目次
解説動画
棋王戦第3局
棋王戦第5局
対局情報
局面解説概要
序盤
以前は「飛車先の歩交換三つの得あり」と言われていて、
早めに▲2四歩と突くことが多かったです。
しかし、最近は手番を重視するようになってきたので、
歩交換を後回しにして、銀や桂を動かすことが増えました。
そのため、本局は角換わりに近い将棋となりました。
もちろん、飛車先の歩を交換しても1局です。
28手目:形勢判断と候補手
互角:△8八角成、△8六歩、△3四歩、△3六歩 など
先手は早繰り銀で攻めますが、28手目の局面では後手にいくつか受け方があります。
第1に、△8六歩 ▲同歩 △8五歩の継ぎ歩です。
▲8五同歩 △同飛となると3五の銀取りと△8六歩の垂らしがあります。
これは先手も▲4六銀と一旦引いておいてから、
角交換をして8筋を受けますが、やや穏やかな展開になります。
第2に、先手の攻め駒を呼び込む△3四歩です。
先の変化は少し難しいのですが、後手は2三の地点を突破されても
△2七歩 ▲同飛 △4五角のような手で、
2七の飛車と2三の成駒の両取りをかけて受けることができます。
第3に、カウンター狙いで△3六歩と垂らしておく手です。
先手は右桂を跳ねることができないと攻めが細いですし、
将来的に△3七歩成 ▲同桂 △3六歩という手順や、
△5五角のような飛車取りの手が受けづらくなるという狙いもあります。
これら3つの手は、直接2筋を受けている訳ではありません。
実は角交換をできる状態だと、見た目ほど2筋の突破は簡単ではないのです。
後手が居玉なので、逆に2筋から玉が遠いことと、
飛車の横利きが2筋まで通っていることもプラスになっています。
第4に、△8八角成 ▲同銀 △2二銀と2筋をしっかり受ける手です。
本譜もそうですが、これが最も堅実で、自然な手です。
どれも有力な指し手です。特に相掛かりや角換わりで
よく出てくる変化ですので、覚えておいて損はありません。
34手目:形勢判断と候補手
互角:△2五歩、△9五歩、△3四歩、△2三歩 など
少し落ち着いたので、非常に手が広い局面ですが、
34手目は△2五歩という手があります。
先手の4七の歩が浮いていることに着目し、もし飛車が2五にいれば、
△3六角で飛車取りと角成りの狙いが、両方同時には受からないという読みです。
先手は飛車が狭いので、取るのが最善ですが、
実際は後手が馬を作っても、その後の指し手が難しいのでいい勝負です。
角が持ち駒にある場合は、飛車の位置を歩で1マスずらすだけで
隙ができることも多いので、常に意識するようにしましょう。
41手目:形勢判断と候補手
互角:▲8六歩 など
ここも非常に手が広い局面ですが、
このような局面で▲8六歩は覚えておきたい手筋です。
△同飛は▲8五歩とふたをしておけば、後手の飛車が窮屈になり、
▲8二角と打つ手も生じるので先手優勢です。
後手は8六の歩を取ることができませんが、▲8七銀と指せば銀冠の完成です。
桂頭である7六の地点も守りながら、自陣に厚みを持たせることができました。
尚、
対抗形の銀冠とは異なり、必ずしも8八に玉を囲う訳ではありません。
57手目:形勢判断と候補手
互角:▲7五角
56手目の△6四角は待望の角打ちです。
先手の攻めをけん制しているだけでなく、8六の地点も狙っている攻防手です。
銀冠は銀の頭に歩を打たれると、形が乱れて急に弱体化します。
先手は▲7五角と合わせて後手の角を消すしかありません。
お互いに駒組みが難しい局面が続きます。
後手は、右銀が5四にいて、また右桂を跳ねていないので、
先手に攻めさせてからのカウンター狙いとなります。
先手は、先に攻める権利はありますが、
1筋の歩を突いていないので端攻めが絡まず、少し攻めが細いです。
下手に攻めると簡単に切らされてしまいますし、
ゆっくりしていると後手の攻めが間に合ってしまいます。
中盤
かなり難解ですが、先手はとにかく攻めるしかありません。
悪手の確率を減らすためにも、歩を使った攻めから考えるようにしましょう。
77手目:形勢判断と候補手
先手有利:▲3四歩
後手の角が狭いので、77手目は▲5六桂と打って取りに行きたくなりますが、
△7五角と出られると、8六に歩を打たれる手が生じてしまいます。
確かに駒得は大きいのですが、攻め合いになると後手陣が堅いので、
例え有利でも、1手で劣勢になりやすい将棋になってしまいます。
また、持ち駒の桂は、打てるならば3四の方が厳しいので、
将来の▲3四桂を含みに残しておきたいです。
よって、77手目は▲3四歩と打ってみたいです。
