【将棋解説】
第31期竜王戦七番勝負第5局 羽生竜王vs広瀬八段

目次

解説動画



対局情報

棋戦
第31期竜王戦七番勝負 第5局
対局日
持ち時間
8時間(2日制)
対局者
羽生 善治 竜王<先手>
広瀬 章人 八段<後手>
対局場所
石川県:和倉温泉 加賀屋
戦型
急戦矢倉

局面解説概要

序盤

【将棋】第31期竜王戦七番勝負 第5局 羽生善治 竜王 対 広瀬章人 八段の対局で18手指した局面
point
19手目:形勢判断と候補手
互角:▲同角、▲同飛 など
19手目は▲同角と取る手が自然で、△2三歩と打たれて角を追われた後に
▲4六角や▲6八角と引けば、手順に先手玉の入城ルートが開けます。

但し、▲同飛も有力です。
この場合、実質的な手損を避けるために▲2八飛とは引きません。
▲3四飛や▲2五飛から中段で飛車を使う指し方となります。




【将棋】第31期竜王戦七番勝負 第5局 羽生善治 竜王 対 広瀬章人 八段の対局で29手指した局面
point
30手目:形勢判断と候補手
互角:△5五歩、△7五歩 など
次に先手が▲4六銀と上がってしまうと後手から仕掛けづらくなるため、
今のうちに△5五歩から1歩を交換します。
後で△5四銀と上がって6三の銀を活用することもできますし、
1歩あると△7五歩 ▲同歩 △6五桂のような仕掛けも生じます。




中盤

【将棋】第31期竜王戦七番勝負 第5局 羽生善治 竜王 対 広瀬章人 八段の対局で35手指した局面
point
36手目:形勢判断と候補手
互角:△4四角、△5二飛、△6五歩 など
35手目の継ぎ歩に対して、△同歩と取ってはいけません。
▲同飛の角桂両取り自体は△2二角と引けば受かりますが、
そこで▲2四歩の垂らしが厳しい手となります。
以下、△3三桂 ▲2八飛 △2五歩のような手順で
2筋の突破を防ぐことはできますが、後手陣の形が悪くなっています。

▲2四歩と取り込まれる手に対しては△2二歩と打っておけば受かるので
後手は2筋を凹まされる代償として攻撃態勢を整えておきます。
本譜は△6五歩と突きました。



【将棋】第31期竜王戦七番勝負 第5局 羽生善治 竜王 対 広瀬章人 八段の対局で43手指した局面
point
44手目:形勢判断と候補手
互角:△4五歩、△8六歩 など
次の先手の狙いは▲4六角からの角交換です。
後手陣には隙が無いので応じても問題なさそうですが、
▲6三角と打たれる手を防ぐために6三の銀が使いづらくなります。

44手目では△8六歩 ▲同歩と先に8筋を突き捨てておいてから
△4五歩と突いて角交換を拒否しておく手順が有力です。
本譜は△4三銀と上がりました。
部分的には雁木の好形ですが、5三の地点が弱くなるので一長一短です。



【将棋】第31期竜王戦七番勝負 第5局 羽生善治 竜王 対 広瀬章人 八段の対局で48手指した局面
point
49手目:形勢判断と候補手
互角:▲2七角、▲1八角、▲3六角
次に後手が△6二金と上がると、6三の銀と7三の桂に紐が付くうえに、
飛車の横利きが通って△5一飛と回ることもできるようになります。
つまり、△6二金は後手にとって非常にプラスの大きい手です。
それを踏まえると、例えば▲9六歩は先手にとってプラスの手ですが、
後手よりもプラスが小さいので、損をしていると考えます。
相手に価値の高い手がある場合、それを指させないという指し方も重要です。

49手目は「遠見の角に好手あり」で、
6三の銀と8一の飛車を睨んで角を打つ手が有力です。
本譜は▲2七角と打ちました。
△6二金には▲6三角成 △同金 ▲7二銀の飛車金両取りがありますので、
相手の指したい手を防ぐことができています。



【将棋】第31期竜王戦七番勝負 第5局 羽生善治 竜王 対 広瀬章人 八段の対局で51手指した局面
point
52手目:形勢判断と候補手
先手有利:△5二金、△5二玉、△6二金、△8四飛 など
後手は6三の地点が手薄なので、そこへ援軍を送る△6二金や△5二金、
あるいは少し指しづらいですが顔面受けで△5二玉という手が有力です。

本譜は△8四飛と浮きました。
飛車を逃げつつ、桂頭を守っており、△7五歩と攻めると横利きも通ります。



【将棋】第31期竜王戦七番勝負 第5局 羽生善治 竜王 対 広瀬章人 八段の対局で60手指した局面
point
61手目:形勢判断と候補手
先手有利:▲7一銀、▲6三銀、▲5八金 など
次に△5七角~△3五角成とされる手順は気になるので、
61手目で▲5八金と1回受けておく手は有力です。

