目次
解説動画
王将戦第4局
王将戦第6局
対局情報
渡辺 明 王将(三冠)<先手>
広瀬 章人 八段<後手>
スポーツニッポン新聞社
毎日新聞社
公益社団法人日本将棋連盟
(棋譜利用問い合わせ済み)
局面解説概要
序盤
21手目:形勢判断と候補手
互角:▲6九玉、▲7九角、▲3七桂、▲4六歩 など
先手には▲6六銀から急戦矢倉にする
含みが残っていることもあり、
後手は争点になりかねない△5四歩よりも先に△3一角と引きました。
相手がかなり用心した
駒組みを進めている場合、
急戦は仕掛けづらいですが、
逆に急戦を仕掛けられにくくもなります。
少し見方を変えれば「矢倉にじっくりと組んでから戦いませんか?」
という後手からの打診と捉えることもできます。
30手目:形勢判断と候補手
互角:△6四角、△7三銀、△9四歩、△4二角 など
30手目で△7三銀と上がって、先手と同様に駒組みを進めていく手は有力です。
本譜は△6四角と出ました。これで▲3五歩 △同歩 ▲同角には△3六歩が生じるため、
先手の攻撃陣の動きをけん制することができます。
対して、先手も▲4六角と上がって、角が見合ったので、
「脇システム」と言われる形になりました。
41手目:形勢判断と候補手
互角:▲6四角、▲3五歩、▲1八香、▲2六銀、▲6八金寄 など
先後同型で進んできましたが、駒組みが飽和状態となったこともあり、
この局面で最大の分岐点を迎えます。
先手から角交換をする場合、▲6四角 △同銀に▲2六銀が有力です。
後手の右銀が手順に前進するので、先後が入れ替わる計算にはなりますが、
先手の右銀は相手玉により近づくことができます。
後手から角交換をしてもらう場合、
先に▲2六銀や▲3五歩と動いていく手が有力です。
△4六角 ▲同歩となれば手得はしていますが、
4筋の歩が上ずることで、隙が生じて馬を作られやすくなります。
他に、角交換に備えて、▲6八金寄と隙を減らしておく手もあります。
先攻されるので、厳密にはわずかに損ですが、実戦的には難しいです。
また、▲9八香や▲1八香と手待ちをする指し方もありますが、
後手に仕掛けと手待ちの選択権を与えているので、
少なくとも先手の得は放棄していることになりそうです。
中盤
47手目:形勢判断と候補手
互角:▲同銀、▲同香、▲6五歩
矢倉の棒銀において、端歩を突き捨てた後は、原則として▲同銀です。
一時的に銀香交換の
駒損とはなりますが、
香を使って端を突破する含みが増えるので、バランスは取れています。
本譜は▲同香としました。
本局では▲3五銀と活用する余地があるので、例外的に成立しています。
48手目:形勢判断と候補手
互角:△1三歩、△1二歩
相手が端歩を香で取り返してきた場合、△同香とは取りません。
▲同銀で手順に相手の攻め駒を前進させてしまうだけです。
48手目は△1三歩と受けるのが形です。
▲同香成 △同香から▲1四歩~▲1五歩と連打をしてくれば、
後手は1歩得できますし、先手は歩切れになります。
尚、香交換を防ぐために△1二歩と低く受ける手も考えられますが、
後で△1四歩と突いて香を回収する含みがなくなるので、わずかに消極的です。
59手目:形勢判断と候補手
互角:▲4一角、▲6一角
ここでは▲4一角と▲6一角がいずれも有力です。
▲6一角は次に▲4一銀、▲5二銀、▲3四銀などの狙いがあります。
△5二銀と馬を捕まえに来たら、▲7一銀と飛車を狙って先手優勢です。
本譜は▲4一角と打ち込みました。次の狙いは▲6三角成です。
60手目:形勢判断と候補手
互角:△7三銀、△8六歩、△1六角、△4九角、△3四銀 など
60手目で△5二銀と打てば、角を捕まえているようですが、
以下、▲7一銀 △7二飛 ▲3二角成 △同玉 ▲3五飛 △3四歩 ▲8五飛
△7一飛 ▲8二飛成 △5一飛 ▲6一金のように攻め込まれてしまいます。
後手が駒得をしていても、玉の堅さや駒の働きが違い過ぎるので、
この変化は先手が
勝勢です。
よって、▲6三角成は受かりません。
本譜は後手が反撃に備えて少し動いていきました。
72手目:形勢判断と候補手
互角:△6二歩、△6二香、△1九角
72手目で8一の桂取りを受けるならば、△9二角と打つしかありませんが、
▲8一銀成 △同角 ▲7三馬で、桂損のうえに
大駒が狭くて危険です。
つまり、▲8一銀成を直接的に受ける手はなく、
後手は駒損が目前に迫っているので、忙しい局面です。
忙しい局面において、考えるべき手は、
①王手、②詰めろ、③大駒取り、④金駒取りとなります。
中盤では
王手や
詰めろをかけることが難しいため、
必然的に大駒取りから考えることが多くなります。
ここで△1九角と飛車取りに打つ手は有力です。
先手が飛車を逃げれば、△6四角成と馬を引き付けることができます。
本譜は△6二歩と馬取りに打ちました。
これで、場合によっては大駒交換の形にすることができます。
79手目:形勢判断と候補手
先手有利:▲4六桂
