【将棋解説】
第5期叡王戦七番勝負第6局 永瀬叡王vs豊島竜王名人

目次

解説動画



対局情報

棋戦
第5期叡王戦七番勝負 第6局
対局日
持ち時間
3時間(1日制)
対局者
永瀬 拓矢 叡王<後手>
豊島 将之 竜王・名人<先手>
戦型
横歩取り
主催
株式会社ドワンゴ
公益社団法人日本将棋連盟
(棋譜利用問い合わせ済み)
対局場所
大阪府:関西将棋会館

局面解説

序盤

【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第6局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で19手指した局面
point
20手目:形勢判断と候補手
互角:△7六飛、△8二歩、△8八角成 など
20手目で本譜は△8二歩と打ちました。
折角、飛車先の歩を交換したにもかかわらず、
そのですぐに自陣に歩を打ってしまうのは、ほとんどの場合で損ですが、
横歩取りに限っては△7六飛と1歩得できる見込みがあるので、
相手が仕掛けづらくなるのであれば、総合的に見て得になる変化もあります。

尚、先に△7六飛と横歩を取って、
▲8四飛と回られてから△8二歩と打っても良いですが、
△7六飛の瞬間が少し不安定な形であり、先手は他の動き方もできるので、
先に隙を減らすことで変化を限定しているという意味合いもあります。

他に、後手が直前の▲3六歩を積極的に咎めるならば、
ここから△8八角成 ▲同銀 △5五角という激しい指し方もあります。
先手が正確に応じると少し苦しい攻めにはなりますが、
しばらく後手が主導権を握るので、実戦的にはいい勝負になりやすいです。




【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第6局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で24手指した局面
point
25手目:形勢判断と候補手
互角:▲同銀、▲3七銀
横歩取りでは、後手が△2七歩や△2六歩と垂らすことも多く、
後手の△8二歩と同様に、先手が▲2八歩と先受けする場合もあります。

24手目の△2七歩に対しては、▲同銀と取る手も、
▲3七銀と上がって△2八歩成を防ぐ手も有力です。

▲同銀の場合は、先手陣が少し乱れるので、△7七飛成 ▲同桂 △5五角や、
△7七角成 ▲同金 △7四飛という大駒交換の手順で、後手が一気に動きます。

本譜は▲3七銀と上がりました。



【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第6局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で27手指した局面
point
28手目:形勢判断と候補手
互角:△7四歩、△2八歩成、△7七角成、△7四飛
28手目では△2八歩成 ▲同銀から△7七角成 ▲同桂 △5五角と仕掛けたり、
△7四歩~△7三桂と右桂の活用を急いだりして、早めに動く手順が有力です。

本譜は△4二銀と上がったので、比較的穏やかな展開となりました。
陣形整備が進んでしまうと、お互いに飛車と角だけでは攻めようがないので、
少しずつ陣形を盛り上げて、銀や桂を攻めに活用することを目指します。
但し、後手としては、2七に垂らした歩を取り切られてしまうと、
1歩損が響く展開になりやすいので、厳密に言うと後手の方が少し忙しいです。



中盤

【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第6局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で46手指した局面
point
47手目:形勢判断と候補手
互角:▲同金、▲同銀、▲2四角
後手が飛車取りを手抜きして、歩を取り込んできました。
相手を信用すれば▲2四角と飛車を取ることはできないはずですが、
その根拠はきちんと確認する必要があります。

まず、▲2四角には△2七歩成しかありません。
そこで▲4六銀と逃げれば、飛車金交換なので、先手の駒得です。
但し、先手の角が狭くなっているので、角交換になりやすく、
実質的に後手は と金と角金で先攻することができます。
一方、先手は持ち駒が大駒と歩しかないので、
後手陣を崩して、後手玉までたどり着くのはだいぶ先になりそうです。
中盤で相手の飛車を取って悪くなることはあまりなく、
受けの棋風ならば▲2四角も有力ですが、本譜は▲同銀と応じました。

金銀と大駒の二枚替えは部分的に先手の損ですが、
その後の駒の取り合いまで含めれば、バランスは取れています。



【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第6局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で58手指した局面
point
59手目:形勢判断と候補手
互角:▲3九金
59手目は「一段金に飛車捨てあり」の応用で、▲3九金と自陣に投入して、
後手からの飛車の打ち込みを消しておく手が有力です。

同じ様でも、▲3八金だと△3七歩と叩かれて形を崩されてしまうので、
なるべく1番下に打つのが原則です。

それでも後手は歩を犠牲にして先手陣を乱すことで竜を作ろうとしてきますが、
先手としては、一段金を維持して、竜に入り込まれることだけは阻止します。
竜を追い返して、局面が落ち着けば、先手の駒得が生きやすい展開となります。



