目次
解説動画
王将戦第3局
王将戦第5局
対局情報
渡辺 明 王将(三冠)<後手>
広瀬 章人 八段<先手>
スポーツニッポン新聞社
毎日新聞社
公益社団法人日本将棋連盟
(棋譜利用問い合わせ済み)
局面解説概要
序盤
21手目:形勢判断と候補手
互角:▲7九角、▲5八金、▲3七銀 など
後手が△5四歩と突き返してこないことを
咎めるために、
先手が先に▲5五歩と突いて、
位を取ってしまう指し方はあります。
▲5七銀~▲5六銀とすれば位の確保は間に合いますし、
場合によっては▲5八飛の増援も可能です。
これで後手は角が狭くて使いづらい反面、
先手は▲7九角~▲4六角の活用が分かりやすく、
序盤の働きに差が出ます。
但し、正確に対応されると2筋と5筋の位の維持や生かし方に苦労するので、
序盤の精密さが求められるプロでは、ほとんど指されることがありません。
27手目:形勢判断と候補手
互角:▲6七金左、▲6七金右、▲3七桂 など
27手目でバランス重視の陣形を目指して▲6七金左は有力です。
8筋の薄さは少し気になりますが、後手が△7三銀~△8四銀としても、
先手は▲4六角と出るだけで銀の足止めをすることができます。
他に▲2四歩からの角交換も有力ですが、しばらくは権利が残り続けますし、
△4二角や△5一角のけん制にもなるので、後回しにした方が良いです。
本譜は堅さ重視で▲6七金右として金矢倉を完成させました。
32手目:形勢判断と候補手
互角:△7三桂、△8六歩、△3四歩 など
32手目で、
駒組みを進める△7三桂や、傷口を塞いでおく△3四歩は有力です。
本譜は△8六歩と機敏に仕掛けました。
▲同歩は△8五歩の
継ぎ歩攻めが厳しいので▲同銀と取るしかありませんが、
角のラインに対して手薄になったので、△6五歩~△4五歩と仕掛けます。
銀の応援がないと、どうしても攻めとしては軽くなるのですが、
玉を深く囲う訳でもないので、仕掛けのタイミングを逃さないことは重要です。
中盤
40手目:形勢判断と候補手
互角:△6五桂、△3四銀
40手目で△5三銀のように手を戻してしまうと、
▲7七桂で、6筋と角のラインに対して手厚くされてしまいます。
後手は歩損の仕掛けをした以上、それなりに戦果を挙げる必要があるので、
本譜は△6五桂と跳ねて、休まずに動いていきました。
▲同銀は△9九角成で馬ができるため、この桂は盤上に残りますし、
先手は
金駒が活用しづらくなるので、△6二飛の応援も間に合います。
47手目:形勢判断と候補手
互角:▲同角、▲7八玉、▲5四歩
今後、2四の歩を角で取る手は残るのですが、
△同角と△4四角のどちらが最善かは局面によって変わるので注意が必要です。
47手目で、本譜は▲7八玉と上がりました。
6七と8八の金に同時に
紐を付けつつ、下段玉を解消する
味の良い手です。
58手目:形勢判断と候補手
先手有利:△3三金、△4六歩、△7五歩
後手は飛車取りの連続で、
手番を握りながら角をかわしたようですが、
先手の飛車がかわした5六も好位置で、次に▲5五歩が生じています。
後手は5筋を押さえ込まれてしまうと、銀が後退するうえに、
角の
利きが止まるので、攻めの継続が難しくなります。
58手目で「
敵の打ちたいところに打て」の△5五歩は
歩切れになりますし、
結局、自らの角の利きを止めていることになるので打ちづらいです。
手番を握るはずだったのに、忙しい状況を作り出してしまったので、
先手に歩を2枚渡したのは、結果的にもったいなかったと判断できます。
ここで本譜は△4六歩と突きました。
仕方ないので、押さえ込まれる前に、少しでも暴れておきます。
67手目:形勢判断と候補手