△2四銀は拠点が残りますし、△同銀も▲1六角から▲2六桂と指して
3四の地点に駒の利きを足していく手が厳しいです。
後手は駒損のうえ、陣形をバラバラにされてしまいました。
こうなると受け切りはかなり難しいです。
実戦的には入玉をチラつかせながら、
先手を焦らせて間違えてもらうしかありません。
攻めは一旦諦めて、自玉の上部に駒を多く配置するように意識しましょう。
97手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲5六飛
後手が連打の歩で飛車の利きを受けました。
この手筋は持ち駒に歩が多い場合によく出てきます。
歩の枚数が足りるか足りないかで厳しさが全然違いますので、
事前にしっかりと歩の枚数を数えておきましょう。
後手は駒損しているうえに、飛車の働きが悪く、敗勢です。
有効な指し手も少なく、大変厳しい局面です。
形勢が悪い場合、分かりやすい相手の攻めだけは
とりあえずしっかりと受けましょう。
あとは自分に都合の良い攻め筋を見つけて、
それを実現できるように少しずつ準備をしておきます。
負けを先延ばしにする手が必ずしもいいとは限りません。
相手が間違える確率を上げるために、
自分でも先が読み切れないような手を見つけて、
積極的に指すようにしましょう。
終盤
本局の場合、後手は、先手陣を薄くすることと
飛車を手に入れることを狙っていました。
先手は、良い形勢を維持するために、手堅い差し回しが増えましたが、
結果的に最善の寄せを何度か見送っています。
この実践心理はとても自然なことですが、
後手の勝負術が非常に巧みであったとも言えます。
136手目:形勢判断と候補手
先手有利:△5四金、△4三銀
135手目の▲4九歩が緩手で、形勢は一気に縮まりました。
後手に手番が回りましたが、1度しっかりと受けておけば、
あとは△1七竜や△7六歩など有力な手があります。
盤上の角は攻められると弱いです。
これで後手は入玉も寄せも狙えるようになりました。
大差の形勢が互角まで戻ると「気分は逆転」などと言われます。
しかし、勝勢だった側は反省会を始めてはいけません。
また、敗勢だった側は気を緩めてはいけません。
当たり前のようですが、かなり難しいことです。
しっかりと自分に言い聞かせるようにしましょう。
146手目:形勢判断と候補手
先手有利:△同銀成
146手目は△同銀成と取る手が有力です。
やはりお互いが持ち駒不足なので、
寄せが見えないときは駒を取っておく手が無難です。
また、先手の5九の角が攻防によく利いていますので
△8六同角と取らせることで1五から利きをなくすことができます。
本譜は△5七竜と迫りました。
しかし、当たりになっている角を1五に飛び出した後、
盤上の大駒をフル活用した絶妙な寄せがありました。
161手にて、後手の渡辺棋王が投了し、
渡辺棋王の2勝、永瀬七段の2勝となりました。
永瀬七段の冷静な対応と、するどい寄せが非常に勉強になりました。
棋譜
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棋戦:第43期棋王戦五番勝負 第4局
先手:永瀬拓矢七段
後手:渡辺明棋王
手数----指手---------消費時間--
1 2六歩(27) ( 0:00/00:00:00)
2 8四歩(83) ( 0:00/00:00:00)
3 2五歩(26) ( 0:00/00:00:00)
4 8五歩(84) ( 0:00/00:00:00)
5 7八金(69) ( 0:00/00:00:00)
6 3二金(41) ( 0:00/00:00:00)
7 3八銀(39) ( 0:00/00:00:00)
8 7二銀(71) ( 1:00/00:01:00)
9 9六歩(97) ( 0:00/00:00:00)
10 9四歩(93) ( 0:00/00:01:00)
11 3六歩(37) ( 0:00/00:00:00)
12 3四歩(33) ( 5:00/00:06:00)
13 3七銀(38) ( 0:00/00:00:00)
14 6四歩(63) ( 2:00/00:08:00)
15 7六歩(77) ( 9:00/00:09:00)
16 6三銀(72) ( 1:00/00:09:00)
17 4六銀(37) ( 6:00/00:15:00)
18 8六歩(85) (14:00/00:23:00)
19 同 歩(87) ( 1:00/00:16:00)
20 同 飛(82) ( 0:00/00:23:00)
21 8七歩打 ( 1:00/00:17:00)
