【将棋解説】
第5期叡王戦七番勝負第7局 永瀬叡王vs豊島竜王名人

目次

解説動画



対局情報

棋戦
第5期叡王戦七番勝負 第7局
対局日
持ち時間
6時間(1日制)
対局者
永瀬 拓矢 叡王<先手>
豊島 将之 竜王・名人<後手>
戦型
相掛かり
主催
株式会社ドワンゴ
公益社団法人日本将棋連盟
(棋譜利用問い合わせ済み)
対局場所
東京都:東京・将棋会館

局面解説

序盤

【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第7局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で25手指した局面
point
26手目:形勢判断と候補手
互角:△同飛、△8五歩
相居飛車で飛車をぶつける手は、横歩取りでも現れますが、
交換する手も、歩を打って交換を拒否する手も有力であることが多いです。

26手目で△8五歩と打つのは気合負けという説もありますが、有力です。
将来的な後手の攻め方の1つとして、△8六歩 ▲同歩 △同飛から、
△7六飛と横歩を取るような手順が生じる可能性は高いのですが、
その場合、8五の歩を進めても、持ち駒から8六に打っても同じと言えます。

本譜は△同飛と取りました。こちらの方が積極的ですが、▲同歩の後、
▲8五歩~▲8四歩の逆襲が間に合わないようにする必要があります。




中盤

【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第7局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で27手指した局面
point
28手目:形勢判断と候補手
互角:△1四歩、△2六飛、△4二銀、△7四歩 など
バランス重視の陣形に対して飛車の打ち込みを狙うためには、
端攻めが効果的になりやすいので、28手目で△1四歩と突く手は有力です。

▲同歩と取ってくれれば△1八歩 ▲同香と吊り上げてから、
△1九飛と打ち込んで、竜を作ることができます。

但し、それで▲1五歩の突き越しを咎めているとは、必ずしも言えません。
先手は端を手抜くことになりますが、次に△1五歩と取ったタイミングで、
角交換から▲1三歩や▲1二歩と打たれて、先に反撃される恐れもあります。
この辺りは、端歩を突き合っているか、
あるいは突き越しているかでだいぶ事情が変わります。

本譜は仕掛けを見送って△7四歩と突きました。
金駒を動かすと隙が生じやすくなることもあり、
桂の活用を急ぐのは自然な指し方です。



【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第7局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で39手指した局面
point
40手目:形勢判断と候補手
互角:△2七角
40手目で△1九竜と香を取れば、駒の損得はなくなりますが、
その反面、竜が使いづらくなってしまいます。
以下、竜を1九のままで攻めるならば、
△2八香~△2九香成~△2八成香ですが、とても間に合いません。
また、△2八竜と戻るならば、取った香に2手分の価値を見出したいですが、
現状でそこまで厳しい香の使い道はありません。

先手からは、次に▲9二飛と打つ手が厳しいので、
攻撃力の均衡を保つためにも、竜の働きを弱めることはできません。
本譜は△2七角と打って攻め駒を足しました。



【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第7局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で41手指した局面
point
42手目:形勢判断と候補手
互角:△3八角成、△6四歩
42手目から攻め続けるならば、△3八角成が有力です。
▲同金に△2九竜で2枚替えとなりますし、次に△2六桂と金取りに打てば、
3筋の防壁は崩すことができそうなので、竜の活用が見込めます。

本譜は「竜は敵陣に馬は自陣に」で△6四歩と突いて、
6三に馬を引き付けることで、攻防のバランスを取りました。



【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第7局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で49手指した局面
point
50手目:形勢判断と候補手
先手有利:△7一香
次に▲7四歩 △同馬 ▲7二馬のように横から迫られてしまうと、
3筋が壁形になっていることもあり、後手玉はすぐに受けなしとなります。
よって、ここは7筋を補強する△7一香が有力です。

本譜は△6二玉と寄りました。7筋を補強する意味合いは同じですし、
持ち駒を温存すれば反撃の含みは増えますが、
自玉を相手の大駒に近づける手は、非常にリスクが高いです。



【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第7局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で57手指した局面
point
58手目:形勢判断と候補手
先手有利:△8一香、△5四香、△6五歩 など
現状では、先手の8四の馬が盤上で最も働いており、
間接的に後手玉を睨みつつ、△7四馬や△6六竜を防いでもいます。
よって、その馬を動かそうとする△8一香は有力です。

本譜は△5四香と打ちました。
後手は王手をかけながら金を入手することができるようになったので、
攻防共に含みが多くなり、先手の攻め筋を制限することにも繋がっています。



【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第7局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で68手指した局面
point
69手目:形勢判断と候補手
先手有利:▲6三と、▲6二と、▲9一飛成
69手目で▲6二と と王手で金を取ってから▲6六馬と歩を払う手は有力です。

本譜は▲6三と と馬を取りました。
これは王手ではないので、△6七歩成と先に金を取られてしまいます。

この2手について、部分的な駒割りを比較すると、
▲6二と は「金得」、▲6三と は「角金交換」です。
一般的な駒の標準価値として、角は金の1.6倍前後なので、
「角金交換」は「金0.6枚得」であり、「金1枚得」の方が良いと言えます。
しかし、「馬の守りは金銀三枚」と言われており、
先手陣が薄くなる以上に、後手陣を薄くしている効果が大きいので、
後手陣を攻略するために必要な金駒が1枚減る可能性が高いと考えれば、
十分に元は取れる計算となり、▲6三と の方が良いと判断できます。




終盤

【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第7局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局で86手指した局面
point
87手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲3三角、▲3二竜 など
87手目で▲8三竜と銀を取る手もありますが、△6七桂成と金を取られて、
一気に攻め合いに持ち込まれてしまうと、先手玉も薄いので少し怖いです。
しかし、▲6六金と逃げているようでは、△7二金と打つのが粘りのある手で、
単に竜を逃げる必要があるうえに、働きが弱まってしまいます。

本譜は▲3三角と打ちました。
△同金は駒が上ずって守備力が下がるので、
竜と馬の利きを生かして、▲4二金から3手詰めです。

よって、後手は4二に合駒を打つしかありませんが、
▲5五角成と桂を取ってしまえば、
後手の唯一と言ってもいい有力な攻め筋である△6七桂成がなくなるので、
先手玉がかなり安全になり、攻めが続けば勝ちという状況になります。



【将棋】第5期叡王戦七番勝負 第7局 永瀬拓矢 叡王 対 豊島将之 竜王・名人の対局の投了図
91手にて、後手の豊島竜王名人が投了し、
永瀬叡王の3勝、豊島竜王名人の2勝、そして2引き分けとなりました。

投了図以降、△4一玉~△2二金~△3二玉と逃げれば手数は長引きますが、
▲8三竜と銀を取ってから、1枚ずつ守り駒を剥がしていけば、
後手は攻めるための拠点も駒もタイミングもなく、既にジリ貧となっています。

本局では、永瀬叡王の、
駒が密集している場所の攻め方が非常に勉強になりました。


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