目次
解説動画
第3期叡王戦第4局
叡王戦第2局
対局情報
局面解説
序盤
本局は先手が永瀬七段、後手が高見叡王です。
戦型は角換わりで、先手が早繰り銀、後手が腰掛け銀となりました。
26手目:形勢判断と候補手
互角:△4五歩、△4二玉、△4三銀 など
26手目に△同歩と取ってはいけません。
▲同銀で先手の銀が手順に五段目に進むので、棒銀のお手伝いとなります。
ここは△4五歩と突き違えて、
3五の歩を支えている4六の銀を狙うのが手筋です。
28手目:形勢判断と候補手
互角:△同銀
28手目で△4六歩 ▲3三歩成と銀を取り合うと後手が形勢を損ねます。
以下△同金 ▲4六歩の後、後手は
手番を生かして攻めますが、
後手陣は守備駒の銀を
剥がされたうえに左金が上ずっており、
先手玉の遠さもあって、攻め合いでは速度が逆転します。
但し、この局面で、先手陣が7九玉&6九金の形ではなく、
6八玉&7八金の形であれば話は変わります。
△4六歩 ▲3三歩成 △4七歩成 ▲3二と と
駒損無視で一直線に殴り合ってから△4六角と打てば
2八の飛車取りと△5七角成の両狙いで攻めが続くので後手も十分に戦えます。
先手は
駒組みを工夫することで、激しい攻め合いの変化を防ぎつつ、
本譜の変化に後手を誘導していると言えます。
36手目:形勢判断と候補手
互角:△7三桂
36手目で△2五銀と歩を取ってはいけません。
▲3六銀と
ぶつけられて銀交換を迫られてしまいます。
銀交換後は先手の飛車の利きが後手陣に直通してきますし、
▲7一銀の
割り打ちもあります。
居玉のままで一方的に攻められてしまう展開になると
とても勝ち目はなく、1歩得では全く釣り合いません。
本譜は△7三桂と跳ねました。
△6五桂や△8一飛の含みが生じるので確実に指しておきたい1手です。
中盤
43手目:形勢判断と候補手
互角:▲3七桂、▲5六歩、▲6八金右、▲3五銀 など
43手目に▲同歩と取ってはいけません。
3三の角の
睨みもあって、△同桂が厳しい攻めになります。
以下、▲8八銀と引いても△8七歩 ▲同金 △9七桂成のような強襲があり、
後手の飛車角が最大限に働いてしまいます。
△8六歩と取り込まれて▲8八歩と辛抱するのは部分的に悪い形ですが、
後手の攻めは遅れますし、消去法で考えても、この選択は仕方ありません。
悪形の代償が得られなければ作戦ミスですが、それ以上の戦果があれば良く、
本局では後手よりも早く相手陣に攻め込むことができれば作戦成功です。
53手目:形勢判断と候補手
互角:▲3三歩成
53手目は▲3三歩成と
焦点に
成り捨てるのが飛車先を軽くする
好手です。
3四の歩がいなくなれば、浮いている3二の金を飛車で狙いやすくなります。
54手目:形勢判断と候補手
互角:△3五銀
△同桂は4四の銀がタダ、△同角は▲4四銀 △同角で3二の金がタダ、
△同金は▲4四銀 △同金に▲3二飛成と成り込まれてしまいます。
敢えて と金を取るならば△同銀ですが、先手に1手の余裕が生じるので
▲7五歩~▲2四歩のような手順が間に合って、攻めが続きやすくなります。
本譜は△3五銀としました。駒の取り合いが少し怖いですが、
先手陣は飛車の
打ち込みに弱いので後手優勢となります。
60手目:形勢判断と候補手
後手有利:△1四歩、△4三銀
60手目で本譜は△1四歩と突きましたが、これが好手でした。
△1三角~△2五歩の
間接王手飛車を狙っており、▲5六歩を
咎めています。
実現まではあと2手もかかるので遅いようですが、
先手は歩切れなので▲3四歩のような早い攻めがありません。
真の狙いは、プレッシャーを与えて不十分な状態で仕掛けさせることで、
相手の攻めの脅威を緩和し、反撃をより厳しくするという高度なものです。
73手目:形勢判断と候補手
互角:▲6三桂
72手目の△6五桂を▲同歩と取ると△6六桂の
ふんどしがより厳しいため、
とりあえず放置しておくしかありません。
先手からの攻めは▲3二角成 △同歩 ▲同飛成が最も厳しいのですが、
後手に角を渡すので反動が厳しくなります。
本譜は▲6三桂と打ちました。6三の地点は金で守っているようですが、
△同金には▲7二銀があるため、常に急所となっています。
79手目:形勢判断と候補手
後手有利:▲同歩
79手目で▲同歩と取る手は有力です。
