目次
解説動画
竜王戦第4局
対局情報
読売新聞社
公益社団法人日本将棋連盟
(棋譜利用問い合わせ済み)
局面解説
序盤
14手目:形勢判断と候補手
互角:△6四歩、△6二銀、△3二金 など
14手目までは第1局と同一の進行でした。
第1局では後手が△6四歩と突きましたが、本譜は△6二銀と上がりました。
△6五桂と跳ねた際の土台がないので、直後の仕掛けを見送ることになり、
△7三桂を急いだ意味合いはわずかに薄れますが、軽い駆け引きです。
プロの場合は何とも言えませんが、
アマの場合は早仕掛けを嫌って▲6六歩のように手堅く避ける人が多いので、
本譜の▲5六歩のように、目先の仕掛けを潰さない指し方をしてくれば、
「相手が竜王戦を見ている(定跡を知っている)」と推測できます。
つまり、
序盤で相手が間違えてくれる可能性が下がるので、
仕掛けを見送るという選択肢も有力になります。
25手目:形勢判断と候補手
互角:▲3七銀、▲5八金、▲7九玉、▲1六歩、▲9六歩 など
後手が
角道を止めたので、早期に仕掛けられる可能性は下がっています。
よって、▲5八金や▲7九玉のようにじっくりと
駒組みを進める手は有力です。
本譜は▲3七銀と上がって動きました。右銀の働きに差が付けば、
後手が右桂を優先して動かしたことを
咎めていると言えます。
中盤
30手目:形勢判断と候補手
互角:△3六歩、△8六歩
30手目で3五の歩に
紐を付けるために△3四銀と上がり、
▲3五銀 △同銀 ▲同角となれば駒の損得はありませんが、
先手は攻めの銀が持ち駒に変わったので、立派に役目を果たしたのに対して、
後手は守りの銀がいなくなったので、陣形が弱体化しています。
つまり、この銀と歩の交換は、駒の働きで見ると後手にとって損なので、
わざわざ手数をかけてまで実現させてあげる必要はありません。
本譜は△3六歩と突きました。銀で取られそうな五段目の歩を突いて逃げるのは、
歩を渡さないで済むうえに、相手陣へ圧力をかけることもできるので、
戦型を問わず出てくる手筋です。
31手目:形勢判断と候補手
互角:▲2六飛、▲3八飛 など
31手目で▲3五銀と前進を急いでしまうと、
△3七歩成 ▲同桂 △3六歩という手順で桂を狙われてしまいます。
よって、▲2六飛と浮いて、再度の△3六歩を防ぎつつ、
棒銀や▲3六飛の
含みを残すのが部分的な受けの形です。
但し、当たりが強く、棒銀で攻めた際に飛車取りで返される変化もあるので、
▲3八飛や▲2七飛のような指し方もあります。
いずれにしても3六や3七に飛車の
利きを足して受けることが重要です。
38手目:形勢判断と候補手
互角:△4二角、△5一角、△5四歩、△1五角
後手としては▲2四歩 △同歩 ▲同銀という手順が気になりますが、
先に角を逃げておいて、先手の銀が2四に出てきてから△3四銀と上がれば、
2三に利きを足しつつ、△2五歩の含みも生じるので2筋は受かっています。
雁木は棒銀に対して弱そうに見えますが、突破までは意外と難しいです。
本譜は△1五角として「
幽霊角」と言われる飛び出しを見せました。
▲2七飛には△3七歩成 ▲同桂 △3六歩があるので、
▲3六飛と寄ることになりますが、2筋の攻めを緩和することができました。
50手目:形勢判断と候補手
互角:△8七銀
後手としては、次に▲6一銀と打たれる手が気になります。
金取りなので無視はしづらいですし、
金を逃げても▲7二銀成が銀桂両取りで、どう応じても薄くされてしまいます。
銀打ちを受けるならば△8一飛と引くことになりますが、
▲7五歩~▲7四歩の桂頭攻めは残るので、先手は攻めに困りません。
相手の攻め筋を潰しきれないならば、攻め合いに持ち込むしかありません。
本譜は入手した銀を生かして、△8七銀と打ち込みました。
棒銀で先に と金ができるのとは違って手抜きをされてしまいますし、
銀を先に渡してしまうデメリットもありますが、突破力はあります。
但し、相手の歩の頭に
金駒を打ち込む攻め方は、基本的に非常手段なので、
他に有力な手がないことを確認してから、消去法で選んだ方が良いです。
58手目:形勢判断と候補手
先手有利:△3六歩
後手は8筋を突破することができました。