22 8二飛(86) ( 1:00/00:24:00)
23 6八玉(59) ( 0:00/00:17:00)
24 5四銀(63) ( 7:00/00:31:00)
25 3五歩(36) ( 0:00/00:17:00)
26 同 歩(34) ( 1:00/00:32:00)
27 同 銀(46) ( 0:00/00:17:00)
28 8八角成(22) ( 5:00/00:37:00)
29 同 銀(79) ( 0:00/00:17:00)
30 2二銀(31) ( 0:00/00:37:00)
31 2四歩(25) ( 0:00/00:17:00)
32 同 歩(23) ( 0:00/00:37:00)
33 同 飛(28) ( 0:00/00:17:00)
34 3四歩打 ( 9:00/00:46:00)
35 4六銀(35) ( 2:00/00:19:00)
36 2三歩打 ( 0:00/00:46:00)
37 2八飛(24) ( 7:00/00:26:00)
38 4四歩(43) ( 1:00/00:47:00)
39 7七桂(89) ( 7:00/00:33:00)
40 4二玉(51) (18:00/01:05:00)
41 8六歩(87) ( 2:00/00:35:00)
42 4五歩(44) ( 6:00/01:11:00)
43 3七銀(46) ( 0:00/00:35:00)
44 6五歩(64) ( 0:00/01:11:00)
45 8七銀(88) ( 1:00/00:36:00)
46 5二金(61) ( 2:00/01:13:00)
47 5八金(49) ( 7:00/00:43:00)
48 3一玉(42) ( 2:00/01:15:00)
49 7九玉(68) ( 5:00/00:48:00)
50 4三金(52) ( 6:00/01:21:00)
51 4八飛(28) (25:00/01:13:00)
52 3三銀(22) (13:00/01:34:00)
53 4六歩(47) ( 0:00/01:13:00)
54 同 歩(45) ( 1:00/01:35:00)
55 同 銀(37) ( 0:00/01:13:00)
56 6四角打 ( 4:00/01:39:00)
57 7五角打 (10:00/01:23:00)
58 同 角(64) (14:00/01:53:00)
59 同 歩(76) ( 0:00/01:23:00)
60 2二玉(31) ( 0:00/01:53:00)
61 3七桂(29) ( 8:00/01:31:00)
62 6四角打 ( 1:00/01:54:00)
63 4九飛(48) (14:00/01:45:00)
64 8五歩打 (14:00/02:08:00)
65 同 歩(86) ( 3:00/01:48:00)
66 9三桂(81) ( 0:00/02:08:00)
67 2五桂(37) (19:00/02:07:00)
68 2四銀(33) ( 8:00/02:16:00)
69 3三歩打 (10:00/02:17:00)
70 同 桂(21) ( 2:00/02:18:00)
71 4四歩打 ( 2:00/02:19:00)
72 4二金(43) (14:00/02:32:00)
73 3三桂成(25) ( 1:00/02:20:00)
74 同 銀(24) ( 0:00/02:32:00)
75 3五歩打 ( 0:00/02:20:00)
76 同 歩(34) ( 0:00/02:32:00)
77 3四歩打 (23:00/02:43:00)
78 同 銀(33) ( 7:00/02:39:00)
79 1六角打 ( 8:00/02:51:00)
80 3三金(42) (21:00/03:00:00)
81 2六桂打 ( 0:00/02:51:00)
82 2五桂打 ( 0:00/03:00:00)
83 3四桂(26) ( 5:00/02:56:00)
84 同 金(33) ( 0:00/03:00:00)
85 4三銀打 ( 0:00/02:56:00)
86 4八歩打 ( 0:00/03:00:00)
87 同 飛(49) ( 2:00/02:58:00)
88 4七歩打 ( 0:00/03:00:00)
89 同 飛(48) ( 0:00/02:58:00)
90 4三銀(54) ( 0:00/03:00:00)
91 同 歩成(44) ( 0:00/02:58:00)
92 同 金(32) ( 0:00/03:00:00)
93 5五銀(46) ( 1:00/02:59:00)
