 棋聖(三冠)<後手>
藤井 聡太 七段<先手>
戦型
角換わり腰掛け銀
主催
産経新聞社
公益社団法人日本将棋連盟
(棋譜利用問い合わせ済み)
対局場所
東京都:都市センターホテル

局面解説

序盤

【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第3局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で37手指した局面
point
38手目:形勢判断と候補手
互角:△4四歩、△5二玉、△6三銀、△4一飛 など
38手目で△4四歩と突いて、先後同型を維持する手は有力ですが、
先手に▲4五歩という仕掛けを与える意味合いもあります。

本譜は△6三銀と引いたので、
なるべく争点を与えずに手待ちをするという方針が明らかになりました。




【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第3局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で42手指した局面
point
43手目:形勢判断と候補手
互角:▲4五桂、▲6七銀、▲4五歩 など
43手目で▲7九玉と引けば、千日手にすることはできますが、
折角の先手番なので、何とか動いていきたいところです。

後手から仕掛けてくることはないので、▲6七銀と引いてから▲5六歩と突き、
ゆっくりと陣形を押し上げていく指し方は有力です。

本譜は▲4五桂と跳ねて、積極的に仕掛けました。



中盤

【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第3局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で43手指した局面
point
44手目:形勢判断と候補手
互角:△2二銀、△4四銀
▲4五桂に対して「桂先の銀定跡なり」で△4四銀と上がるのは、
この局面を含めて、ほとんどの場合で有力です。
但し、2筋が手薄になるので、2筋の歩交換の後、先手が▲2五角と打って、
▲3四角~▲2三角成と前進させる、言わば棒角の含みが生じます。

本譜は△2二銀と引きました。壁銀なので形は悪いですが、
先手の攻め筋をなるべく潰して、少しでも無理気味な攻め方に誘導します。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第3局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で49手指した局面
point
50手目:形勢判断と候補手
互角:△3三桂、△6六歩
50手目で△5四歩と突けば、5五の銀の退路はありませんが、
▲9七角と王手で攻め駒を足されて、
玉のこびんがあいたことを咎められてしまいます。

本譜は△3三桂と跳ねました。
先手の4五の桂が働いているので、桂交換になれば不満はありませんし、
2筋の壁形が解消されて△3一玉~△2一玉という、
逃走ルートを確保することもできます。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第3局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で51手指した局面
point
52手目:形勢判断と候補手
互角:△3六角
51手目の▲1八角は「遠見の角」と言われており、
遠く8一の飛車を睨んで厳しい狙いも多いので、
角には角」で△3六角と合わせて消しておきます。

結果として、後手の3筋の歩が1マス前進することになりますが、
現状での損得判断はかなり難しく、今後の展開次第です。
先手としては「歩を上ずらせた」、後手としては「歩が伸びた」
と主張できるようにお互いに構想を練ります。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第3局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で54手指した局面
point
55手目:形勢判断と候補手
互角:▲5三桂成、▲2四歩
55手目で▲3三桂成と交換する手も考えられますが、
2二の銀はなるべく動かしたくないですし、△6六桂の反撃も気になります。

本譜は▲5三桂成としました。
数が足りていないので桂損の攻めにはなりますが、
△同金でも△同玉でも形が乱れますし、
1歩手に入れば▲6四歩や▲3四歩という手が生じるので、攻めは続きます。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第3局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で65手指した局面
point
66手目:形勢判断と候補手
互角:△2五桂、△2三銀 など
後手は駒得の代償として、6三の突破が受かりません。
「受けがない時は受けない」のが基本なので、玉を逃げ出す準備をします。

本譜は△2五桂と跳ねました。
△3三玉を用意しつつ、▲2四飛の活用を防いでおり、の良い手です。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第3局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で71手指した局面
point
72手目:形勢判断と候補手
互角:△8六歩、△6六歩
72手目で△同桂不成として、手拍子に金を取ってしまうと、
▲2四飛と走られて、後手玉が狭くなってしまいます。
金は欲しいのですが、先手に飛車を活用される方が厳しいので、
一旦、質駒として残したうえで、手抜きづらい攻めを探します。

ここで△6六歩と突いて、△6五桂左の活用を見せる手は有力です。
駒取りを受ける目的で自陣に打った桂がポンポンと跳ねて、
今度は攻めに利いてくる、というのは非常に良い駒の働かせ方です。

本譜は、持ち駒に歩がたくさんあることを生かし、△8六歩の突き捨てから、
叩きの歩継ぎ歩の手筋を駆使して、先手の囲いを崩しにかかりました。
途中で3七の金に逃げられたとしても、その1手を生かして攻め続ければ、
攻守を逆転することができるので、問題はありません。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第3局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で82手指した局面
point
83手目:形勢判断と候補手
互角:▲7七桂、▲8八金打
83手目で本譜は▲7七桂と跳ねました。
相手がうっかりしてくれれば、次に▲9九飛と馬を取ることができます。
香を取られながら馬を作られるのは痛いのですが、
一段飛車と桂跳ねの組み合わせで、馬を封じ込める手順はよく出てきます。

