目次
解説動画
叡王戦第7局
叡王戦第9局(9/21対局)
対局情報
株式会社ドワンゴ
公益社団法人日本将棋連盟
(棋譜利用問い合わせ済み)
局面解説
中盤
27手目:形勢判断と候補手
互角:▲2四歩、▲1五歩
先手としては△5二金と上がられてしまう前に、
後手陣を少しでも崩しておくことが重要です。
今更、
金駒の応援を送る余裕はありませんが、
右香はすぐに活用できるので、1筋を絡めて攻め筋を増やしておきます。
本譜は27手目から▲1五歩 △同歩 ▲2四歩の順番で突き捨てました。
▲2四歩 △同歩 ▲1五歩でも、同じ局面に合流する可能性はありますが、
後手が△1五同歩とは応じずに、△2三金や△2三銀と上がって、
▲2四飛を防ぐ指し方もあるので、
端歩を先に突き捨てた方が変化を限定していると言えます。
36手目:形勢判断と候補手
互角:△同香
35手目の
垂れ歩の対応は非常に悩ましいです。
△同銀ならば、あとで△2二銀と
引くことで現状の好形に戻せそうですが、
▲1五香に△1六角と打って、飛車取りで切り返す手に対しては、
▲3二飛成 △同玉 ▲1三香成の強襲から△同香に▲1二銀と絡むのが
好手で、
次の▲2一銀不成から3三の突破を防ぐことが困難です。
▲1五香まで戻って、△1四歩と打てば、香得は見込めますが、
▲同香 △同銀で守りの要が上ずることで、▲2二歩と打たれてしまいます。
以下、△同金は▲3一角と打ち込まれてしまいますし、
△3三桂と逃げても▲2一歩成で、次の▲3一と~▲3三桂成が厳しいです。
よって、取るならば△同香しかなく、結論としてはこれが最善です。
香の後ろに隙が生じるので、▲1二角と桂取りで打ち込まれてしまいますが、
間接的な飛車の
利きに入るのが怖くても、強く△3一玉と引きます。
以下、▲2一角成 △同玉 ▲2五桂と駒損度外視で絡まれると、
次に▲3三桂左成や▲1三桂成という狙いがあって、嫌な形ですが、
△3六角と打っておけば、2五の桂がいなくなったタイミングで、
△6九角成~△2五角の王手飛車を狙えるのでギリギリ受かっています。
あるいは、▲1二角に対して、△2五角 ▲3五飛 △6九角成 ▲同玉と、
手順に金を入手してから、△1一金と打つ
手順も有力です。
相手の
大駒が狭い場所にいる場合、捕まえるために必要な駒を考えてから、
手順に入手する方法を探す、という逆算をすることは重要です。
以下、▲2一角成 △同金 ▲3四歩と絡んできても、
△4四角と手厚く受けておけば、一気に負ける変化はかなり減っています。
但し、最善で受け続けなければならない展開は実戦的に勝ちづらいので、
相手の攻めが少しでも緩んだタイミングでは攻め合いも意識します。
本譜は垂れ歩を放置して△2六角と打ちました。
37手目:形勢判断と候補手
先手有利:▲6八玉
36手目の角打ちは、先手が▲3五飛と引く手や▲1五香と
走る手を防ぎつつ、
△4四歩 ▲同飛と取らせて、王手を受けた後の△4七歩を狙っています。
目に見える働きが多いので、味が良さそうですが、
「
玉は敵の角筋を避けよ」で▲6八玉とかわしたのが好手でした。
先手には▲6六角と打って、
▲2二角成 △同金 ▲3一銀を狙う攻め筋があるのですが、
これまでは後手の持ち駒に角があったので
△4四角と
合わせることで受かっていました。
ところが、後手が角を手放したので実現可能な攻め筋となったうえに、
先手が1歩を入手すると▲2七歩で角を捕まえることもできるので、
今度は、後手の方が忙しい展開となりました。
41手目:形勢判断と候補手
先手有利:▲同飛成、▲5五角 など
41手目で▲6四飛と逃げる手もありますが、△4七歩の
叩きで陣形を崩されて、
△3七角成と馬を作られてしまうと、互角の攻め合いになる恐れがあります。
攻めを緩めないで逃げ切り勝ちを図るために、
本譜は▲同飛成と
切りました。
大駒は▲2七歩と打てば取り返すことができるので、
結果的には駒の損得があまりない状態で、後手玉を薄くすることができます。
46手目:形勢判断と候補手
先手有利:△3六歩、△3一銀
先手からは、次に▲6一角と打つ攻めが厳しいです。
続いて▲5二角打や▲5二金と打ち込む狙いがあります。
▲6一角に対しては、△5二銀と打てば、5二を
埋めつつ、
角を捕まえてもいるので受かっているように見えますが、
