【将棋解説】
第60期王位戦七番勝負第5局 豊島王位vs木村九段

目次



対局情報

棋戦
第60期王位戦七番勝負 第5局
対局日
持ち時間
8時間(2日制)
対局者
豊島 将之 王位(二冠)<先手>
木村 一基 九段<後手>
戦型
角換わり腰掛け銀
対局場所
徳島県:渭水苑

局面解説

序盤

本局は先手が豊島王位、後手が木村九段です。
戦型は本シリーズで初めての角換わり腰掛け銀で、
先手4八金&2九飛、後手6二金&8一飛の形となりました。
1日目で82手まで進んだことからも、かなり研究が進んでいることが分かります。



point
43手目:形勢判断と候補手
互角:▲6八金、▲2八飛、▲3八金、▲5八金 など
後手が△4一飛と回ったため、▲4五歩と突いて仕掛けることはできません。
現状だと他の仕掛け方も難しいので、先手は手待ちをすることになります。
▲6八金や▲3八金は先手陣に隙が生じないので無難ですが、

本譜は▲5八金と寄りました。右金が飛車から離れて隙が生じるので、
角換わりにおいて「5八金&2九飛」は原則として悪形です。
但し、▲8三角~▲7四角成が狙える状態であれば、
誘いの隙となる場合もあります。




point
44手目:形勢判断と候補手
互角:△8一飛、△4二玉、△3八角、△6三銀 など
44手目は一目△3八角と打ってみたいです。先手は飛車を逃げるしかありませんが、
△2七角成か△4九角成のいずれかが実現します。
先手が馬を捕まえるとしたら角を手放す必要があり、角交換にはなりますし、
その過程で先手の攻撃陣が後退するため、後手が手得をすることができます。
よって、作った馬はしばらく残りそうですし、
先手の駒組みや仕掛け方を制限することができる点は大きいです。

但し、相手が研究していそうな場合は警戒する必要があります。
ここで迷うこと自体も相手の作戦にハマっていると言えるため、少し損です。
冷静に考えれば、先手は仕掛けがなくて手待ちをしているだけなので、
後手も無理に動かず、△8一飛のように手待ちをする指し方も有力です。
このような場合の基本方針として、挑発に乗るのか、それとも無視するのか、
自分の中で事前にある程度決めておくことは意外と重要です。




中盤

point
48手目:形勢判断と候補手
互角:△3九馬
48手目は△3九馬と寄る1手です。
他の手だと▲2九飛と引かれて、馬の逃げ場がありません。

仮に後手の持ち駒が豊富でも同様の筋には注意が必要です。
歩・香・桂は合駒できませんし、馬に紐を付けて助けたとしても、
その駒が盤上に残って遊びやすいため、苦しい受けになることが多いです。



point
50手目:形勢判断と候補手
互角:△6三金、△6三銀、△6三玉
後手は次の▲7四角成を防ぐ必要がありますが、
7四に利きを足す△6三金、△6三銀、△6三玉のいずれも有力です。
先手の基本的な狙いは▲7五歩 △同歩 ▲5六角成です。
1歩損ですが、先手の方が馬が働いているため、バランスは取れています。
先程、後手が馬を作った際、5八の金を守るために▲4七銀と引いた手は、
5六に角を成るスペースを作る、という意味合いもあったのです。

本譜は△6三金と上がりました。
これには▲7二角成も有力なので、相手を迷わせることもできます。



point
63手目:形勢判断と候補手
互角:▲4五桂、▲2四歩、▲1五歩
先手は▲7四歩と打つ手を狙いたいです。
但し、現状は歩切れですので、どこで歩を入手できるか考えます。
本譜は▲4五桂としました。
先に桂を渡しますが、▲7四歩と打てば取り返せるので問題ありません。
後手からの△7六桂の王手は続く攻めがないため、特に怖くありません。
気にすべきは飛車取りの△3四桂ですが、しばらくは先手の攻めが速いです。

63手目で他に考えられそうなのは▲1五歩 △同歩 ▲同香で、
端から1歩を入手するのはよくある手筋ですが、本譜の場合は疑問手です。
以下、△同香に▲7四歩と打っても△7二香と打つのが攻防手で、
▲7三歩成 △同香となると△7六歩からの逆襲が生じてしまいます。