94 4六歩打 ( 1:00/03:01:00)
95 同 飛(47) ( 0:00/02:59:00)
96 4五歩打 ( 0:00/03:01:00)
97 5六飛(46) ( 0:00/02:59:00)
98 5五角(64) ( 2:00/03:03:00)
99 同 飛(56) ( 1:00/03:00:00)
100 8六歩打 ( 0:00/03:03:00)
101 6五飛(55) (31:00/03:31:00)
102 8七歩成(86) ( 0:00/03:03:00)
103 同 金(78) ( 0:00/03:31:00)
104 5二銀打 (14:00/03:17:00)
105 7一銀打 ( 0:00/03:31:00)
106 9二飛(82) ( 2:00/03:19:00)
107 6四飛(65) ( 9:00/03:40:00)
108 8五桂(93) ( 7:00/03:26:00)
109 同 桂(77) ( 1:00/03:41:00)
110 8六歩打 ( 2:00/03:28:00)
111 7七角打 ( 7:00/03:48:00)
112 3二玉(22) ( 1:00/03:29:00)
113 8六角(77) ( 0:00/03:48:00)
114 7四歩(73) ( 2:00/03:31:00)
115 8四桂打 ( 3:00/03:51:00)
116 5四金(43) ( 2:00/03:33:00)
117 7四飛(64) ( 0:00/03:51:00)
118 6三銀(52) ( 1:00/03:34:00)
119 7三飛成(74) ( 1:00/03:52:00)
120 6四銀(63) ( 0:00/03:34:00)
121 同 竜(73) ( 0:00/03:52:00)
122 同 金(54) ( 0:00/03:34:00)
123 9二桂成(84) ( 0:00/03:52:00)
124 2八飛打 ( 0:00/03:34:00)
125 6二飛打 ( 0:00/03:52:00)
126 3三玉(32) ( 0:00/03:34:00)
127 7七角(86) ( 0:00/03:52:00)
128 4四桂打 ( 0:00/03:34:00)
129 6四飛成(62) ( 3:00/03:55:00)
130 5八飛成(28) ( 0:00/03:34:00)
131 6八金打 ( 0:00/03:55:00)
132 5九竜(58) ( 2:00/03:36:00)
133 6九金(68) ( 0:00/03:55:00)
134 1九竜(59) ( 0:00/03:36:00)
135 4九歩打 ( 3:00/03:58:00)
136 5四金打 ( 1:00/03:37:00)
137 6二竜(64) ( 0:00/03:58:00)
138 1七竜(19) ( 0:00/03:37:00)
139 3八角(16) ( 0:00/03:58:00)
140 7六歩打 ( 1:00/03:38:00)
141 5九角(77) ( 0:00/03:58:00)
142 7七銀打 ( 6:00/03:44:00)
143 8八歩打 ( 0:00/03:58:00)
144 8六香打 ( 8:00/03:52:00)
145 同 金(87) ( 0:00/03:58:00)
146 5七竜(17) ( 2:00/03:54:00)
147 1五角(59) ( 0:00/03:58:00)
148 2四歩(23) ( 0:00/03:54:00)
149 2二銀打 ( 0:00/03:58:00)
150 2三玉(33) ( 1:00/03:55:00)
151 7四角(38) ( 0:00/03:58:00)
152 1四玉(23) ( 1:00/03:56:00)
153 4八角(15) ( 0:00/03:58:00)
154 6八銀打 ( 1:00/03:57:00)
155 8九玉(79) ( 0:00/03:58:00)
156 3七桂成(25) ( 0:00/03:57:00)
157 5七角(48) ( 0:00/03:58:00)
158 6九銀(68) ( 0:00/03:57:00)
159 1八飛打 ( 0:00/03:58:00)
160 2五玉(14) ( 2:00/03:59:00)
161 2九香打 ( 0:00/03:58:00)
162 投了 ( 0:00/03:59:00)
まで161手で先手の勝ち
棋王戦第3局
棋王戦第5局