攻めるならば6二の金を標的にして、▲7一銀や▲6三銀と打ち込んでいきます。
金や飛車の単独の守りに対しては、
角と銀の2枚だけで崩すことができる場合も多いです。
金や飛車は価値が高い駒なので、駒取りに対しては逃げるしかないことも多く、
その結果、隙が生じて馬や成銀を作ることができるようになります。



【将棋】第31期竜王戦七番勝負 第5局 羽生善治 竜王 対 広瀬章人 八段の対局で68手指した局面
point
69手目:形勢判断と候補手
先手有利:▲7二金、▲7五歩
69手目で▲7五歩と手を戻しておく指し方は有力ですが、
△7六歩と打たれて囲いを崩されることに変わりはありません。
先手か後手のいずれかが歩切れならば話は別ですが、
とりあえず他に有力な手がないかを考えてみたいところです。

ここは少し見えづらいのですが▲7二金と打つのが好手です。
多くの場合、このような手は打った金が最後まで盤上に取り残されて、
先手が金落ちのような状態で戦うことになるため、が悪いとされますが、
この局面では、先手も馬を作って7三の桂を取れば、
後手玉が狭いので、十分に寄せの形を作ることができそうです。



【将棋】第31期竜王戦七番勝負 第5局 羽生善治 竜王 対 広瀬章人 八段の対局で76手指した局面
point
77手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲2三歩成
77手目で▲6二金のように逃げてはいけません。
△7六歩~△5五角が厳しく、一気に難解な形勢となります。
7三の金は当初の役割を果たしたうえ、現局面では働きが少し弱く、
1手の価値の方が勝っています。つまり取られても良い駒です。

先手は持ち駒不足なので、盤上の駒、特に大駒の活用から考えます。
▲5八飛では遅いので、速度重視で▲2三歩成からの継ぎ歩攻めを狙います。



【将棋】第31期竜王戦七番勝負 第5局 羽生善治 竜王 対 広瀬章人 八段の対局で83手指した局面
point
84手目:形勢判断と候補手
先手優勢:△3一金
84手目で△3一歩と底歩を打てば、後手の囲いは堅くなりますが、
手番を先手に渡してしまうため、▲7六銀と手を戻されてしまいます。
ここは竜取りの受けが必須ですので、△3一金と引くしかありません。




終盤

【将棋】第31期竜王戦七番勝負 第5局 羽生善治 竜王 対 広瀬章人 八段の対局で92手指した局面
point
93手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲4五桂、▲7二角 など
後手玉には3三と5三から中段への逃走ルートがあります。
ここでは▲4五桂と打って、その両方を塞いでおきたいところです。

対して、後手は「桂先の銀定跡なり」に従って受けますが、
4三の銀を前進させて△4四銀では▲5四角が詰めろ飛車取りになります。
よって、△4四銀打と持ち駒を投入することになりますが、
先手は攻めながらにして自玉を安全にすることもできます。



【将棋】第31期竜王戦七番勝負 第5局 羽生善治 竜王 対 広瀬章人 八段の対局で99手指した局面
point
100手目:形勢判断と候補手
先手優勢:△7一飛、△8七飛成
次に▲3一角が厳しいので、後手は飛車を逃げている暇がありません。
△8七飛成と王手で先手陣を乱す手も考えられますが、
紛れの多さを求めて△7一飛と金を取る方が実戦的です。
△7一飛に対しては、飛車の横利きで▲3一角が打てないので、
先手は▲同金と取るしかありません。
後手にとって飛車金交換の駒損ではありますが、
6二にいた金をほぼ無力化できたので、1.5枚替えくらいの価値があります。



【将棋】第31期竜王戦七番勝負 第5局 羽生善治 竜王 対 広瀬章人 八段の対局で111手指した局面
point
112手目:形勢判断と候補手
先手優勢:△4四歩、△5四金
112手目で最も粘りのある受けは△5四金です。
しかし、持ち駒から金駒がなくなるので先手玉も安全になってしまいます。
後手が完全に受け切って勝つということは既に難しいため、
逆転の可能性を考えれば△4四歩と節約して受けるのが実戦的です。



【将棋】第31期竜王戦七番勝負 第5局 羽生善治 竜王 対 広瀬章人 八段の対局で120手指した局面
point
121手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲4五歩、▲7五銀、▲9五銀
121手目で▲同銀と取ってはいけません。
△7五桂~△8七歩のような攻めが厳しく難解な形勢となります。
後手の歩を8五に残しておけば、1手で8七まで来ることはありません。