しかし、攻め駒が少ないので、攻めの継続が難しい状況です。
58手目から飛車を成り込むならば、△7七と と捨てるのが手筋ですが、
▲同桂と手順に逃げられて、△8九飛成が空成りになってしまいます。
以下、▲7九金に△9九竜は▲8八銀 △9八竜 ▲8九銀で
竜が捕まってしまうので、香を補充することもできません。
つまり、貴重な戦力である と金を失った見返りとして、
単に竜を作っただけになるので、これではとても釣り合いません。
飛車の成り込みを優先しても厳しい攻めには繋がらないことから、
本譜は「
玉は包むように寄せよ」で△3六歩と打ちました。
先手が▲4五桂と逃げる可能性はありますが、
桂の入手に関わらず、△3七歩成で と金ができるのは大きなプラスです。
後手は、と金が2枚できても、依然として攻め駒不足ではありますが、
あとは先手が攻め込んできた時に入手できる駒を当てにします。
69手目:形勢判断と候補手
後手有利:▲6一銀
69手目で飛車取りだからと言って、単に逃げてしまうと、
▲5四飛には△5三桂、▲4五飛には△4四桂と持ち駒を投入されて、
先手の攻撃力が高まっていないにも関わらず、
後手の守備力が高まってしまうので、単純計算では攻めが遅れてしまいます。
よって、飛車を逃げる手を深く読むのは後回しです。
飛車を逃げないとなると▲4二飛成ですが、
単なる
大駒交換では、先手玉に
詰めろがかかってしまいます。
現状で後手に最も渡せない駒は飛車で、これは最優先事項です。
つまり、飛車を渡さずに▲4二飛成を実現する手順を探す必要があります。
そして、4二の角に着目すると、玉でしか紐が付いていません。
このような場合に出てくるのが
送りの手筋で、本譜は▲6一銀と打ちました。
仮に△同玉 ▲4二飛成となった局面では、後手玉に詰めろがかかっています。
初手▲8三角で、捨て駒によって退路を封鎖します。
△同飛は横利きが逸れるので▲5二金から押していけば詰みですし、
△7一玉とかわしても、▲5一竜と捨てて△同銀と取らせるのがポイントで、
以下、▲6一金~▲7一金打と並べれば詰んでいます。
よって、▲6一銀に対して△同玉と取ることはできないので、
△5三玉と上がることになりますが、後手陣に
拠点を作ることができました。
終盤
74手目:形勢判断と候補手
後手優勢:△4八歩、△7八銀、△4四桂、△3四桂
73手目の▲4一金は、次に▲5一金 △同角 ▲4一飛成の突破を狙いつつ、
▲4二金と角を取る含みもあります。
金を打った位置は悪いですが「相手玉に近い」「狙いが複数ある」
「次に大駒を取ることができる」という複数の条件を満たしており、
局面がかなり複雑になるので厄介な手です。
後手としては、金を入手しやすくなっているので有難い反面、
逆転されやすくもなっているので、気を引き締める必要があります。
ここで△4八歩~△4九歩成や、
△7八銀~△3六桂と攻め合っても1手勝ちは見込めますが、
薄い自玉周辺に相手の飛車の利きが通っている状態はリスクが高いので、
本譜は△4四桂と打って遮断しました。
あとは先手が飛車を活用して攻めてきたら、
含みにしていた△5六桂で反撃して、先手玉を寄せにいきます。
84手にて、先手の羽生九段が投了し、
豊島竜王の4勝、羽生九段の1勝で、豊島竜王のタイトル防衛となりました。
投了図から▲6八金上とかわして△同桂成 ▲同玉 △5八と ▲同玉と進めば、
先手は金を2枚取られるものの、玉が広くて安全になり、大逆転です。
▲6八金上に対しては、△7九銀成と捨てるのが5筋へ玉を逃がさない
好手で、
▲同玉に△5八と と迫れば、▲同金には△7八金までの詰みとなります。
他に、投了図から▲8八同金 △同と となった場合、
7九には3五の角が利いているので、△7八金を防げば詰みは受かりますが、
▲7八桂には△8七金、▲7八銀には△8六飛と攻め駒を足していけば、
先手は受けるための駒やスペースに困ることとなります。
以下、詰め上がりまでの手数を伸ばすことはできますが、
先手が受けに駒を使うと後手玉が安全になることもあり、逆転は困難です。
本局では豊島竜王の確実な迫り方が非常に勉強になりました。
竜王戦第4局