現状で後手は持ち駒に歩を3枚も持っており、
これ以上歩を渡しても使い道が増えづらいため、
この段階で▲2四歩や▲1五歩と突き捨てを入れておく手は有力ですが、
歩の入手先は4五だけになります。



point
73手目:形勢判断と候補手
互角:▲7四歩、▲2四歩
73手目は▲7四歩と打つ手が有力です。一時的に歩切れにはなりますが、
△同歩 ▲6四馬となれば解消されるため問題ありません。

現状で飛車の働きを見ると先手の方が悪いため、
先手は後手よりも早く馬を活用するようにして、形勢の悪化を防ぎます。



point
80手目:形勢判断と候補手
互角:△4六銀
80手目で△2六桂と飛車を取ってはいけません。▲4五歩と銀を取られた後、
▲3四歩 △同銀 ▲4四桂で王手金取りとなる攻め筋が受けづらくなります。
先手玉は堅いので、飛車があっても詰めろすらかかりませんが、
後手玉は薄いので、馬に金駒2枚と歩があるくらいで簡単に食い付かれます。

ここは△4六銀と突き進んで▲同銀に△2六桂の手順が有力です。
これで単に△2六桂とするよりも先手陣の連結が少し弱まっているうえに、
先手の拠点が4五から4六に1マス下がっています。

本譜は△5四銀と引きましたが、やや消極的でした。
▲2七飛と逃げられると、先手の飛車は捕まらず、後手からの攻めは細いです。
また馬の働きの差をなかなか解消することができません。



point
91手目:形勢判断と候補手
先手有利:▲同銀
91手目は▲同銀と取る手が自然で有力です。
さすがに歩で囲いの銀をのは痛いです。
但し、△6六馬 ▲7七金 △5五馬となると、▲6四桂の攻め筋が消え、
後手の馬が広く守りに利いてくるため、長い戦いにはなります。

本譜は▲7二歩成としました。
後手の馬を活用させないという方針で一貫しており、非常に実戦的な手です。



point
98手目:形勢判断と候補手
互角:△3一玉
98手目は「玉の早逃げ八手の得」で△3一玉と逃げる1手です。
4一の飛車の利きが通って攻めに使えるようになりますし、
▲2二歩の打ち捨てで形を崩される恐れもなくなります。
こうなると7二の成桂が少し遠い感じはしますが、
後手は成桂を寄せられる手が間に合うと負けなので、少し忙しいです。




終盤

point
110手目:形勢判断と候補手
互角:△2八成桂
110手目では△2八成桂と寄って飛車をいじめつつ、
△1九成桂と香を取って攻めを緩和させる指し方が有力です。

本譜は△同歩と取りました。先手は歩切れなので、取っても問題なさそうですが、
6七の馬まで攻めに参加することで、後手玉に食い付く手順がありました。



point
121手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲5五銀
121手目では▲5五銀と真っすぐ進むのが好手で、
それ以外の手では先手の攻めが切れてしまいます。
これで通った馬の利きが強烈で▲3三歩成からの詰めろになっているため、
後手がこの銀を取る余裕はなく、先手は銀を1枚補充する目途が立ちました。
△2四歩と飛車を取られても、▲3三歩成とさらに馬の利きを通してから、
金を打って上から押さえつけていくことで、後手玉は寄り筋となります。



point
125手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲3一銀
先手は▲3三歩成~▲4四飛で2四の飛車取りを回避できますが、
125手目で▲3三歩成は△同玉で4四の飛車に紐が付き、飛車交換となります。

ここは▲3一銀と捨てるのが手筋です。
△1二玉は▲2二金から詰み、△1三玉は▲1四金から詰みなので、
△同玉と取るか、△3二玉と寄って▲2二金 △4一玉となりますが、
いずれも玉が下段に落ちて、▲3三歩成が詰めろ飛車取りで厳しくなります。



131手にて、後手の木村九段が投了し、
豊島王位の3勝、木村九段の2勝となりました。

投了図以降、後手は4一に金か銀を合駒するしかありませんが、
▲2四歩のように上から押さえて、後手玉を上部に逃がさなければ、
詰めろをかける必要がないほど余裕があり、攻めが切れることもありません。

本局では豊島王位の、針の穴を通すような正確な寄せが非常に勉強になりました。


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