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「千日手」の読み方
せんにちて
「千日手」の説明
概要
盤上の駒の配置、持ち駒の種類・枚数、手番のすべてが同一となる局面が4回現れた際に、王手を連続でかけている場合(後述)を除き、無勝負となる将棋のルール。どのような手順で同一局面となったかは問わない。
ルールの適用方法
同一局面が4回現れた時点で、手番を問わず、どちらかが「千日手ですね」のように申し出れば、その時点で成立となる。アプリを使用した対局では、自動で判定してくれる場合もある。尚、プロにおいては、記録係が「千日手」の成立を宣言する場合もある。
合意による手順の省略
両対局者の合意があれば、同一局面が4回に満たなくても千日手を成立させることはできる。しかし、秒読みならば同一局面3回目まで指すことで考える時間を稼ごうとする場合もあるし、指し直すくらいならば手を変えようと思う場合もある。よって、必然の手順であっても4回目まで指した方が無難である。
成立の見逃し
同一局面が4回現れたことに気付かないで指し進めてしまっても反則ではないが、5回目でどちらかが手を変えた場合は、再度同一局面が現れない限り、千日手が成立しない。
成立後の一般的な対応
千日手が成立した場合、一般的には先手と後手を入れ替えて指し直しとなり、引き分けで終了ということはまずない。この際、プロの公式戦では30分の休憩が挟まれることが多いが、アマの大会などではすぐに指し直し局が始められることがほとんどである。また、持ち時間が定められている対局においては、千日手局の残り時間を引き継ぐことも多いが、残り時間が少ない方の持ち時間を一定の時間まで増やしたうえで、他方の持ち時間も同じだけ増やすこともある。但し、最初の持ち時間を超えて増やすことはない。
先手と後手の認識の違い
プロの公式戦においては先手の方がわずかに勝率が高く、一般的にも先手がわずかに良いとされている。このことから、先手は先後入れ替えを嫌って千日手を回避するような指し方をすることが多いが、逆に後手は積極的に千日手を狙うような指し方をすることもある。
連続王手の千日手
同一局面が現れるまでの手順で、いずれかが連続で王手をかけている場合は「連続王手の千日手」となり、同一局面が4回現れた時点で連続で王手をかけていた側が反則負けとなる。「連続王手」とは「(王手をかけている側が)すべての指し手で王手をかけていること」を意味しており、逆に言うと、循環手順中に王手でない指し手が1手でも含まれる場合は「連続王手の千日手」には該当しない(通常の「千日手」となる)。「連続王手の千日手」が発生した場合、連続で王手をかけられた側が指摘をして終局となる。
「連続王手の千日手」は反則であるため、成立後に指し進めてしまった場合でも、投了前であれば指摘できる。但し、棋譜が残っていなければ、遡って立証することが困難であるため、実質的には成立時点で指摘をするしかない。尚、「連続王手の千日手」というと「王手」の印象が強くなってしまうが、必ずしも成立局面で王手がかかっているとは限らない。他に、王手をかけられている側が王手を回避した時点で同一局面4回となる場合もあるので、起点となる局面の判断には注意が必要である。
ルール変遷
江戸時代、千日手は中終盤の攻防時に現れるもので、序盤では当然に避けるべきものと考えられていた。そのため、千日手となりそうな場合、その局面で攻めている方、不明時は仕掛けた方が手を変えて打開するというやや曖昧なルールになっていた。
これが、1900年代前半から序盤の駒組みで千日手が現れるようになったこともあり「同一局面に戻る同一手順を連続3回」というルールに変更された。お互いが仕掛けられず、駒の往復による手待ちを繰り返すという状況を主に想定したものである。
ところが、このルールにも不備があり、少しずつ手順を変えることで千日手を回避し、秒読み時に考える時間を稼ぐという指し方が出てきた。例えば、金の往復でも、上⇔下、右⇔左などを組み合わせると、永久に指し続けることが可能である。1983年3月8日の米長邦雄 棋王・王将 vs 谷川浩司 八段の対局でも、同一局面が9回出現した後、谷川八段が打開した結果、米長棋王・王将が勝利したということが注目された。その結果、ルール改正の機運が高まり、1983年5月、「同一局面4回」という条件に変更された。尚、「同一手順3回」でも、同一局面が4回現れているので、不備がなくなっただけで、実質的には変わっていないとも言える。
「千日手」の用例
[図1]
上の [図1] は、先手が後手玉に有効な詰めろをかけるならば▲4三金となる。後手が3二の金取りを受けるためには△3一金と打つしかないが、▲3二金 △同金 となると [図1] と同じ形(2回目)になる。この後、▲4三金 △3一金 ▲3二金 △同金 ▲4三金 △3一金 ▲3二金 △同金で、同一局面が4回現れたので「千日手」成立となる。尚、▲3二金と指した手は王手だが、▲4三金は王手ではないので「連続王手の千日手」には当たらない。
[図2]
上の [図2] で、先手が▲3一角成と指すと、後手は△3三玉と上がる。先手は後手玉に2四と4四から逃げられないようにするためには、▲4二馬と引くしかないが、△2二玉 ▲3一馬 とすると最初に角を成った形に戻る(2回目)。以下、△3三玉 ▲4二馬 △2二玉 ▲3一馬 △3三玉 ▲4二馬 △2二玉 ▲3一馬で、同一局面が4回現れたので「千日手」成立となる。しかし、先手の手順において「▲4二馬」も「▲3一馬(▲3一角成)」もすべて王手なので「連続王手の千日手」となり、3回目に▲3一馬と指した時点(同一局面が4回)で先手が反則負けとなる。
尚、時間を稼ぐだけならば▲3一角不成と最初に指し、同一局面が3回現れてから▲3一角成とすれば、角と馬の違いで、千日手成立となるまで少しだけ長く指すことができる。
[図3]
上の [図3] は、2018年5月12日に行われた
第3期叡王戦決勝七番勝負第3局 金井六段vs高見六段 千日手局の94手目に後手の高見六段が△4四歩と突いた局面。ここから▲3一飛 △4三玉 ▲4一飛成 △4二飛 ▲同竜 △同玉という手順が3回繰り返された(下の図4)。
[図4]
上の [図4] は、 [図3] と同一局面である。112手で「千日手」成立となり、先後入れ替えで指し直しとなった。尚、94手目は「△4四歩」で112手目は「△4二同玉」という指し手の違いがあるが、手順は考慮しないこととなっている。
[図5]
上の [図5] は、2019年4月10日から11日にかけて行われた
第77期名人戦七番勝負 第1局 佐藤天彦 名人 対 豊島将之 二冠の「千日手」成立局面。58手目が指された時刻は1日目の午後3時2分であったが、名人戦の対局規定では「1日目の午後3時以降に千日手になった時は2日目に1日指し切りで行う」こととなっていたため、2日制の対局にも関わらず封じ手がないという珍しい事態になった。当初、作戦ミスで時間を多く消費していた先手の佐藤名人が、リカバリーのために、後手の豊島二冠の持ち時間を確実に減らすことを目的として、午後3時を回るまで「千日手」成立を待っていたのではないか、と言われていた。しかし、両対局者共に規定の詳細を把握しておらず、1日目に指し直すものと考えていたようである。尚、「千日手」成立から1日目の終局時刻である午後6時半までの時間(208分)については、折半して両者の残り時間からそれぞれ引かれた。
「千日手」に関連する用語
先手
俗手
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