▲3二角と打つのが
強手で、どう応じても急所に馬を作られてしまいます。
先手の持ち駒に金が残っている状態で突破されると受け切りが困難です。
後手陣は唯一の金が上ずっていることもあってバランスを崩されやすいので、
先受けで陣形整備をするために、ここで△3一銀と引いておく手は有力です。
但し、先手玉への直接的な脅威とはならないので、
一方的に負けてしまうリスクが高まることもあり、実戦的には指しづらいです。
後手は、先手から攻め込まれたとしても、詰まされてしまう訳ではないので、
駒の入手が見込めると考えて、攻め合いを挑む指し方も有力です。
相手玉周辺に攻めの拠点がなく、かつ、持ち駒に飛車がある場合、
「とりあえず飛車を打ち込んでおく」という考え方は攻めの基本ですが、
ここで金取りの△2八飛は▲3八角と打たれてしまうと、
打ったばかりの飛車が動けなくなってしまいます。
また、香取りの△2九飛や△3九飛は、▲1五香と逃げられてしまうと、
先手の
歩切れが解消されるうえに、端攻めを誘発してしまいます。
本譜は△3六歩と突きました。
後手は持ち駒の飛車と銀だけで先手陣を攻略することは困難なので、
盤上で攻めに参加できそうな駒を探して、優先的に動かしておきます。
51手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲1二金、▲1五香、▲1四歩
51手目で▲6一角と打ち込んでも、
持ち駒の残りが金1枚では技がかかりません。
先手は角を手放しましたが、そのお陰で自陣が少し安定したので、
「攻めが続けばよい」という状況に変わっています。
これまでのように、
王手・駒取り・
2手すきなどで、
強く迫り続ける必要はなくなったので、攻めの速度の感覚を修正しておきます。
ここから▲1五香や▲1四歩 △同香 ▲1五香として、
端攻めを再開しつつ、香を補充する指し方は有力です。
先手が香を入手すれば、▲6一角~▲8三香という攻め筋が生じます。
本譜は▲1二金と打ちました。相手玉から離れた
小駒を取りにいくために、
貴重な金を手放すのは、多くの場合で筋が悪いのですが、
この局面では▲5五桂と金取りに打つ手が厳しいので桂の価値が高いうえに、
駒を取りながら相手玉へ近づけることもできます。
攻めの速度が少し遅いことは気になりますが、
後手は
拠点を作ることに手数を費やす必要があるので、間に合いそうです。
終盤
61手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲5五桂、▲3五桂、▲3四歩 など
61手目で7七の銀取りだからと言って、反射的に▲6六銀と逃げてしまうと、
△8六飛で眠れる獅子を起こしてしまいます。
本譜は▲5五桂と打ちました。後手玉に対する
詰めろにはなっていませんが、
先手が桂を1枚入手すると後手玉が詰む状態です。
つまり、銀を逃げずして、後手の△7七桂成を防ぐことができています。
65手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲7八玉、▲6九金
先手玉には△5八飛 ▲6九玉 △7七桂不成までの詰めろがかかっているので、
▲7八玉と
早逃げをするか、▲6九金と
寄って受けておきます。
△3八銀成と金を
タダで取られる手は残っていますが、
拠点が離れる攻めは遅いので、気にする必要はありません。
先手は持ち駒に桂が増えなくても、▲6一角と打ったり、
▲2六角と上がったりする手が厳しいので、寄せ方には困っていません。
よって、後手は先に寄せを目指しますが、
準備が遅れていたために、少し駒が足りていません。
75手にて、後手の永瀬叡王が投了し、
永瀬叡王の3勝、豊島竜王の3勝、そして2引き分けとなりました。
投了図以降、後手玉の逃げ道は多いですが、
基本的に角→銀→金の順番で持ち駒を打っていけば詰みとなります。
詰みを逃さないために強く意識しておくべきポイントとしては、
△6一玉や△7四玉と逃がさないことと、
そして△3六玉と角頭に潜り込まれたときに、
▲2六金を本線として、とどめを刺せるようにしておくことになります。
本局では、豊島竜王の細い攻めの繋げ方が非常に勉強になりました。
叡王戦第7局
叡王戦第9局(9/21対局)