ほとんどの場合、敗勢側からの攻めはどこかで手抜くことができます。
その機会を常に狙うようにしましょう。



【将棋】第31期竜王戦七番勝負 第5局 羽生善治 竜王 対 広瀬章人 八段の対局で126手指した局面
point
127手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲3五歩、▲5三歩 など
この△2八飛は攻防手で、先手玉を狙いつつ、入玉も狙っています。
127手目は3四からの上部脱出ルートを塞ぐために▲3五歩と打つ手が有力です。
後手が△3四歩~△3五歩と切り開いてくる手順は考えられますが、
少なくとも1歩で1手を稼ぐことはできています。



【将棋】第31期竜王戦七番勝負 第5局 羽生善治 竜王 対 広瀬章人 八段の対局の投了図
139手にて、後手の広瀬八段が投了し、羽生竜王の3勝、広瀬八段の2勝となりました。

投了図以降、後手玉には▲3二銀、▲4三馬、▲2二歩などから
複数の詰み筋があります。
後手が最後の抵抗をするならば△8二飛のような手になりますが、
▲2二歩でも▲8三歩でも良く、後手の受けが苦しくなるだけです。

本局では羽生竜王の自玉の安全を保ちつつ
攻めを繋げる指し回しが非常に勉強になりました。

棋譜

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棋戦:第31期竜王戦七番勝負 第5局
先手:羽生善治竜王
後手:広瀬章人八段
手数----指手---------消費時間--
1 7六歩(77) ( 0:00/00:00:00)
2 8四歩(83) ( 1:00/00:01:00)
3 6八銀(79) ( 6:00/00:06:00)
4 3四歩(33) ( 2:00/00:03:00)
5 7七銀(68) ( 1:00/00:07:00)
6 6二銀(71) ( 2:00/00:05:00)
7 2六歩(27) ( 4:00/00:11:00)
8 3二金(41) ( 1:00/00:06:00)
9 2五歩(26) ( 4:00/00:15:00)
10 7四歩(73) ( 2:00/00:08:00)
11 7八金(69) ( 2:00/00:17:00)
12 8五歩(84) ( 2:00/00:10:00)
13 5六歩(57) (15:00/00:32:00)
14 4一玉(51) ( 3:00/00:13:00)
15 7九角(88) ( 3:00/00:35:00)
16 6四歩(63) ( 3:00/00:16:00)
17 2四歩(25) ( 7:00/00:42:00)
18 同 歩(23) ( 0:00/00:16:00)
19 同 角(79) ( 0:00/00:42:00)
20 2三歩打 ( 1:00/00:17:00)
21 6八角(24) ( 0:00/00:42:00)
22 6三銀(62) (13:00/00:30:00)
23 4八銀(39) ( 2:00/00:44:00)
24 7三桂(81) ( 4:00/00:34:00)
25 6九玉(59) ( 4:00/00:48:00)
26 4二銀(31) ( 6:00/00:40:00)
27 3六歩(37) ( 7:00/00:55:00)
28 5四歩(53) (18:00/00:58:00)
29 3七銀(48) ( 4:00/00:59:00)
30 5五歩(54) (50:00/01:48:00)
31 同 歩(56) ( 2:00/01:01:00)
32 同 角(22) ( 0:00/01:48:00)
33 2四歩打 (25:00/01:26:00)
34 同 歩(23) ( 3:00/01:51:00)
35 2五歩打 ( 0:00/01:26:00)
36 6五歩(64) (15:00/02:06:00)
37 2四歩(25) (13:00/01:39:00)
38 2二歩打 ( 0:00/02:06:00)
39 7九玉(69) (29:00/02:08:00)
40 4四歩(43) (14:00/02:20:00)
41 3五歩(36) (32:00/02:40:00)
42 同 歩(34) ( 4:00/02:24:00)
43 同 角(68) ( 0:00/02:40:00)
44 4三銀(42) ( 4:00/02:28:00)
45 4六角(35) ( 9:00/02:49:00)
46 同 角(55) ( 3:00/02:31:00)
47 同 銀(37) ( 0:00/02:49:00)
48 8一飛(82) (26:00/02:57:00)
49 2七角打 (19:00/03:08:00)
50 5四歩打 (70:00/04:07:00)
51 5五歩打 ( 3:00/03:11:00)
52 8四飛(81) (12:00/04:19:00)
53 5四歩(55) ( 8:00/03:19:00)
54 同 銀(63) ( 4:00/04:23:00)
55 5五歩打 (14:00/03:33:00)
56 4五銀(54) ( 1:00/04:24:00)
57 同 銀(46) ( 1:00/03:34:00)
58 同 歩(44) ( 1:00/04:25:00)
59 同 角(27) ( 0:00/03:34:00)
