目次
動画
はじめに
こちらのページでは、日本将棋連盟が2019年9月13日に発表した
「棋譜利用に関するお願い」について、
実際に八大タイトルそれぞれの棋譜利用を問い合わせた結果を基に、
判明した事実をまとめたうえで問題提起をしています。
棋譜利用に関する用語
最初に、この動画で取り扱う用語について、しっかりと定義しておきます。
まず「棋譜利用に関するお願い」を発表し「問い合わせフォーム」を開設した
「公益社団法人日本将棋連盟」は、以下「将棋連盟」と言います。
次に、各棋戦やイベントには、賞金や対局料の多くを資金提供している、
いわゆるメインスポンサーの企業がいますが、以下「主催者」と言います。
「主催者」は1棋戦につき1社の場合もありますが、複数の場合もあります。
他にも「協賛」や「後援」などの形で、数多くの企業が関わっていますが、
話をシンプルにするために、企業については「主催者」のみ触れます。
最後に、権利について、よく「棋譜の著作権」と言われますが、
実は将棋連盟も主催者もその言葉を使用していません。
囲碁界においては、日本棋院が「棋譜は著作物」と明言していますが、
現状で判例はなく、棋譜の著作権性についての統一見解はないため、
この主張が法的に正しいとは言い切れません。
その代わりに、将棋界で主催者が主張しているのは「棋譜の独占利用権」です。
この権利は将棋連盟と主催者間の契約に明記され、主催者が保有しています。
結局のところ、棋譜を利用する立場からしてみれば
「著作権」も「独占利用権」も性質はほぼ同じです。
「著作権」も別途存在する可能性はあり、契約上の扱いは不明ですが、
この動画では、以下「棋譜の独占利用権」についての話となります。
棋譜利用の問い合わせまで
それでは2019年9月時点における「棋譜利用に関するお願い」の内容と、
問い合わせ方法について確認していきます。
将棋連盟のホームページによると「商業的目的に供する場合など、
私的利用の範囲を超えて棋譜(図面を含む)を使用される場合」
に問い合わせをお願いしている旨の記載があります。
(引用元:
https://www.shogi.or.jp/news/2019/09/post_1824.html)
そして、棋譜利用に関する問い合わせフォームでは、個人の場合、
「氏名」「住所」「電話番号」「メールアドレス」という個人情報に加えて、
利用棋譜の「棋戦」「種別」「対局者」「対局日」「指し手の範囲」などを
1局ずつ指定したうえで、媒体の種別や名称、及び、利用の趣旨を入力します。
入力完了後、入力内容を確認してから送信すると、
将棋連盟が棋戦に応じて主催者に問い合わせを振り分けて、
後日、主催者から直接回答が来るという仕組みになっているようです。
棋譜利用の問い合わせ後
回答期限について、将棋連盟のホームページに目安などの記載はありません。
問い合わせフォーム送信後に自動返信メールもありません。
結果として、最速で2営業日後に回答があったものの、八大タイトルのうち、
ほとんどの棋戦では1週間以上経っても未回答となっています。
回答を頂けた棋戦について、将棋講座ドットコムに対しては、
「一切の棋譜利用不可」でした。
将棋講座ドットコムでは、これを権利者が権利を行使したものと見なし、
対象となる棋譜が含まれている動画及び記述を削除しています。
但し、削除についてはあくまで自己判断であり、
「既存の記事を削除してほしい」とまで言われた訳ではありません。
棋譜利用が可能なケースはあるのか
回答を頂いた際、将棋連盟のホームページに記載されている以上の
具体的な理由は一切ありませんでしたので、他者の利用も想定しつつ、
こちらから具体例を挙げて追加で確認を行いました。
想定される棋譜の利用ケースとしては、明らかな商用目的も混ぜたうえで、
「SNSへの投稿」「ホームページ掲載」「書籍、雑誌掲載」
「ニュース報道」「個人の大盤解説会」「将棋道場・将棋教室の大盤解説会」
「将棋バーの対局放送上映」を挙げました。
また、棋譜自体には「棋譜の再生(動画)」「局面図(画像)」
「文字としての棋譜」という利用形態があり、