但し、本譜の場合は△9八角と王手で迫られる手が見えているので、
▲8八金打と手堅く受けて、▲7七桂を含みに残した方が実戦的には無難です。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第3局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で89手指した局面
point
90手目:形勢判断と候補手
互角:△同馬、△9九飛、△7九馬、△9五歩
90手目で△7九馬と逃げる手はありますが、▲8九金打 △6九馬
▲8七銀のように徹底的に粘られると、迫りづらくなってしまいます。

よって、馬を逃げない手から考えることが重要で、△同馬は有力です。
▲同玉で先手玉は少し広いのですが、△6六歩や△6六香と迫る手が確実です。
本譜は△9九飛と打ちました。
攻め駒を盤上に増やしつつ、合駒請求で先手の戦力を削ぐこともできます。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第3局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で97手指した局面
point
98手目:形勢判断と候補手
互角:△3一玉
98手目は「中段玉は寄せにくし」で△3三玉と逃げたくなりますが、
▲7三角成の後に▲3五桂と打たれると、意外に後手玉が狭いです。

本譜は△3一玉と引きました。成銀が動くと開き王手のかかる怖い形ですが、
後手玉が詰む訳ではないので、銀の入手が見込めるという読みです。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第3局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で109手指した局面
point
110手目:形勢判断と候補手
後手有利:△7九銀、△9一飛、△6一飛
110手目で△9一飛と回る手は考えられますが、
詰めろになっていないので、攻め合いに持ち込まれる恐れがあります。
できれば8一の飛車は見捨てて、一気に寄せを目指したいところです。

攻める場合、△9五香といきなり王手をしてしまうと、
▲8六玉とかわされて「王手は追う手」になってしまいます。

他に△7六馬と先手玉に近づける手は考えられますが、
馬の後手陣への利きが逸れると、後手玉も危なくなりますし、
▲8七金打のようにガッチリ受けられても、攻めの継続に困ります。

やはり、9九に打った飛車が働かなければ、先手玉を寄せることは難しそうです。
具体的には「△9八飛成の実現」が必要ですので、
それを邪魔している8八の金を狙って△7九銀と打つ手が有力です。




終盤

【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第3局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で119手指した局面
point
120手目:形勢判断と候補手
後手勝勢:△3三歩
120手目で「安全になりたい」という一心で△同馬と取ってしまうと、
先手玉の詰めろが解除されるので、▲3五香の田楽刺しを食らいます。
形勢が良くなるほど、安全勝ちへの意識は強くなりがちですが、
それが逆転要素になることも意識して、過剰な受けは避けるようにします。

本譜は△3三歩と打ちました。
玉が薄いので王手は続きますが、詰みはありません。
不詰めを読み切ることは難しいですが、
「△同馬以外の対応で詰まされたら仕方がない」程度に考えておきます。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第3局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で129手指した局面
point
130手目:形勢判断と候補手
後手勝勢:△8七歩成
7八にいた後手の馬は外されてしまいましたが、
持ち駒に金が増えているので状況は変わっています。
後手玉には適当な受けがないので、
しっかりと先手玉を詰ますしかありません。

先手玉は上に広いので、△9五香と押さえつける手は見えますが、
いきなり打つと▲8六玉とかわされて有力な王手が続きません。

△9八飛成 ▲同玉と下段に落としてから△9五香の方が有力ですが、
▲9七金打と合駒をされると金が2枚横並びになった形が堅くて詰みません。

よって、ここでは△8七歩成として金を取るしかありません。
▲同玉ならば、今度こそ△9八飛成~△9五香で詰みます。
▲9六玉だと上部に逃がしてしまいますが、
豊富な持ち駒と8一飛の最終防衛ラインを生かして詰まします。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第3局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局の投了図
142手にて、先手の藤井七段が投了し、
渡辺棋聖の1勝、藤井七段の2勝となりました。

投了図以降、後手の8一の飛車と8六の角がよく利いていることで、
先手玉は狭いので、▲同玉は△9一金、▲7三玉は△8三金と打てば、
持ち駒に金銀が残っていることもあり、先手玉は詰みとなります。

尚、感想戦で1局を振り返る場合、
盤上に残った駒からポイントとなる局面を絞ることもできます。

例えば、この投了図では、結果的に▲8二歩が残っており、
8一の飛車が逃げることもなく、また取れることもありませんでした。

つまり、▲8二歩自体が少し甘かったか、
あるいは、その前後に問題があって噛み合わなかった、と推測することができます。

本局では、渡辺棋聖の、
反撃開始からの踏み込みの良さが非常に勉強になりました。


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