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解説動画
第44期棋王戦第4局
棋王戦第2局
対局情報
渡辺 明 棋王(三冠)<先手>
本田 奎 五段<後手>
共同通信社
公益社団法人日本将棋連盟
(棋譜利用問い合わせ済み)
局面解説概要
序盤
20手目:形勢判断と候補手
互角:△3一角、△4一玉、△7四歩 など
20手目で本譜は△5三銀と上がりました。
右銀のよくある通り道ですが、少し違和感を覚えます。
なぜならば、この早い段階で△7四歩~△7三銀、△6四歩~△6三銀、
△3一角~△6四角という
含みを消しているからです。
有力な指し方はまだまだ残されているので、
形勢に与える影響はほとんどなく、自由に指して構わない範囲ですが、
△3一角や△4一玉を先に指す方が一般的で、
△5三銀は「形を決めすぎ」と言われる指し方です。
相手が色々と深読みしてくれれば、
序盤から持ち時間を削ることはできますが、
原則として、後回しにできる手はなるべく指さない方が無難です。
26手目:形勢判断と候補手
互角:△4三金右、△4二角、△4二銀右 など
26手目で△4三金右として、総矢倉を完成させるのは自然な手です。
本譜は△4二銀右と引きました。
次に△4三銀とすれば、銀矢倉の好形になり、
特に3筋からの攻めに対して強くなります。
少数派の作戦は、序盤から研究量や経験値で差を付けることができるので、
持ち時間の短い対局で効果的です。
先手としては序盤から時間を使い、無理に動いて自滅する展開が最悪なので、
この段階では、
咎めようと思わない方が賢明です。
少なくとも、後手からの早い仕掛けはなさそうなので、
先手は無難に
駒組みを進めていれば、悪くなることはありません。
36手目:形勢判断と候補手
互角:△7四歩、△9四歩 など
相手に棒銀の余地が残っている場合、
原則として、自玉が入城している矢倉の端歩を突いてはいけません。
36手目の局面で△1四歩と突いてしまうと、▲3七銀~▲2六銀~▲1五歩で、
先手に端攻めの契機を与えることになります。
但し、端歩を突くことで自玉が広くなる効果は大きいです。
後手は、棒銀の恐れがなくなれば端歩を突きますし、
先手は、端歩を突き越すか、早めに仕掛けるかで作戦が分岐します。
47手目:形勢判断と候補手
互角:▲4五歩
47手目で先手の駒組みだけを考えれば、▲4七銀や▲9六歩は指したい手です。
但し、▲4七銀は△3九角の含みが生じて、
後手の6筋の攻めに勢いが付いてしまいます。
また、▲9六歩はすぐに△6九角と打たれる手があり、
この角がなかなか捕まりません。
よって、駒組みをしている余裕はないので、本譜は▲4五歩と仕掛けました。
△同歩 ▲7一角ならば、先手は馬を作ることができます。
但し、馬を作ったからと言って、形勢が良くなるという訳ではありません。
後手が馬を作り返す含みは多く、先手の動き方に制約が多いのです。
中盤
53手目:形勢判断と候補手
互角:▲6八銀、▲8六銀
53手目は7七の銀取りを受ける1手で、▲6八銀も▲8六銀も有力ですが、
次の▲8六歩を見せて▲6八銀と引いた方がわずかに良いです。
後手は桂損を防ぐために、攻めを急ぐしかありませんが、
金駒が攻めに参加していないので、先手としては受け切りを狙いやすいです。
攻め込まれる状況は嫌なものですが、
少ない戦力で攻めざるを得ない状況の方がもっと嫌なのです。
64手目:形勢判断と候補手
互角:△4四銀直、△7五歩
64手目は△4四銀直が有力です。
銀2枚の横並びは部分的に好形なので、それを崩す点はマイナスですが、
4一の飛車が攻めに使えるようになるというプラスの方が大きいです。
72手目:形勢判断と候補手
先手有利:△6八歩
先手は、戦力不足気味の後手に持ち駒を渡したくないので、
すぐに▲4二馬と飛車を取ってくることはありません。
9一の香を守るために、△4一飛と引く手は考えられますが、
敢えて、▲4二馬の余地も残しておきたいです。
そうなると、後手は動かせる駒が少ないので難しいのですが、
ここは△6八歩と垂らす手が有力です。
△6九歩成は許せないので、▲同金か▲同銀と取りますが、
現局面よりも形が崩れるため、終盤で生きる可能性があります。
このようなジャブは、得になるかは分かりにくいですが、
少なくとも損にはなりにくいので、指し手に困った時は有力な選択肢です。
本譜は△2六銀と出て、先手の攻め駒を押さえ込みにいきました。
73手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲4五桂
次の△3七銀成を受けるために▲4六馬と引く手はありますが、
やはり、先手から駒交換をすることはなるべく避けたいです。
本譜は▲4五桂と跳ねましたが、これが絶妙な返し技でした。
△同馬とタダで取られそうですが、
馬が離れれば▲2六飛と銀を取り返せるうえに、飛車の安全度が増します。
あとは、後手が△4四銀とかわして、先手の攻めが続くかどうかです。
終盤
81手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲3六桂、▲2九飛 など
81手目では「
桂は控えて打て」の▲3六桂が決め手です。
先手は、寄せにいくタイミングで▲4二馬と飛車を取りたいのですが、
△同金引となると、金2枚の横並びが飛車に強くて厄介です。
そのため、▲2四桂か▲4四桂と跳ねる手を用意しておけば、
いずれも3二の金取りになるので、手順にその好形を崩すことができます。
こうなると△2六銀によって、先手に有効な攻め筋が生じてしまったうえに、
銀が盤上に残って負担となっているだけなので、
悪手だったと判断できます。
91手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲4三歩、▲5一飛、▲7二飛、▲3四金、▲4四歩 など
後手玉に迫る手を指していれば、先手の勝ちは揺るぎません。
迫り方としては、手抜きのできない▲4三歩が最善です。
もう少し競っている前提で考えるならば、
△8六桂が
詰めろになっているかを確認する必要はあります。
結論から言えば、詰めろではありませんが、
先手玉が露出するので、
大駒を打つ攻防手が生じやすくなります。
例えば、▲3四金だと△3九飛~△3四飛成が実現してしまったら大逆転です。
危険を予測して、より安全な手を選ぶクセをつけておくことは重要です。
95手にて、後手の本田五段が投了し、渡辺棋王の1勝となりました。
投了図以降、先手玉は安全なので、後手は受け切るしかありません。
しかし、▲4二飛成からの詰めろに加えて、
4三や6三に金銀を打つ手も厳しく、すべてを同時に受ける手はありません。
本局では渡辺棋王の、
相手の有効手を潰す指し回しが非常に勉強になりました。
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