さらに、1局を通して利用できる手数の範囲や局面図の上限も
判断材料となるはずです。
それらは複合的に判断することになる可能性が高いですが、
結局、棋譜利用を許可する具体例は一切提示して頂けませんでした。
但し「自社独自の基準を決める予定がある」との回答は頂きました。
ここまでが、主に問い合わせた結果の事実をまとめたものになります。
ここからは主催者とのやり取りで感じたことも含め、現状の問題提起をしていきます。
問題点:将棋連盟の情報発信の少なさ
まず、最も大きな問題であると感じているのは、
「将棋連盟の情報発信の少なさ」です。
棋譜利用の問い合わせという仕組みを始めた以上、
利用可、あるいは不可の具体例をある程度は公表すべきであり、
また、将棋ファンの中で、これだけ大きな話題となって、
様々な憶測が飛び交っている中で、沈黙を守ることも避けるべきです。
将棋連盟が主催者の利益や主張を最優先する必要性は理解しています。
しかし、この度の対応で、多くの将棋ファンが疑問を持ち、委縮しています。
不透明な現状で将棋離れが進んでは、結果として主催者の不利益にも繋がり、
将棋の普及発展を目的とした公益社団法人としての存在意義が問われます。
問題点:明確な基準が存在しない
将棋連盟が十分な情報を発信できない理由の1つとして、
棋譜利用に関する明確な基準が存在しないということが挙げられます。
将棋連盟と主催者は以前から棋譜利用について協議を続けているようで、
長らく放置していた問題に向かって行動を起こした点は、評価すべきことです。
主催者が数多く増えてきた中、歴史・金額・考え方などが異なることで、
その調整は難航しているものと思われます。
よって、統一基準の作成は現実的ではないと思いますが、
共通する基準をまとめたり、あるいは棋戦ごとにある程度の基準を決め、
事前に公表することはできたはずです。言えないこともあると思いますが、
情報が少なければ将棋ファンは判断することができません。
また、現状のままでは問い合わせを受ける主催者も困っていると思います。
回答しているのは観戦記なども書かれている将棋担当者です。
具体的な基準がない状態で判断を任されても、
自社の利益を守るために「ノー」と言うしかありませんし、
本来の業務に支障が出ていることも容易に想像できます。
将棋連盟は主催者と協力して、至急改善すべきです。
あと、何が原因かは不明ですが、
問い合わせに回答しないという対応は論外です。
問題点:棋譜利用の不公正さ
ここからは現状の問い合わせの仕組みについて問題提起をします。
ここで最も大きな問題であると感じているのは「棋譜利用の不公正さ」です。
問い合わせフォームを設けたことで、まず委縮する将棋ファンがいて、
また、問い合わせを手間と考える将棋ファンが情報発信を諦めます。
さらに、問い合わせた将棋ファンは棋譜利用を断られる可能性が高いです。
つまり、3段階で棋譜利用がなくなり、事実、情報発信が減っています。
ところが、あくまで問い合わせを「お願い」という位置づけにしているため、
これまで通り、無断で棋譜利用することも問題ないと考えることはできます。
そして、棋譜利用を継続する人は一定数いて、
主催者と将棋連盟以外から情報を得ようとする将棋ファンはそこに集中します。
結局、主催者の利益に繋がることはほとんどありませんし、
将棋ファンが発信する情報に質の差が広がって、不公正さが生じています。
尚、「ズルい」とか「それなら自分も使う」と言うつもりはありません。
主催者が自社の不利益になると判断すれば、
将棋ファンが「普及」や「宣伝」と主張しても言い訳にしかなりません。
それほど主催者の権利は強く、敬意を払うべき存在なのです。
話を戻しますが、将棋ファンが大きな宣伝効果を生みだしていることは事実で、
それは将棋関係者の皆さんも身をもって分かっているはずです。
実際、主催者や将棋連盟が発信している情報だけでは、
誰がタイトル保持者かということすら知らないままの将棋ファンも多く、
また、将棋にあまり興味の無い人が情報を目にすることもまずありません。
将棋連盟には、情報発信が減っているマイナス面もしっかりと考慮し、
