【将棋解説】
第91期棋聖戦五番勝負第4局 渡辺棋聖vs藤井(聡)七段

目次

解説動画



対局情報

棋戦
第91期棋聖戦五番勝負 第4局
対局日
持ち時間
4時間(1日制)
対局者
渡辺 明 棋聖(三冠)<先手>
藤井 聡太 七段<後手>
戦型
急戦矢倉
主催
産経新聞社
公益社団法人日本将棋連盟
(棋譜利用問い合わせ済み)
対局場所
大阪府:関西将棋会館

局面解説

序盤

【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第4局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で30手指した局面
point
31手目:形勢判断と候補手
互角:▲5五銀、▲4五歩、▲2四歩、▲9六歩、▲5五歩 など
戦型は急戦矢倉で、30手までは第2局と同様の進行になりました。
先手は▲6六歩を保留するのがポイントです。

31手目の局面から第2局では▲4五歩と仕掛けましたが、
本譜は▲9六歩と突きました。

第2局では65手目の忙しい局面で、△9五桂の攻め筋を消すために、
▲9六歩と突かざるを得なかったのですが、
そのような展開も見越して、
端歩の価値をわずかに高めて考慮したものと思われます。

同じ相手に対して、以前に負けた戦型を採用するのは、
少し気が引ける部分も有りますが、
敗因をしっかりと分析していれば、より高い精度で序盤を指せるうえに、
持ち時間を温存することもできます。
相手よりも細かく調べている自信があれば尚更です。




中盤

【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第4局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で41手指した局面
point
42手目:形勢判断と候補手
互角:△同歩、△3一玉、△8六歩、△5四金 など
▲4五桂跳ねと▲3五歩の突き捨ての組み合わせは頻出手筋ですが、
この早い段階ならば、基本的に△同歩と取ります。
▲3三歩の叩きが生じるので、先手の攻めは1手早くなっていますが、
後手は歩得を生かして、継ぎ歩垂れ歩などの反撃に期待します。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第4局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で45手指した局面
point
46手目:形勢判断と候補手
互角:△3四金、△3六歩、△8六歩、△5四歩
46手目で△5四金と上がるのは、▲3三歩と叩かれて先手の攻めが続くので、
厚みで押さえ込もうとしている場所と攻められている場所がズレています。

本譜は△3四金と上がって、3筋を守りつつ、先手の攻めを催促しました。

第2局と比較をすると、早い段階で▲3五歩と突き捨てて、
▲3三歩の含みを生じさせているので、後手に主導権が渡っていません。
但し、先手の攻めが落ち着いてしまった時の反動は大きくなっています。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第4局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で55手指した局面
point
56手目:形勢判断と候補手
先手有利:△2四金、△9四桂、△4六歩、△4六桂
56手目で△2四金とかわして駒損を避ける手は有力ですが、
▲6四銀~▲5五銀と先手の攻め駒が前進してくるうえに、
▲3四歩と拠点を作ってから、銀を打ち込む攻めが分かりやすく、
受け間違えの許されない後手が勝ちにくい展開となります。

本譜は△9四桂と打って、攻め合いを目指しました。
▲3四桂は痛いですが、△同銀で角の利きが通る点はプラスですし、
勝つ可能性を高めるために仕方のない犠牲だと割り切ります。

本譜は攻め合いを危険と見た先手が少し受けに回りました。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第4局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で64手指した局面
point
65手目:形勢判断と候補手
互角:▲3四歩、▲5五銀左、▲9七角 など
65手目で▲1四桂と跳ねれば、桂で角取り、飛車で金取りがかかり、
後手は両取りを受けることができません。
是非とも発見したい手ではありますが、
この局面では直後に△5四桂と銀の両取りで返されるので、あまり得になりません。

ここで先手が気にすべき手は△8七歩の角取りです。
対して、角を逃げるしかありませんが、手順に拠点を作られてしまいます。
よって、角の活用が急がれるので、本譜は▲9七角と上がって、
△8七歩を先受けしつつ、目障りな8六の桂を取りにいきました。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第4局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で69手指した局面
point
70手目:形勢判断と候補手
互角:△8八歩
後手としては、次に▲7八玉と上がられてしまうと、
先手玉周辺の隙がなくなって、拠点を作りづらくなってしまいます。

本譜は△8八歩と打ちました。
と金を作ることができれば、左右挟撃の態勢を整えることができます。




終盤

【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第4局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で79手指した局面
point
80手目:形勢判断と候補手
互角:△3八銀
80手目で△4二飛と逃げると、▲4三歩と叩かれて、
飛車をいじめられながら、手順に寄せの形を作られてしまいます。
そして△9二飛と逃げると、今度は▲7八玉と上がられて、
先手玉が捕まらなくなりますし、2九の飛車まで広くなります。

