【将棋解説】
第60期王位戦七番勝負第4局 豊島王位vs木村九段

目次



対局情報

棋戦
第60期王位戦七番勝負 第4局
対局日
持ち時間
8時間(2日制)
対局者
豊島 将之 王位(二冠)<後手>
木村 一基 九段<先手>
戦型
相掛かり
対局場所
兵庫県:中の坊瑞苑
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局面解説

序盤

本局は先手が木村九段、後手が豊島王位です。
戦型は相掛かりから、角換わり模様の展開となりました。



point
35手目:形勢判断と候補手
互角:▲4五銀、▲7七銀、▲9六歩、▲1六歩、▲2五銀 など
35手目で後手が△7四銀と上がれば先後同型ですが、現局面は先手番なので、
角交換をした後手が2手遅れていることが分かります。
では手得している先手が良いかと言うと、必ずしもそうではありません。
これは先手が3六に銀を上がったためです。
角交換後の理想形は、右桂の使いやすい腰掛け銀なのですが、
組み直すと▲3六銀が無駄な手になるので、手得が相殺されてしまいます。

本譜は▲3六銀を生かして▲2五銀から棒銀にしました。
後手としては低い陣形で銀交換に備えて、増えた持ち駒で反撃を狙います。




point
37手目:形勢判断と候補手
互角:▲7七銀、▲7七角、▲5六角 など
37手目で▲2四歩から銀交換をしても、
攻めの銀と守りの銀の交換なので悪い訳ではないのですが、
現状では継続する攻めがないので、後回しにした方が良いです。

少し手厚く攻めるならば▲5六角と打つ手は有力です。
これで▲3四銀は受かりませんし、
▲2三角成から2筋を突破する含みもあります。
これに対しては1回△7四角と合わせて、▲同角 △同歩と1手得しておいて、
再度の▲5六角に△5四角と打つのが受けの手筋です。
▲3四銀は△同銀と応じてから△2七銀、
▲2四歩は△同歩 ▲同銀に△2七歩と打てば、先手の飛車先が止まります。

本譜は▲7七銀と上がりました。
価値の高い1手なので、仕掛ける前の段階で確実に指しておいた方が無難です。



point
44手目:形勢判断と候補手
互角:△9四歩、△2四歩、△3一玉、△3五銀
後手が攻めるならば、4六の銀を生かして5七の地点を狙いたいところです。
狙うと言っても、すぐに△3九角と打つのはさすがに乱暴で、
▲3八飛と丁寧に受けられて攻め駒が足りませんが、
△2四歩と突いて先手の棒銀を逆用する手は有力です。

1歩損ですが、銀を入手できるうえに、△3三桂~△4五桂と活用できれば、
攻めに厚みが増します。本譜は△9二角と打って4七の地点を狙いました。




中盤

point
50手目:形勢判断と候補手
互角:△4七銀不成、△7四角 など
50手目では△4七銀不成と攻め込む手が有力です。
本譜は△4七銀成としました。
銀を成った方が5八の金と交換しやすくなりますが、
ここでは不成として5六の角に紐を付けていた方が勝っていました。



point
51手目:形勢判断と候補手
互角:▲2六飛
51手目で▲6八金右と逃げると、△3八成銀が飛車桂両取りとなり、
そこで▲2六飛と逃げても△4七角成と馬を作られてしまいます。

ここは先に▲2六飛と浮くのが好手です。
5六の角取りなので、後手は角を逃げますが、
手の意味として、角を取られないようにするだけなので、価値が低いです。
一方、先手は△3八成銀の攻め筋を防ぐことができており、
2八に飛車がいるよりも攻め合いやすい形になっています。

もし1手前が△4七銀不成であれば、▲2六飛は疑問手です。
△5八銀成が残っている状態で、△2四歩から飛車を狙われてしまいます。



point
62手目:形勢判断と候補手
先手有利:△1二歩
62手目は△1二歩と手堅く受ける手が有力です。

△2四銀と上がる手は▲1三歩成に△1五銀と香を取ると、
さらに飛車取りになるのでが良さそうに見えるのですが、
▲2三飛成 △同金 ▲同と と強く攻め込まれると
「持ち駒の角金桂+と金」で「4枚の攻めは切れない」となり先手優勢です。

△5一玉のように早逃げをすれば先は長いですが、
先手玉は堅いので、飛車を渡しても反動が少ないです。
あとは無理をせずに少しずつ後手玉に迫っていけば、
後手が先手に駒を渡しづらいこともあって、十分に寄せが間に合います。



point
68手目:形勢判断と候補手
先手有利:△1四歩
68手目では△5八成銀と寄って、成銀を6八の金と交換したいところですが、
▲3六銀と引かれると馬が狭く、駒の取り合いをせざるを得ない状態となり、
拠点を失ったうえに、駒損という結果が残ってしまいます。
本譜は△1四歩と突きました。拠点を失うと相手に楽させてしまうため、
特に形勢が悪いときは、ギリギリまで攻めを我慢することも必要です。



point
77手目:形勢判断と候補手
先手有利:▲5九香、▲6九角
駒の清算が終わって、盤上は少しさっぱりとした形になりました。
現状は先手の持ち駒が少なく、後手陣があまり崩れていないため、
▲1三歩や▲7五桂のように攻めの拠点を作りにいくだけの手では、
丁寧に受けられてしまうと攻めの継続が難しくなります。