長期的な視点で将棋ファンを増やしていくために物事を判断して、
場合によっては、主催者に対して強く主張して頂きたいです。
棋譜利用者の現状
棋譜利用の制限は主催者及び将棋連盟の利益を守ることが目的のため、
将棋ファンが棋譜を利用する際、その収入の有無はあまり関係がありません。
これは、将棋ファンの発信した情報を見て満足してしまえば、
主催者や将棋連盟のサービスを受けなくなる恐れがあるためです。
そして、棋譜を利用している将棋ファンが収入を得ている場合、
他人のふんどしで相撲を取っていると言われればその通りなのですが、
ほとんどの場合「儲かっている」ということはないです。
それを明らかにしておくために将棋講座ドットコムの実績をお話しします。
2019年9月現在、将棋講座ドットコムでは、
YouTubeのチャンネル登録者数が約2,700人、
ホームページの月間訪問者数は重複無しで20,000人弱です。
将棋連盟から見れば足元にも及ばない弱小ですが、
将棋ファンによる情報発信者としては中堅と言ったところでしょうか。
8月上旬から9月上旬の1か月間では、タイトル戦の棋譜を4つ利用しました。
これらのコンテンツ制作にかかった時間は、観戦時間を除いて40時間以上です。
そして、YouTubeチャンネルからの収入は1,000円にも満たず、
解説文を掲載しているページからの収入は100円にも満たない金額でした。
また、タイトル戦の第1局が始まった棋戦及び棋士を応援するために、
YouTubeへ自分の動画を広告する費用として約11,000円を投入しており、
それらを合わせると約10,000円の赤字です。
常に出稿している訳ではありませんが、通算でも同様に大きく赤字です。
もちろん、出稿はチャンネル自体の宣伝にも繋がっていますし、
主催者や将棋連盟に直接お金が落ちている訳ではありませんが、
棋譜を利用させて頂いていることに対して、敬意と感謝を忘れないため、
広告宣言費として広告収入以上に使用しています。
儲けていないという理由で正当化するつもりはありませんし、
権利者が権利を主張した場合に対抗することはありませんが、これが現実です。
インターネットをはじめとして、将棋道場や将棋教室なども含め、
他に情報を発信している将棋ファンの多くも似たような状況だと思います。
将棋ファンは、棋士や観戦記者のようなプロとは異なり、
品質やブランド力が桁違いに低いので、「儲ける」ということは困難です。
将棋ファンの情報はあくまで補完的に見られることがほとんどであり、
結局、プロの解説と併せることで満足しているのです。
但し、棋譜を機械的、かつ、大量に利用している方々は、
多少なりとも労力に見合った収入が得られるかもしれません。
そして、そのような方々が真面目に問い合わせることは考えづらいでしょう。
これについては、線引きも対応もかなり難しいとは思います。
今後について
権利については、本・アニメ・ゲーム・音楽などの他分野で
似たような問題がいくらでも起こっており、
きちんと参考にすれば、少なくとも現状のようにはならないと思っています。
今回の件も、長らく将棋ファンをしていると、
「如何にも将棋連盟らしい」で済ませてしまう部分もありますが、
今回のような対応は、将棋界に対する影響力の大きさを考えるべきで、
今後は専門のコンサルタントや広報に依頼することを強く望みます。
強い責任感を持って、自分たちで考え、動くことも時には大事ですが、
アマチュアがプロ棋士に平手で勝てないように、
どの専門分野でもプロがいて、力が遠く及ばないことを認識すべきです。
将棋講座ドットコムは、経緯を見守ると共に、
今後も陰ながら将棋界を応援してまいります。
これをご覧の将棋ファンの方々もそうであると嬉しいですし、
将棋連盟や主催者をはじめとした関係者の方々も
それに応えるように対応して頂けると信頼し、期待しております。
いかがでしたか?
主観的な意見も一部で述べましたが、
事実を中心として、なるべく中立的にお伝えしたつもりです。
将棋ファンの誤解や疑問が少しでも解消できたうえで、
1日でも早く、より良い状態になってくれれば幸いです
ありがとうございました。