【将棋解説】
第59期王位戦七番勝負第2局 菅井王位vs豊島棋聖

目次



対局情報

棋戦
第59期王位戦七番勝負 第2局
対局日
持ち時間
8時間(2日制)
対局者
菅井 竜也 王位<後手>
豊島 将之 棋聖<先手>
対局場所
兵庫県:中の坊瑞苑
戦型
居飛車対向かい飛車の対抗形

局面解説

序盤

point
13手目:形勢判断と候補手
互角:▲7七角、▲5八金右 など
戦型は居飛車 対 向かい飛車の対抗形になりました。

後手が向かい飛車や三間飛車の場合は、4筋を受ける必要性が低いため、
▲5六歩や▲5七銀を省略して、▲7七角から穴熊を目指すことができます。




point
18手目:形勢判断と候補手
互角:△3二金、△2四歩、△8二玉、△9四歩 など
後手は△3二金や△2四歩のように
早めに動いて2筋や3筋で優位に立とうとする指し方があります。
その場合、先手は穴熊を組んでいる余裕があまりないため、
▲7八銀の1手で左美濃を完成させて、右銀の活用を急ぐ方が無難です。

尚、△3五歩とを取って△3四銀と出る指し方に対しては
▲4六歩と突いておいて、▲4五歩から角の活用を見せる指し方が有力です。

いずれの場合も、左美濃にするのであれば、
後手が玉を囲い始めるまで▲6六歩を保留しておくと角の働きに差が出づらくなります。



point
28手目:形勢判断と候補手
互角:△8四歩、△4五歩、△4二角 など
相手が銀冠を組む過程で銀が上がった瞬間は
金が離れ駒になって陣形が不安定になるため、仕掛けることを考えます。

但し、28手目で△2四歩と突いて、
▲同歩 △同飛 ▲同飛 △同角と飛車交換をする仕掛けは成立しません。
その後に▲2三飛 △2八飛とお互いが2筋に飛車を打つと
後手は、飛車も角も動かしづらいため、返って攻めが遅くなります。

尚、後手の左金が3二に上がっている場合は、
飛車を打ち込まれる隙が少ないため、△2四歩と突く仕掛けが成立します。



point
34手目:形勢判断と候補手
互角:△8四歩、△7四歩 など
34手目のような局面で、後手が△2五桂と跳ねる手があります。
「桂ポン」のように言われていますが、
▲同飛 △2四歩 ▲2八飛 △2五歩 と進んでみると
先手は2筋を逆襲されているうえに、歩切れで困っているようにも見えます。
しかし、▲3七桂 △2六歩 ▲2五桂打 のように
入手した桂を惜しまずに投入すれば受けることができます。

見慣れない形は初見だと対応を間違えやすいので
部分的な受けの定跡として知っておきましょう。



point
45手目:形勢判断と候補手
互角:▲3七桂、▲5六歩 など
後手は次に△4五歩と突く手を狙っています。
45手目で自然な手は▲3七桂で、△4五歩には▲4八飛と回ります。
後手がさらに攻め込んでくれば、
△1九角成と香を取りながら馬を作ることはできるのですが、
先手は飛車と角がよく利いているので4筋から攻め込むことができます。

バランス重視の陣形は1か所破られてしまうと粘りが効きづらくなるので、
後手は香を1枚得する程度で穴熊に勝つことはできません。

本譜は▲1八香と上がって、取られる手を先受けしました。
先手としては後手から仕掛けさせたいという思惑もあります。




中盤

point
50手目:形勢判断と候補手
互角:△8五歩、△2四歩 など
50手目で△8五歩と突く手は有力です。

後手の玉頭でもあるので怖いですが、
銀の頭と端を絡めた攻めは銀冠穴熊の弱点です。
銀冠穴熊は非常に堅いので、これだけで寄せ切れるほど甘くありませんが、
この辺りで少しは崩しておかないと、終盤で寄せ合いになりません。

現局面ならば、△8五歩に対して ▲同歩 △9五歩 ▲同歩 △8五桂に
▲8六角 △同角 ▲同銀 △5九角のような隙もあるため、十分戦えます。



後手が強く攻め込んでいきましたが、
実戦的には穴熊の勝ちやすい将棋です。

玉の堅さが違うと、ミスをした時に形勢を損ねる度合いも違うので
ミスをしない前提で算出されるソフトの評価値だけで考えない方が良いです。



point
62手目:形勢判断と候補手
互角:△8一飛
62手目は△8一飛と逃げる手が有力です。
飛車は強力な攻め駒なので、攻めを切らしにいく場合は渡さないべきです。

本譜は△4三飛成としました。
飛車を取られても金の位置が悪くなるので受け切れそうにも見えましたが…。



point
65手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲4四歩
65手目は▲4四歩が絶妙手です。
△同竜には▲6五歩と突けば、△5六歩と銀を取ることができません。
先手は手順に角を使えるため、
攻めが切れてしまう恐れが少なくなります。



▲4四歩に対して、本譜は△4二竜と引きました。
しかし、4四の歩が取れないようでは、既に後手の勝ち目は薄いです。
先手は、手順に と金を作る準備ができました。




終盤

後手は攻め合いで勝つことができません。
唯一の望みは受け切りです。

現状、先手は3枚の攻めです。
4枚の攻めは切れない」という格言通りではないため、
まだ、受け切りの可能性は残されています。

徹底防戦のためには、龍や馬を自陣に引き付け、
持ち駒をどんどん自陣に埋めましょう。



point
87手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲4一金、▲5四香 など
先手は、攻めが切れなければ勝ちですが、
竜ができているうえに持ち駒が3枚あるため、その心配はほぼありません。

形勢が大差の場合は、有力な手がいくつもあって
何を指しても勝ちということは多いです。
但し、手数が伸びると、思わぬ悪手を指してしまう可能性が高くなります。
なるべく相手が粘りづらい手を探すように意識しましょう。

87手目は▲4一金が好手です。
一見すると重たい手ですが、
5一の歩を取れば先手の竜が使いやすくなります。
また、竜取りなので、後手は持ち駒を埋めるような手が指せません。
さらに後手の竜が動けば▲6五歩~▲3三角成と増援も見込めます。



point
93手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲4四歩、▲4四香、▲8三銀 など
93手目は▲8三銀のような手でも勝ちですが、
一貫して竜を使おうとする指し方が分かりやすいです。
1一の竜を使うためには、まず4一の歩を狙う必要があるため、
▲4四歩や▲4四香のような手が有力となります。

確実に攻めを続ける場合には
安い持ち駒から盤上に配置していくのがコツです。



105手にて、後手の菅井王位が投了し、菅井王位の1勝、豊島棋聖の1勝となりました。

投了図以降、△同竜に▲8三香と打てば、△同玉は▲7一竜で竜が取れますし、
△7二玉 は▲7一竜 △同玉 ▲8一飛 △7二玉 ▲8二香成で詰みとなります。

本局では豊島棋聖の相手の粘りを許さない指し回しが非常に勉強になりました。


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