【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第6局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で72手指した局面
point
73手目:形勢判断と候補手
互角:▲1三角成、▲7四飛、▲7七桂
73手目で、3七の竜が怖ければ▲3八銀や▲4八銀と手堅く打つ手はあります。
但し、結論を言えば、次に後手からの厳しい攻めはないので、
今のうちに大駒を活用しておきたいです。

ここで▲1三角成は自然な手です。
先手玉が広くなりますし、馬を自陣に引き付けて堅くすることもできます。

本譜は8四の飛車の活用を優先して、▲7四飛と横歩を取りました。
先に▲7七桂と跳ねて、▲8九飛の含みを残しておく指し方も有力です。



【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第6局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で78手指した局面
point
79手目:形勢判断と候補手
互角:▲7五飛
次に△4七香成とされると、成香で王手がかかるうえに、
竜の横利きが通って飛車取りもかかり、王手飛車となります。

79手目は▲7五飛と引いておく1手です。
大駒が間接的に向かい合っていると技がかかりやすくなりますが、
間にいる駒が大駒や桂香の場合は尚更注意が必要です。



【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第6局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で87手指した局面
point
88手目:形勢判断と候補手
互角:△2六銀、△8六桂、△5七桂、△6五桂打 など
後手としては、次に▲4四歩と取り込まれる手が間に合ってしまうと、
自玉が近いだけに怖い形となります。
よって、早く先手陣に攻め込みたいのですが、
現状では隙が無いので、仕掛け方から考える必要があります。

少なくとも、3一の竜は攻めに使いたいので、
3五の金を直接狙って、△2六銀と打つ手は有力です。

また、最終的に3五の金を狙うのは同じですが、
6八の角の利きがなくなれば、△3五竜が実現することに着目して、
△6五桂打 ▲同歩 △同桂で、
直接的には5七の地点を狙う指し方も有力です。

本譜は△5七桂と打ちました。この桂はタダですが、▲同角と取らせれば、
6五に桂がいる状態で角取りになるので、
駒1枚の犠牲によって、攻めを1手速くするという手筋です。



【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第6局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で100手指した局面
point
101手目:形勢判断と候補手
互角:▲3四桂、▲4四歩、▲6八歩
次に△7七歩成と と金を作られる手は厳しいのですが、
それ以上に△5九飛と王手で打たれる方が厳しいです。
以下、▲4七玉とかわしても△5七飛成と角を外された後、
▲同玉に△3五飛で金を取られてしまいます。

本譜は▲6八歩と打って、後手の角の5九への利きを遮りました。



【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第6局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で105手指した局面
point
106手目:形勢判断と候補手
互角:△8八飛
後手は持ち駒が3枚で、拠点は7八の と金だけなので、
4枚の攻めは切れない」という格言を踏まえると、1枚も無駄にできません。
106手目は△8八飛と攻め駒を足して、と金を守りつつ、
先手玉に対してプレッシャーをかける手が有力です。

本譜は△6九銀と打ちましたが、▲4七玉と逃げた形が意外と捕まらず、
結果的に「王手は追う手」となりました。




終盤

【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第6局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で116手指した局面
point
117手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲7四桂、▲4四金、▲8四桂 など
先手は角が2枚とも釘付けになっているので、攻めに使いづらい状況です。
▲4四金は確実ですが、3枚もある持ち駒の桂を早めに活用したいところです。

本譜は▲7四桂と打って、6二の銀を狙いにいきました。
後手は玉頭である5三を守るためにも、△5一銀と引く訳にはいかないので、
先手は銀の入手に成功し、寄せを目指すことができるようになりました。



【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第6局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で127手指した局面
point
128手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:△5五桂
128手目で△4六金や△5七金と王手をしても、
先手玉の逃げ場所は1つしかないので対応が分かりやすいですし、次がありません。

本譜は△5五桂と先手の歩の頭に打って王手をかけました。
これで先手の角の利きを遮ってもいるので、
▲同歩ならば4四の金を取ることができます。

敗勢の場合、相手が正確に指せば、どうせ負けなので、
延命や駒損は度外視して、局面を最も複雑にする手を探すことが重要です。



【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第6局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局の投了図
139手にて、後手の永瀬叡王が投了し、
永瀬叡王の2勝、豊島竜王名人の2勝、そして2引き分けとなりました。

投了図以降、△1一玉と引くと▲2三桂と打って詰みなので、
詰みを逃れるならば△同角と取るしかありません。
以下、▲2三金 △1一玉に▲2四金と角を取ってしまえば、
先手玉は安全になります。
また、後手玉には▲1三飛成~▲2三桂の詰めろがかかっており、
玉が狭くて受けも続かないので、逆転する見込みはありません。

本局では、豊島竜王名人の、
相手に決め手を与えない指し回しが非常に勉強になりました。


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