77手目は「下段の香に力あり」で▲5九香と打つ手が有力です。
目先の△5七銀を防ぎつつ、
▲5六飛や▲7一角との連携で5三を狙っている攻防手です。

本譜は▲6九角と打ちましたが、これも有力です。
この角が封じられてしまう恐れは少ないですし、相手の攻め駒を狙うことで、
力を溜める余裕のなくなった相手からの無理攻めを誘えば、
受けやすい状態ですし、攻めるための持ち駒を増やすこともできます。



point
83手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲7五桂
83手目で▲3八香と逃げると△4八馬と引かれた手が角取りで、
返って先手が忙しくなってしまいます。
現状で先手は桂得ですし、香を取られた次に厳しい手は来ないので、
無理に助ける必要はありません。

このタイミングで4七の角の後手陣への利きを生かして攻めたいですが、
▲8三銀では△6二飛とかわされて、次がありません。
ここは▲7五桂と打ち、8三には成桂で攻め込む方が厳しいです。
△7四銀と打っても▲8三銀と打ち込めるので受けになっていません。
攻め駒が少ない場合は、安い駒から使った方が攻めが続きやすくなりますし、
先手は玉が堅いので遅い攻めでも十分に間に合います。



point
95手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲3六歩、▲5五歩
先手は5四の銀をどかして、▲6三銀を実現したいところです。
銀は歩で叩かれると好位置をキープしづらいので、
▲5五歩 △4五銀 ▲4六歩と打てれば良いですが、1歩しかありません。

本譜は▲3六歩と突きました。
次に▲3五歩と突けば、1歩の入手が約束されます。



point
106手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:△4三銀、△4五銀
106手目で△4五銀と上がっても、▲4六歩と打たれることはありませんが、
3七の歩がいなくなった効果で▲3七桂と跳ねられてしまいます。

本譜は△4三銀と引きました。▲6三銀から突破されてしまいますが、
先手に余計な駒を渡さない分、粘りやすくなります。




終盤

point
116手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:△同飛
116手目で△1一飛のように逃げれば、駒損は避けられますが、
▲5二金 △同玉 ▲5四馬で、先手に金駒を渡したうえに、
上部から押さえられてしまい、入玉の望みがなくなってしまいます。

本譜は△同飛と取りました。
駒損は痛いですが、手番を握り、入玉経路の確保を優先します。



point
123手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲同飛、▲2八飛
123手目で▲同飛として、正確に指し続ければ入玉を阻止できますが、
1手でも間違えてしまうと入玉されてしまうため、リスクが高い手です。
後手に入玉された場合、飛車を切った手は「飛車金交換の駒損」よりも、
「4点損した」ことの方が大きく、宣言による勝ちが遠のきます。

本譜は▲2八飛と引いて、飛車を取らせる間に9二の馬を取ることで、
相入玉を見越した点数の確保を優先しました。



後手は玉の上部が厚く、先手の持ち駒が少ないため、入玉が確定しました。
先手は思考を切り替えて「入玉宣言法」による勝ちを目指します。
ここからは大駒を5点、小駒を1点とカウントする駒取り合戦のスタートです。

入玉宣言法は入玉及び点数で勝負を決めるルールですが、
プロは引き分けになる場合もあり、アマとは少しだけ条件が異なります。
今回の勝利に必要な点数条件は「①相手陣内に玉以外の駒が10枚以上」かつ
「②持ち駒と相手陣内にいる駒の点数の合計が31点以上」です。



駒の損得がない状態で27点ですので、
少なくとも角得程度の差がないと勝ちを狙うことができず、厳しい条件です。



点数を確保するためには、自陣の駒をタダで取られないことが重要で、
小駒は と金とでも交換できれば、価値が同じなので問題ありません。
そして相手の駒は連結を解除しながら大駒で回収していくのが基本です。
また相手陣目指して前進している駒は浮きやすいので狙い目です。

入玉将棋では、通用しなくなる手筋も多く、
小駒同士の交換だけで終わってしまう手は基本的に価値が低いです。



point
205手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲1六飛、▲1五飛、▲3三と など
205手目で本譜は▲1六飛と打ちました。
これは「王手歩取り」ですが、相入玉の将棋では1点を稼ぐための手筋です。

他に珍しい手筋として、例えば金駒3枚を犠牲にして大駒1枚を捕まえると、
通常では大損ですが、入玉将棋においては2点の得です。



先手も一直線で入玉して安心したいところですが、
点数確保のために自陣の駒を取られないようにする必要があります。
また、入玉宣言法では、盤上の駒は相手陣内に入らなければ
点数としてカウントされないため、駒交換に持ち込んで持ち駒にするか
少しずつ前進させていかなければならず、
実際「入玉」よりも「入歩」や「入香」の方が難しかったりします。



孤立すると取られやすくなるので、
盤上の駒で連携しながらバランス良く前進させることも重要です。

入玉宣言法は、宣言した側が勝ちを決めることのできるルールではありますが、
条件を1つでも満たしていない状態で宣言すると負けになります。



取れる駒が少なくなってきたら、あとは何度も点数と枚数を確認しましょう。
数え方も注意です。ここまで来たらカウントミスは許されません。



285手にて、後手の豊島王位が投了し、
豊島王位の2勝、木村九段の2勝となりました。

投了図以降、後手が引き分けに持ち込むためには、
小駒4枚か、大駒1枚を取る必要がありますが、その見込みはありません。
あとは先手が後手陣内に計5枚の駒を入るか打つかして(最低1枚は入る)、
「宣言します」と言えば勝ちですが、後手がそれを防ぐこともできません。

本局では木村九段の、勝ち方の切り替えと確実な点数確保が非常に勉強になりました。


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