【将棋解説】
第60期王位戦七番勝負第6局 豊島王位vs木村九段

目次



対局情報

棋戦
第60期王位戦七番勝負 第6局
対局日
持ち時間
8時間(2日制)
対局者
豊島 将之 王位(二冠)<後手>
木村 一基 九段<先手>
戦型
相掛かり
対局場所
神奈川県:元湯 陣屋

局面解説

序盤

point
17手目:形勢判断と候補手
互角:▲2七銀、▲6八玉、▲5八玉 など
先手としては攻めに歩を使える筋を増やしたいので、
▲4六歩や▲3六歩と突きたいところですが、
いずれも△8六歩 ▲同歩 △同飛から、突いた歩を飛車で取られてしまいます。

先手は既に▲9六歩と突いてあるので、
8筋の歩交換に対して▲8七歩と打たなくても角は捕まりませんが、
逆に△8七歩 ▲9七角となると、△9五歩の仕掛けがあって忙しくなるため、
9筋を突き合っている状態では、実質的に▲8七歩と受ける1手です。

よって、先手の右銀は2七に進むこととなりますが、後手の△9四歩には、
「先手に棒銀を強要する」という意味合いが含まれていたことが分かります。




point
24手目:形勢判断と候補手
互角:△3六飛、△8五飛、△8二飛 など
24手目で本譜は△8五飛と引きました。
引き場所は△8二飛や△8四飛も有力です。
△8五飛は少し狙われやすいですが、7筋を突き合う可能性は高いので、
△7五歩から1歩を交換する含みがあります。

尚、ここでは△3六飛と切ってしまう指し方も有力です。
▲同歩に△5五角と飛び出せば、先手は飛車取りの対応に困ります。

▲1八飛とかわすと△2七銀から攻めが続くので、
先手は飛車取りを回避することができません。

▲2六飛打のように持ち駒の飛車を手放せば無難ですが、
後手はギリギリまで飛車を取らずに陣形整備を行います。

▲3八金と上がって飛車に紐を付ければ、△2八角成 ▲同金
△3九飛 ▲4八玉 △3六飛成 ▲3八金のように進む手順が有力です。
いずれの変化も後手が駒損ではありますが、
陣形の良さと進展性で優位に立っているため、バランスは取れています。

合駒が悪いことを見越して、駒損覚悟で飛車のコビンを攻める手順は、
石田流や中飛車のような対抗形でも現れる変化で、戦型を問わず要注意です。



point
25手目:形勢判断と候補手
互角:▲7六歩、▲6八玉 など
25手目で先手が▲2五銀を急ぐのは、少し損です。
棒銀の主な目的は銀交換か2筋の突破ですが、そのいずれも実現できません。
先手が角道を開けていない場合の棒銀の受け方として、
まず▲2五銀に対しては、次の▲3四銀を防ぎます。

具体的には△8四飛と引いて、飛車の横利きで紐を付けるか、
あるいは△5五角と出て△3六歩を見せることでけん制します。
▲3四銀を防がれた先手が攻め続けるとすれば▲2四歩 △同歩 ▲同銀ですが、
そのタイミングで後手は△4四角とします。
これで▲2三銀成と成り込まれても、
△2七歩~△2六歩と連打して飛車先を止めることができます。




中盤

point
33手目:形勢判断と候補手
互角:▲2二角成、▲7七金 など
後手からは次に△9七歩と垂らす手が有力で、
▲同香 △9六歩 ▲同香となると、△7六飛の香取りが受けづらいです。
本譜は▲2二角成~▲7七金として、
相手に動かれる直前に自分から動きました。

33手目では単に▲7七金も有力です。
金が上ずると自玉が薄くなるので指し方は難しくなりますが、
後手の飛車にプレッシャーをかけて忙しくさせることで、
五段目の飛車を咎めつつ、△9五歩を緩手にする狙いがあります。



point
41手目:形勢判断と候補手
互角:▲5九玉
41手目で▲5八玉は△6七と が王手銀取りになりますし、
▲6九玉は△6五飛から6七に成駒を作られると危険な形です。
消去法で考えても▲5九玉しかありませんが、
相手の成駒に対して斜めに離れながら玉を逃げる手は、
物理的な距離と同じで1.4マスくらい離れる感覚であり、
相手からの追撃が少し遅れることが多いです。

王手をかけられて逃げるときの対応は勝ち負けに直結することも多いので、
ノータイムでも間違えないように正しい感覚を磨いておくことが重要です。



point
52手目:形勢判断と候補手
互角:△5七と
52手目では△5七と と寄る手が有力です。
現状、後手は飛車桂交換で大きな駒損なので と金の存在は重要です。
但し、先手の5七の歩を取るということは、
将来的に▲5四歩からの反撃が生じることを覚悟する必要はあります。

