目次
解説動画
叡王戦第4局
叡王戦第6局
対局情報
永瀬 拓矢 叡王<先手>
豊島 将之 竜王・名人<後手>
株式会社ドワンゴ
公益社団法人日本将棋連盟
(棋譜利用問い合わせ済み)
局面解説
序盤
15手目:形勢判断と候補手
互角:▲3八銀、▲3七桂、▲9六歩、▲2四歩 など
15手目で本譜は▲3七桂と跳ねました。
角換わりと同様に、相掛かりでも桂跳ねのタイミングは早まってきています。
尚、▲3八銀と上がって右銀を活用する手も自然ですが、
本譜で先手の右銀はあと40手以上動きません。それだけ激しい戦いとなります。
21手目:形勢判断と候補手
互角:▲8二歩、▲同飛、▲7七金、▲7七角
次に△8六飛と戻られてしまっては面白くありません。
先手は1歩損の代償をしっかりと求める必要があります。
△8六飛を防いで、遠回りさせることで
手得を目指すならば▲7七角か、
あるいは、部分的な形は少し悪いですが力強く▲7七金が有力です。
本譜は▲8二歩と打ちました。
8一の桂の逃げ場はないので、先手の
駒得は確定します。
27手目:形勢判断と候補手
互角:▲8五歩、▲8四歩
26手目の△8六歩の
垂らしがあるので、
桂と歩2枚の交換でも成立しているというのが後手の主張です。
対して、先手の受け方は2つあります。
1つは▲8五歩と打ち、△同飛と取らせた後に、
▲7七桂~▲8五桂打として、後手の飛車の
利きを止める手順です。
桂を手放すのでやや手堅いですが、打った桂が攻めに活躍しづらいので、
桂得のプラスは薄まっています。
もう1つの受け方は▲8四歩です。
2四の飛車を追い払われた後に、△8四飛と歩を取られてしまいますが、
▲6六角と逃げる手が飛車取りになるので、1手稼ぐことができます。
33手目:形勢判断と候補手
互角:▲3五桂、▲8八銀
次の△8七歩成を受けるために、▲8八銀と上がる手は有力です。
但し、後手が△3四歩と突くと、先手は
大駒交換を避けることができません。
そして、大駒を手にした後手は8筋を突破しやすくなっているので、
先手の方がミスを許されない展開となります。
本譜は▲3五桂と打ちました。
これで、お互いに飛車先を破っての攻め合いとなります。
中盤
44手目:形勢判断と候補手
後手有利:△6六角
44手目は△6六角と交換する手が有力です。
角同士なので駒の損得はありませんが、先手が▲6六同歩と応じた際に、
先手玉の
こびんがあくので、角打ち1発で狙いやすい状態となります。
後手としては、先手に竜を作られた代償として、
しっかりと先手玉を薄くしておきます。
51手目:形勢判断と候補手
後手有利:▲5六角、▲7九金、▲6七銀 など
先手は、次に△1二角と打たれてしまうと、
3四の竜取りとなり、竜が逃げれば、遠く7八の銀を取られてしまいます。
51手目で▲5六角や▲6七銀として、
銀を
タダで取られないように受けておく手は有力です。
他に、竜と角の交換を前提にして、後手に攻め手を与えないために、
「
一段金に飛車捨てあり」で▲7九金と打って備えておく手も有力です。
本譜は「
敵の打ちたいところに打て」に準じて▲2三歩と打ちました。
60手目:形勢判断と候補手
後手有利:△2七桂、△8八歩、△3七角、△8二歩 など
60手目で△同銀 ▲同歩成 △同飛として、飛車の活用を図ろうとするのは、
結局▲8五歩と押さえられてしまい、持ち駒の差が出やすい展開になります。
他に、△1二角と打っても、
▲7五竜と逃げられたうえに、竜の利きで銀取りも受かってしまいます。
但し、もし後手の持ち駒に香があれば、
▲7五竜の後に△7四香と追撃して、7八の銀を取りきることができます。
この「もし〇〇があれば」という考え方は非常に重要で、