よって、消去法で考えても攻め合うしかありません。
▲8二馬と飛車を取られるのは、部分的に痛いですが、
馬が後手玉から離れるので、再度近づけるために1手の余裕があります。
本譜は△3八銀と打ちました。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第4局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で80手指した局面
point
81手目:形勢判断と候補手
互角:▲2八飛
81手目は▲2八飛と1つ浮いて、銀取りを見せる手が有力です。
△2七金で結局飛車は捕まってしまいますが、
▲8二馬 △2八金 ▲7八玉の後、▲2八馬と金を取る手が残るので、
ここから単純に飛車を取り合うよりも明らかに得な取らせ方です。
後手に飛車を渡すと先手は怖いですが、▲7八玉と上がった形は、
後手の持ち駒が飛車と桂ならば、すぐに寄ることはありません。

本譜は▲5九飛と逃げました。飛車がすぐには捕まらない位置なので、
▲8二馬を見せつつ、▲7八玉を間に合わせる狙いがあります。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第4局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で81手指した局面
point
82手目:形勢判断と候補手
後手有利:△8六桂
82手目でも8二の飛車を逃げているようでは
▲7八玉と上がられてしまい、先手玉の寄せが遠のきます。
△4七桂と打って、飛車を狙い続ける手もありますが、
金を犠牲にすることで、やはり▲7八玉と上がられてしまいます。

本譜は△8六桂と打ちました。
最短の勝ちを目指すにあたって、後手が防ぐべき手は▲7八玉です。
▲8二馬からの攻め合いは気になりますが、△4七桂と打てば、
決め手に使えそうな飛車か金の入手が見込めるうえに、玉の広さが違います。

尚、▲7八玉を防ぐ手として△8八と も考えられますが、
余程駒不足でない限りは、持ち駒を使った方が強固な包囲網となります。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第4局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で89手指した局面
point
90手目:形勢判断と候補手
後手優勢:△4五桂、△8八と、△3七金、△3四銀
90手目で△8八と や△3七金として、徐々に包囲網を狭める手も有力ですが、
本譜は△4五桂と跳ねました。
受けを主な目的として自陣に打った桂が相手陣まで利いてくるうえに、
金取りの先手にもなっており、目覚ましい躍動です。

▲5二桂成 △同飛として、飛車の位置をずらせば、
桂を外すことはできますが、馬が離れるので、後手玉の安全度が増します。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第4局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で97手指した局面
point
98手目:形勢判断と候補手
後手勝勢:△5四桂、△3四桂、△4四銀 など
7九に「飛車」か「金」を打つことができれば先手玉は1手詰なので、
必然的に後手の欲しい駒は「飛車」か「金」となります。

5七の飛車を狙うのであれば、
△4四銀と出て、4五の馬をどかしてから△4五桂が厳しいです。

本譜は△5四桂と打ちました。
金を狙うのであれば6八よりも4六の方が狙いやすいですし、
金を逃げられたとしても、△6六桂と銀を取った手が詰めろ手抜けず
▲同歩に△8八銀と打てば受けなしなので、同様に厳しいです。
受けのなくなった先手は寄せ合いを目指しました。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第4局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局で105手指した局面
point
106手目:形勢判断と候補手
後手勝勢:△4二玉、△5三玉、△4三玉
106手目で先手の大駒から遠ざかろうとして△4一玉と引いてしまうと、
▲6三馬 △同歩 ▲5二桂成 △3一玉 ▲8一飛成で後手玉が詰みます。
後手陣には3一~2一の逃走ルートがありますが、
△3一玉の段階では飛車による横からの攻めに対して非常に弱いままです。

本譜は詰み筋を見切って△4二玉と寄りました。



【将棋】第91期棋聖戦五番勝負 第4局 渡辺明 棋聖 対 藤井聡太 七段の対局の投了図
110手にて、先手の渡辺棋聖が投了し、
渡辺棋聖の1勝、藤井七段の3勝で藤井新棋聖の誕生となりました。

投了図以降、▲4二銀の王手には、△同銀 ▲同歩成 △同金でも、
△2一玉 ▲4一竜 △1二玉でも、後手玉に詰みはありません。

一方、先手玉は左右から挟まれており、△7九金までの1手詰、
あるいは△5九金打からの5手詰があります。
2か所同時に駒の利きを足して受けることはできないので、
玉を広くするために6八の金を動かすくらいですが、
今度は△7八金、△5八金打のいずれかから詰みが生じるので、
逃げ道を作ることもできず、必至となっています。

本局では、藤井新棋聖の、
相手玉を逃さないようにしっかりと包囲する寄せ方が非常に勉強になりました。
史上最年少のタイトル獲得となりましたが、
熟練された駆け引きの多いハイレベルな名局ばかりのシリーズでしたね。


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