本譜は角打ちによる両取りを含みに駒損の回復を急ぎましたが、
先手玉が広くなったため、かなり寄せづらくなってしまいました。



point
61手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲4六角、▲5八金、▲6六歩、▲7四歩 など
61手目で攻めを見せるならば▲7四歩が有力ですが、
△6五桂と逃げられると、△7七歩の叩きが生じるため、少し指しづらいです。
現状、後手陣はバランス良くまとまっている反面、先手陣はバラバラなので、
一直線の攻め合いは1つのミスで逆転してしまう恐れがあります。
特に先手は攻め込む際の主力が大駒になりそうなので、
離れ駒が多いというマイナスは後で響いてくる可能性が高いです。
よって、ここでは離れ駒である3五の銀や4九の金に着目して、
自玉方面へ引き付けることを考えます。

後手の攻めがもう少し激しいと、中盤の陣形整備はジリ貧になりやすいですが、
現局面ではダメージよりも回復量が多いので、差を広げることができます。

本譜は▲5八金としました。3五の銀を引き付ける場合は、
単に▲4六銀だと△4七馬が銀取りで忙しくなるので、▲4六角と合わせます。



point
74手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:△5八桂成、△6四馬
74手目では△5八桂成と王手で金を取ってから△6四馬と引いた方が、
金の取り逃しがないので最善であると言えます。

本譜は先に△6四馬と引きました。
5八の金に逃げられてしまうと戦力的にはさらに厳しくなりますが、
6六に桂の拠点が残るうえに△7八歩で飛車を押さえ込むことができるため、
局面が複雑になって逆転を狙いやすく、実戦的な指し方です。



point
81手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲4六銀、▲2六銀 など
81手目で▲同銀と取ってはいけません。
先手も金駒は欲しいですが、後手の方が駒不足は深刻です。
さらに、盤上での価値を考えても、2四の銀の方が働きが弱いです。

よって、後手の方が持ち駒に変わった時の価値の上がり幅が大きいため、
交換を拒否して盤上に残しておいた方が、先手にとって得と言えます。




終盤

point
87手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲3八桂、▲2八歩 など
87手目で本譜は「大駒は近づけて受けよ」で▲2八歩と打ちました。
△同飛成に▲3七銀とすれば飛車取りとなるので手番を握ることができます。

但し、この局面の受けとしては▲3八桂の方がわずかに勝っています。
桂を手放すのは少しもったいないようですが、
2八に近づけてしまうと△2五竜と引くだけで粘られてしまいます。
これが1八にいる状態ならば、竜を中段に引いて粘るとしても、
△1七飛成~△1五竜で2手かかります。先手は桂を2枚持っていることもあり、
そのうちの1枚を手放すマイナスよりは、1手の価値の方が大きいです。



point
99手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲6七歩、▲7六角、▲7六銀、▲7三歩 など
99手目で先手が気になるのは「鬼より怖い両王手」の△5八桂成です。
現状では後手の持ち駒が少ないので無理気味ですが、
桂香の形はしばらく残りそうなので、一撃必殺の寄せ筋になる恐れはあります。

ここで無難に受け切って勝つならば▲6七歩と打つ手が有力で、
両王手を防ぎつつ、桂取りの先手にもなっているため、
ただでさえ攻め筋に困っている後手は、さらに困ることとなります。

本譜は寄せを目指して▲7三歩から拠点を作りにいきました。



point
111手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲同玉、▲7七玉、▲7八玉
111手目では▲7七玉~▲8六玉と逃げ出せば、中段玉で安全になり、
それでも先手の勝ちは揺るぎませんが、
△3九竜 ▲同金から△5九飛~△3九飛成~△3六竜のように
金駒をボロボロと取られてしまう手順が気になります。

後手に金駒を渡しても先手玉は安全ですが、
粘るために使われてしまうと勝負が長引いてしまいます。

本譜は▲同玉と取りました。自玉が狭くなるので少し怖いですが、
見切っているならば駒を取った方が勝ちに近づきます。



119手にて、後手の豊島王位が投了し、
豊島王位の3勝、木村九段の3勝となりました。

投了図で、後手玉には詰めろがかかっており、
また と金に迫られているため、受けても1手1手です。
先手の持ち駒に金駒がないので詰み筋は少し難しいのですが、
投了図からは▲4四桂と捨てるのが好手です。

余力のある人は▲4四桂を省略した場合に、
どの変化で詰まなくなるのかを考えてみてください。

但し、後手が次に△7九竜と銀を取ったとしても、
先手玉には詰めろがかかっていません。
実戦的には「長い詰みより短い必至」で、
▲7二と と迫って、分かりやすく先手の勝ちです。

本局では木村九段の、相手に攻めさせて受け切る力強さが非常に勉強になりました。


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