60 6二金(61) (10:00/04:35:00)
61 7一銀打 (41:00/04:15:00)
62 5七角打 ( 3:00/04:38:00)
63 8八玉(79) ( 0:00/04:15:00)
64 3五角成(57) ( 0:00/04:38:00)
65 1八角(45) ( 0:00/04:15:00)
66 7五歩(74) (27:00/05:05:00)
67 6二銀(71) (30:00/04:45:00)
68 同 馬(35) ( 0:00/05:05:00)
69 7二金打 ( 0:00/04:45:00)
70 5一馬(62) (17:00/05:22:00)
71 6三角成(18) (20:00/05:05:00)
72 5二銀打 ( 5:00/05:27:00)
73 7三馬(63) ( 2:00/05:07:00)
74 同 馬(51) ( 0:00/05:27:00)
75 同 金(72) ( 0:00/05:07:00)
76 6四角打 ( 2:00/05:29:00)
77 2三歩成(24) (17:00/05:24:00)
78 同 歩(22) (10:00/05:39:00)
79 2四歩打 ( 1:00/05:25:00)
80 同 歩(23) (25:00/06:04:00)
81 同 飛(28) ( 7:00/05:32:00)
82 7六歩(75) ( 1:00/06:05:00)
83 2一飛成(24) (49:00/06:21:00)
84 3一金(32) ( 0:00/06:05:00)
85 3三桂打 ( 0:00/06:21:00)
86 4二玉(41) ( 0:00/06:05:00)
87 7六銀(77) ( 0:00/06:21:00)
88 8六歩(85) (14:00/06:19:00)
89 6二金(73) (26:00/06:47:00)
90 2一金(31) (19:00/06:38:00)
91 同 桂成(33) ( 4:00/06:51:00)
92 8一飛(84) ( 1:00/06:39:00)
93 4五桂打 (14:00/07:05:00)
94 8七歩成(86) ( 0:00/06:39:00)
95 同 銀(76) ( 0:00/07:05:00)
96 4四銀打 ( 0:00/06:39:00)
97 7一金打 (24:00/07:29:00)
98 5五角(64) ( 8:00/06:47:00)
99 7七歩打 ( 1:00/07:30:00)
100 7一飛(81) ( 1:00/06:48:00)
101 同 金(62) ( 0:00/07:30:00)
102 4五銀(44) ( 0:00/06:48:00)
103 3一角打 ( 2:00/07:32:00)
104 3二玉(42) ( 0:00/06:48:00)
105 2二飛打 ( 8:00/07:40:00)
106 3三玉(32) ( 2:00/06:50:00)
107 5二飛成(22) ( 7:00/07:47:00)
108 同 銀(43) ( 2:00/06:52:00)
109 2二角成(31) ( 0:00/07:47:00)
110 4三玉(33) ( 6:00/06:58:00)
111 5五馬(22) ( 0:00/07:47:00)
112 4四歩打 ( 0:00/06:58:00)
113 6五馬(55) ( 4:00/07:51:00)
114 5四歩打 ( 0:00/06:58:00)
115 4六歩(47) ( 0:00/07:51:00)
116 8六歩打 ( 1:00/06:59:00)
117 同 銀(87) ( 0:00/07:51:00)
118 8七歩打 ( 1:00/07:00:00)
119 同 馬(65) ( 0:00/07:51:00)
120 8五歩打 ( 8:00/07:08:00)
121 7五銀(86) ( 0:00/07:51:00)
122 9五桂打 (12:00/07:20:00)
123 9六馬(87) ( 0:00/07:51:00)
124 3六銀(45) ( 0:00/07:20:00)
125 9五馬(96) ( 0:00/07:51:00)
126 2八飛打 ( 0:00/07:20:00)
127 3五歩打 ( 1:00/07:52:00)
128 8六歩(85) ( 4:00/07:24:00)
129 同 馬(95) ( 0:00/07:52:00)
130 3四歩打 ( 0:00/07:24:00)
131 5三歩打 ( 1:00/07:53:00)
132 8七歩打 ( 1:00/07:25:00)
133 同 馬(86) ( 0:00/07:53:00)
134 5三銀(52) ( 0:00/07:25:00)
135 6一角打 ( 0:00/07:53:00)
136 3二玉(43) ( 0:00/07:25:00)
137 3四角成(61) ( 0:00/07:53:00)
138 2一玉(32) ( 0:00/07:25:00)
139 2四桂打 ( 0:00/07:53:00)
140 投了 ( 1:00/07:26:00)
まで139手で先手の勝ち


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