目次
王位戦第2局
王位戦第4局
対局情報
豊島 将之 王位(二冠)<先手>
木村 一基 九段<後手>
局面解説
序盤
23手目:形勢判断と候補手
互角:▲3七桂、▲9六歩、▲1六歩、▲6六歩、▲7九角 など
先後同型となり、一昔前ならば、お互いが金矢倉に組もうかという所ですが、
本譜は▲3七桂と跳ねました。桂の早い活用が現代将棋の特徴です。
但し、▲3七銀と出る含みがなくなって、形を決めすぎている面もあるため、
手の内を見せたくない場合は▲6六歩や▲7九角を先に指します。
30手目:形勢判断と候補手
互角:△6三銀、△7三桂、△1四歩、△4三金左、△4三金右 など
30手目で無難に
駒組みを進めるのであれば、
△6三銀、△7三桂、△1四歩などが有力です。
本譜は△4三金左として、バランス重視の陣形でいくことを明らかにしました。
次に△3二玉と上がれば1手で玉の囲いは完成です。
△4三金右から金矢倉を目指す手も十分に有力ですが、
完成までに△4二角~△3一玉~△2二玉と3手かかります。
2手多くかけた分、きちんと玉が堅くなっているので全く問題ないのですが、
攻めの技術が向上したことで、プロレベルでは価値観が変動しつつあります。
中盤
39手目:形勢判断と候補手
互角:▲6八角、▲5七角、▲3六銀
39手目では▲6八角や▲5七角と
引いておく手も有力ですが、
△5三角と出られてしまうと、6二の銀を繰り出すよりも早く、
3五の地点に駒の
利きを足されてしまうのが気になります。
この局面では3筋を中心とした制空権争いが重要になっているため、
本譜は▲3六銀と上がって、先に3五の地点に利きを足しました。
△3五銀 ▲同銀となると角銀交換の
駒損ですが、
手薄になっている2筋を棒銀で攻めることができるため、先手有利です。
47手目:形勢判断と候補手
互角:▲2四歩
47手目では▲2四歩 △同歩 ▲同飛としてから、
△2三歩に対して、飛車を逃げずに▲3三歩と打つ手順が有力です。
本譜は単に▲3三歩と打ちましたが、2筋の歩交換ができなくなったため、
先手の持ち駒の歩が不足して、攻め方が難しくなりました。
56手目:形勢判断と候補手
後手有利:△4四銀、△3七銀 など
56手目で△同歩と取ると、▲5四歩に△同銀と引かされてしまって、
先手の攻撃陣が楽になるうえに、▲5九歩と
底歩を打つこともできるようになるため、
先手に飛車を切るような強い攻め筋が生じる恐れもあります。
この局面では、依然として制空権を意識することが重要ですが、
相手の
大駒を狙いながら持ち駒を打っていくと、優位に立ちやすくなります。
本譜は飛車を狙って△3七銀と打ちましたが、
角を狙って△4四銀も有力です。
68手目:形勢判断と候補手
後手有利:△4三玉
68手目は△4三玉と上がって、
入玉を視野に入れつつ、
「
中段玉は寄せにくし」の状態にする手が有力です。
本譜は△4八成桂と寄って、飛車を捕まえに行きましたが、
その間に玉を狙われてしまったので、危険な1手でした。
玉頭戦を制した後の基本は中段玉の維持です。
これだけでかなり負けづらくなります。
73手目:形勢判断と候補手
互角:▲3四銀、▲1六飛
73手目では▲1六飛と逃げる手もありますが、
△3三玉と上がられてしまうと後手玉への迫り方が難しくなります。
本譜は▲3四銀と打って、後手玉の上部を押さえました。
これで入玉される可能性が一気に減って、とりあえず一安心です。
また、後手は駒得ですが、玉は薄く、受けに適した持ち駒がありません。
先手は
小駒だけでも「
玉は下段に落とせ」を実現することができます。
81手目:形勢判断と候補手
互角:▲8八玉
81手目で▲3二金打とすれば角を丸得することはできますが、
その間に△5一玉~△6二玉と逃げられて、捕まらなくなります。
本譜は▲5四歩と取り込みました。
先手にとっては、まさに「
一歩千金」の局面ですし、
駒が前に進んでいるので
味が良さそうな手ですが、
△同銀で寄せを催促されてしまい、結果として寄せがありませんでした。
ここでは一転して▲8八玉と入城し、△5九飛にも▲9六歩と端歩を突いて、
自玉の安全度を高める手順が有力でした。
後手玉が脱出困難であることを見越して、じっと駒の入手に備える訳ですが、
分かっていたとしても、なかなか指せない手です。
終盤
92手目:形勢判断と候補手
後手勝勢:△3九飛
92手目で△3一金と打ってしまうと
▲3二銀成~▲3七飛成で銀を
素抜かれてしまいます。
ここは△3九飛と一旦
王手に打って、3七の銀に
紐を付けておきます。
このような攻防手が生じる可能性もあるため、
寄せる前の段階で▲8八玉が価値の高い手となっていた訳です。
100手目:形勢判断と候補手
後手勝勢:△8六歩、△4五角、△4三玉、△4六銀成、△4四金 など
後手は竜の脅威も薄れたので、先手玉の寄せに入ります。
矢倉に対して一段飛車を打っている形では、一目△8六歩と
突きたいです。
▲同銀は△3五角や△4五角のような側面からの攻めが速くなりますし、
▲同歩には△8七歩や△9五桂で、上部からの厳しい攻めが加わります。
110手目:形勢判断と候補手
後手勝勢:△8六歩、△7九銀、△5九竜 など
109手目の▲6七角は攻防によく利いている味の良い1手ですが、
竜取りだからと言ってすぐに△1九竜と香を取ってはいけません。
本局は既に大差がついているので、後手の勝ちは揺るぎませんが、
▲4九歩の受けが生じるため、寄せが遅れるデメリットの方が大きいです。
但し「
内竜は外竜に勝る」で△5九竜と入り込む手は
△7九銀からの金取りを見ているので有力です。
118手にて、先手の豊島王位が投了し、
豊島王位の2勝、木村九段の1勝となりました。
投了図以降、後手玉は広くて安全なので攻め合いは望めません。
先手が勝つためには受け切るしかありませんが、
囲いを
埋める持ち駒がなく、入玉も難しい状態です。
後手は先手玉に
詰めろをかける必要性がなく、
1枚ずつゆっくりと駒を剥がすだけでよいので、逆転の見込みはありません。
本局では木村九段の、玉頭戦を制圧する指し方が非常に勉強になりました。
王位戦第2局
王位戦第4局