▲同歩に対しては△6九銀と
王手で捨てるのが手筋で、
▲同玉に△8七飛成と
成り込まれてしまいますが、
▲7八銀と打って、桂取りを受けつつ竜取りで返せば、簡単には寄りません。
但し、玉を下段に落とされるので、
以降の相手の攻め方が分かりやすくなるというリスクはあります。
本譜は▲6七玉とかわしました。
厳密に言えば危険ですが「
中段玉は寄せにくし」で複雑になります。
80手目:形勢判断と候補手
後手有利:△4四歩
80手目で△7七と と捨てて▲同桂に△8八飛成とすると、
飛車取りを避けつつ、先手玉に
詰めろがかかるので味が良さそうですが、
▲6五桂と桂を取る手が
詰めろ逃れの詰めろで絶好の攻防手になります。
本譜は△4四銀と打ちましたが、これが好手でした。
飛車をいじめながら上部を押さえつつ、2二の角を攻めに活用できます。
終盤
90手目:形勢判断と候補手
後手優勢:△6四歩
90手目は△6四歩と打つ手が有力です。
▲同玉は△6三飛からの詰みがあるので、▲6六玉と引きますが、
手順に盤上の拠点が1つ増えます。
本譜は△6四銀と打ちました。
拠点を残すという意味合いは同じで、
加えて▲6六玉に△5五金と王手銀取りに打てますが、
疑問手でした。
98手目:形勢判断と候補手
後手有利:△5四銀
後手は王手銀取りをかけた後に王手金取りで返されてしまったので、
結果的に銀金交換で終わりました。
こうなると6四に銀を手放した代償としてはイマイチで
後手は攻め駒が1枚足りない状態となってしまいました。
よって、98手目では、変調ですが△5四銀と打って長期戦を目指す手が有力で
後手が互角以上の形勢を維持することはできました。
本譜は△5五飛と打ちましたが、これも飛車角交換で
駒得には至らず、
また、先手の持ち駒に飛車を増やしたことで反動も厳しくなりました。
対局中は1度優勢を逃すと必要以上に悲観的になったり
焦って無理攻めをしたりすることがあります。
ミスした側が冷静に再考できれば良いですが、
これは分かっていてもかなり難しいことです。
逆に相手側はノータイムで指してプレッシャーを与え続けることで
更なるミスを誘うという勝負術もあります。
110手目:形勢判断と候補手
先手優勢:△7八と
110手目で後手に歩以外の持ち駒がもう1枚あれば、△6七歩と
叩くのが手筋で、
8七の と金を残して先手玉を7筋に逃がさない寄せ方が有力です。
本譜では5七の金を取らなければ、後手の戦力不足は解消されないので、
△7八と と捨てるのが手筋です。
対して、▲5八玉や▲6七玉でも凌いではいますが、
本譜の場合は8筋~9筋が広いので、先手は と金を取った方が安全です。
113手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲6三歩
先手玉は次に△8六歩と打たれてしまうと急に狭くなります。
また△5六馬~△4五馬と上部を開拓されてしまう手順も気になります。
先手は1手の余裕があるものの、ゆっくりはできませんので、
詰めろか王手で迫るしかありません。
本譜は▲6三歩と打ちましたが、やはりここが急所になります。
どう応じても後手陣に隙が増えて、飛車を使った攻めが効果的になります。
119手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲5六金、▲5七桂 など
119手目で▲8二飛のように攻めても優勢は維持できますが、
後手の持ち駒に金があるので△7二金と飛車取りで受けられて忙しくなります。
本譜は▲5六金と打ちました。
△8一馬と成桂を取られてしまいますが、先手玉がかなり安全になりますし、
▲6五歩と打つ土台になってもいるので、攻め筋がなくなることもありません。
125手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲6四歩、▲3二角成、▲6四桂 など
124手目の△8二銀は、先手に対するプレッシャーが全く発生していないので、
単に逃げただけとなり、終盤においては非常に価値の低い手です。
このような手が見られると、相手が敗勢を意識していることが分かり、
そして自玉に対する有効な攻めがないことの裏付けにもなります。
もちろん相手が投了するまで油断はできませんが、