後手の飛車は狭くて働きが悪いようですが、△6九銀と絡んでから、
△8二香と打って二段
ロケットで攻めてくる変化があり、油断はできません。
本譜は▲4六桂と打ちました。
銀取りで、かつ、逃げられても歩打ちで拠点を作ることができるため、味が良いです。
93手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲2四歩、▲2七香、▲2八銀、▲1二歩 など
主に大駒の働きの差で先手が優勢な局面ですが、
後手玉は堅くて広さもあるので、持ち駒の少ない先手は迫り方が難しいです。
特に
入玉に対して気を付けながら、
拠点を増やしていくしかありませんが、
候補が多いので迷いやすい局面です。
形を乱す▲1二歩や、攻め駒を増やす▲2七香、
角を捕まえる▲2八銀はいずれも有力です。
本譜は▲2四歩と打ちました。
△同金ならば、歩の前に金が移動するので、▲2七香が厳しくなりますし、
△同歩ならば、2三に空間が生じるので、
▲3一銀 △同金 ▲2三歩のような攻め筋が生じます。
対して、後手は
手抜きをしましたが、それでも後手陣を乱すことができました。
終盤
103手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲2七香、▲2六香 など
103手目は▲2七香と打つ手が有力です。
2三には馬の利きも考慮できるので、▲2三歩成が厳しい狙いとなります。
△2二歩は▲1四銀から詰むので、△2五歩と上から受けますが、
▲同香 △同金に、再度▲2七香と打てば手順に金を
剥がすことができます。
本譜は▲2六銀と引きましたが、
相手玉から遠ざかるように
金駒を逃げる手は、攻めが遅れるので
味が悪いです。
後手は3二の金が
質駒になっていることに気を付けながら、
詰めろがかかりづらいように凌いで、△7五桂~△8三香を楽しみにします。
115手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲2五桂、▲8六香
先手は玉頭に二段ロケットを作られてしまいました。
桂もいるので、▲8六香と打って8七の利きを緩和することは必要です。
本譜は、▲8六香から少し受けに回りましたが、
△同香の直後か、あるいはこの局面で▲2五桂と跳ねておくべきでした。
120手目:形勢判断と候補手
先手有利:△2二香、△2三香 など
先手玉に対する有効な王手は△8八銀ですが、
▲同金に△同歩成が王手とならないので、相当詰まない形です。
120手目で本譜は△2二香と受けました。これで▲2五桂には△同香があるため、
先手の攻撃陣が1筋の後手玉に迫りづらくなりました。
129手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲3四歩
129手目は▲3四歩と打つ手が有力です。次の▲3三歩成さえ間に合えば、
△同金は3一の馬の
利きが通ってくるので、後手は受けが難しくなります。
本譜は▲2五桂と香を取りましたが、
△同桂と活用されて、後手玉の上部が少し
手厚くなってしまいました。
137手目:形勢判断と候補手
後手勝勢:▲1四歩、▲3一角、▲同玉
137手目で▲同玉とすれば、一旦詰めろは解除できますが、
△8六飛~△1九香成と分かりやすい手順で厳しい詰めろが続きます。
受けが難しいならば詰ましにいくしかありません。
詰ます確率を上げるためには「これをやらなければ明らかに詰まない」
「これをやられると明らかに詰まない」という思考を優先します。
ここでは後手の3二の金が受けによく利いているので、
少なくとも、これを剥がさなければ詰みそうにありません。
但し、▲3二馬に△同玉と取り返されてしまう展開では、
手順に5筋方面へ逃走されて、詰みません。
よって、消去法で後手玉を1四に誘導してから
▲3二馬と取るしかなさそうだ、と判断できます。
147手目:形勢判断と候補手
後手勝勢:▲1六香 など
147手目付近では「
中段玉は寄せにくし」となっており、上下に逃げ道があるので、
早い段階でどちらかに誘導しないと駒不足になることは明白です。
先手は持ち駒に香が2枚あるので、1枚は残したうえで、
後手玉が下段へ逃げようとしたら、香で追撃する含みを残しておきます。
一般的に、詰みではなく寄せの段階であれば、
相手の入玉を促すような追い方は避けるべきですが、
本譜の場合は1九の飛車が最終防衛ラインとして残っていることもあり、
入玉されること自体を意識しすぎる必要はありません。
162手にて、先手の渡辺王将が投了し、
渡辺王将の2勝、広瀬八段の3勝となりました。
投了図以降、後手玉は1五や3五に逃げ道が残っているので、
先手の持ち駒が銀1枚では詰みません。
結論として、詰みはありませんでしたが、
後手がミスをすれば詰むという変化を多く生じさせることはできました。
本局では広瀬八段の、
相手に決め手を与えない粘り方が非常に勉強になりました。
王将戦第4局
王将戦第6局