本譜は香を入手するために△2七桂と打ちました。
持ち駒を投入して隅の香を取りにいくのは、基本的に手の価値が低いのですが、
この局面では香の価値が高く、他に速い攻めもないので成立しています。
68手目:形勢判断と候補手
後手有利:△2八成桂、△4一桂、△5二香 など
現時点で、5三の地点の守りは足りているのですが、
次に▲9一桂成と香を取られた際の対応が少し悩ましいです。
△同飛は▲8三歩成 △同銀 ▲8二金で飛車銀
両取りがかかります。
そして、△8四飛には▲7一角と金取りに打つのがポイントで、
先手が
手番を握ったまま、間接的に5三に利きを足されてしまいます。
1手の余裕を生かして攻め合うならば△2八成桂ですが、
本譜は△5二香と打って手堅く受けました。
「
下段の香に力あり」で部分的には△5一香と打った方が良いですが、
後手の飛車が狭いので、横利きを通しておきます。
80手目:形勢判断と候補手
後手有利:△9四角、△2八成桂
後手は7三の金をタダで取られそうになっていますが、
先手の銀が後手玉から離れるので、攻めとしては遅いです。
よって、後手としては、このタイミングで攻め合いに持ち込みたいです。
攻めるとしたら、△9四角と打って、先手玉のこびんを狙うか、
△1八成桂と引いた手を無駄にしないために△2八成桂と寄ります。
本譜は△7二金と引きました。
銀取りになるので自然な手ですが、結果的に6二の銀を取る手が間に合わず、
自玉から離れた位置で、働きが弱いまま盤上に残ってしまいました。
89手目:形勢判断と候補手
互角:▲9五歩
89手目で▲7三銀不成とすると、△5一飛と角を取られてしまうので、
先手が7筋の突破を目指すことはできません。
そして、後手からは、次に△6四銀と竜取りに打ち、
竜を逃げた後に△5五桂と打って6七を狙う
こびん攻めが厳しいです。
よって、後手の9四の角が最も脅威となり得るので、排除を優先します。
本譜は▲9五歩と突いて、後手の攻めを催促しました。
これで後手は角を切るしかありませんが、その後の攻めが繋がるように、
竜を追い回しながら、盤上の攻め駒を増やします。
104手目:形勢判断と候補手
互角:△2六桂
104手目で本譜は△同金と取りました。自然な応手ですが、
飛車の横利きが止まったことで、先手に決め手が生じてしまいました。
消去法で考えると、攻め合うしかない局面だったので、
「
玉の守りの金を攻めよ」で△2六桂と打つ手が有力でした。
終盤
105手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲3四桂
105手目では▲3四桂と打ち捨てて、
3三に持ち駒を打ち込む空間を作るのが決め手です。
あとは▲2四角と
質駒の銀を補充してから▲3三銀と押さえ付ければ、
先手は金を残しているうえに、後手玉に逃げ場がないので、受けなしです。
尚、先に▲2四角と銀を取ってから△同歩に▲3四桂と打つと、
△4九銀 ▲同玉に△6七角~△3四角成で桂を抜かれるなど、
攻防手が生じやすくなるので、大駒はギリギリまで渡さないのが原則です。
113手にて、後手の豊島竜王名人が投了し、
永瀬叡王の2勝、豊島竜王名人の1勝、そして2引き分けとなりました。
投了図以降、先手玉は広く、詰みはありません。
一方、後手玉は馬に上部を押さえ付けられており、
必至です。
仮に、後手の持ち駒に金があっても、必至であることに変わりはなく、
飛車があった場合に少し延命できる程度なので、目指すべき寄せ形の1つです。
本局では、永瀬叡王の、相手の大駒の働きを抑える指し回しと
切れ味鋭い寄せが非常に勉強になりました。
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