落胆した表情やため息などよりも遥かに信頼できる情報です。
135手にて、後手の高見叡王が投了し、永瀬七段の1勝となりました。
投了図以降、玉を下段に逃げるのは2枚の飛車を打って短手数の詰みです。
△同馬と取る方が複雑ですが、▲同歩成 △同玉に
▲5五桂と跳ねるのが気持ちの良い王手で、
以下△5二玉に▲6三角 △4二玉 ▲4一飛 △3三玉 ▲4三飛成と
大駒で迫っていけば後手玉は詰みとなります。
本局では永瀬七段の、分かりやすい決め手を与えず、
勝ちを逃さない指し方が非常に勉強になりました。
棋譜
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棋戦:第4期叡王戦七番勝負 第1局
先手:永瀬拓矢七段
後手:高見泰地叡王
手数----指手---------消費時間--
1 7六歩(77)
2 8四歩(83)
3 2六歩(27)
4 3二金(41)
5 2五歩(26)
6 8五歩(84)
7 7七角(88)
8 3四歩(33)
9 8八銀(79)
10 7七角成(22)
11 同 銀(88)
12 2二銀(31)
13 4八銀(39)
14 6二銀(71)
15 3六歩(37)
16 6四歩(63)
17 3七銀(48)
18 3三銀(22)
19 6八玉(59)
20 6三銀(62)
21 4六銀(37)
22 5四銀(63)
23 7九玉(68)
24 4四歩(43)
25 3五歩(36)
26 4五歩(44)
27 3四歩(35)
28 同 銀(33)
29 3七銀(46)
30 3三角打
31 7八金(69)
32 7四歩(73)
33 5八金(49)
34 6二金(61)
35 3八飛(28)
36 7三桂(81)
37 2六銀(37)
38 4三銀(34)
39 3六飛(38)
40 8六歩(85)
41 同 歩(87)
42 8五歩打
43 3四歩打
44 5五角(33)
45 3七桂(29)
46 8六歩(85)
47 8八歩打
48 8一飛(82)
49 6六銀(77)
50 2二角(55)
51 3五銀(26)
52 4四銀(43)
53 3三歩成(34)
54 3五銀(44)
55 同 飛(36)
56 3三桂(21)
57 2四歩(25)
58 同 歩(23)
59 5六歩(57)
60 1四歩(13)
61 3四銀打
62 8七銀打
63 5五歩(56)
64 6五銀(54)
65 2一角打
66 3一歩打
67 4五桂(37)
68 同 桂(33)
69 同 銀(34)
70 6六銀(65)
71 同 歩(67)
72 6五桂(73)
73 6三桂打
74 5二玉(51)
75 7一桂成(63)
76 7八銀成(87)
77 同 玉(79)
78 8七歩成(86)
79 6七玉(78)
80 4四銀打
81 6五歩(66)
82 3五銀(44)
83 8一成桂(71)
84 5五角(22)
85 6六銀打
86 同 角(55)
87 同 玉(67)
88 6五歩(64)
89 同 玉(66)
90 6四銀打
91 6六玉(65)
92 5五金打
93 5七玉(66)
94 4五金(55)
95 3四角打
96 4三歩打
97 4五角(34)
98 5五飛打
99 5六金打
100 4五飛(55)
101 同 金(56)
102 3九角打
103 4八銀打
104 6五桂打
105 6八玉(57)
106 5七銀打
107 同 銀(48)
108 同 桂成(65)
109 同 金(58)
110 7八と(87)
111 同 玉(68)
112 5七角成(39)
113 6三歩打
114 5六馬(57)
115 6七銀打
116 4五馬(56)
117 6二歩成(63)
118 同 玉(52)
119 5六金打
120 8一馬(45)
121 6五歩打
122 7三銀(64)
123 8五桂打
124 8二銀(73)
125 6四歩(65)
126 6六歩打
127 同 金(56)
128 5四桂打
129 3二角成(21)
130 6六桂(54)
131 同 銀(67)
132 4五馬(81)
133 6七桂打
134 3二歩(31)
135 6三金打
136 投了
まで135手で先手の勝ち
第3期叡王戦第4局
叡王戦第2局