先手有利:▲3七銀、▲4五銀、▲3五銀
67手目で▲4五銀や▲3五銀と打って、
角を狙いながら攻めを
手厚くしていく手は有力です。
先手は角を取れば、▲7三角と打って飛車をいじめることができますし、
後手の飛車が逃げて、▲6五銀が実現すれば、先手玉はかなり安全になります。
尚、同じ様に銀を打つ攻めでも▲5四銀は少し
重たいです。
▲5三銀成 △同角 ▲5四歩という手順で攻めは続くものの、
後手の下段玉が生きて、次に有効な
王手や
詰めろがかからないうえに、
駒を渡すことで後手からの攻め筋が生じるので、攻守が逆転してしまいます。
本譜は▲3七銀と と金を取りました。
先手玉も薄いので、△4八と と銀を取られながら、
自玉へ近づかれることは、やはり厳しいです。
△4七歩成でまた銀取りにはなりますが、△3七と と銀を取ると、
むしろ後手の攻めが遅くなるので、この銀は盤上に残ることができます。
77手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲7七桂、▲6八歩、▲6七歩、▲5四桂 など
77手目で後手の歩切れを咎めるならば、▲2六飛ですが、
後手の飛車の利きが素通しのままで勝ち切ることはできないので、
攻めの形を決める前に、6筋をしっかりと受けておいた方が良いです。
受け方として▲6八歩や▲6七歩は無難ですが、
△6九銀のような手を防いだだけという不満はあります。
本譜は▲7七桂と跳ねました。
これで8九からの先手玉の逃げ道を確保したうえで、
次に▲6五桂打とできれば、6筋を受けつつ、5三の金取りとなり、
さらに▲6三歩のような叩きまで残るので、味が良すぎます。
85手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲5三桂成
相手陣に殺到する場合、原則として安い駒から成り込みます。
よって、本譜は▲5三歩成としましたが、▲5三桂成の方が有力でした。
88手目:形勢判断と候補手
先手有利:△同金
もし、先手が▲5三桂成~▲6二成桂としていた場合、
6五の桂がおらず、次に▲6四飛と桂を取りながら逃げる手があるので、
後手は△6六角として、このタイミングで飛車を取るしかありません。
その後、▲8一飛(王手)~▲5二成桂(金取りで王手)~▲6六金とすれば、
手順に飛車を打ち込めるうえに、先手が
駒得で、後手陣が薄くなっています。
本譜の場合は6五の桂が邪魔をしていて▲6四飛とできないので、
△6六角を最優先とする必要がなくなり、△同金と応じることができました。
100手目:形勢判断と候補手
先手有利:△3一玉
先手玉は実質的に「
斜めZ」と判断できる形になっています。
後手の持ち駒が「角金金」や「銀金金」であれば詰むのですが、
角か銀がなければ、仮に「飛車と金4枚」だったとしても詰みません。
また、△8八桂成 ▲同金 △7九銀のような絡み方も厳しいため、
詰みの有無に関わらず、後手にとって角と銀の価値が高くなっています。
折角、先手玉を追い込んだので、このまま攻め続けたいところですが、
ここで△8八桂成は焦りすぎで、▲同金の次がありません。
▲8九金には△同飛成という寄せ筋があり、8八の金は逃げられないので、
先手に桂を渡さないためにも、権利はギリギリまで保持します。
後手陣に目を戻すと、次に▲5三角と打たれる手が厳しく、
3一や4二の逃げ道を塞がれてしまううえに、△4二金と寄っても、
▲5一飛~▲4二角成~▲5九飛成で、
5九の飛車を
素抜かれてしまう変化があります。
よって、攻め合いでは勝てないので、受けるべき局面と判断できます。
本譜は「
玉の早逃げ八手の得」で△3一玉と寄りました。
これで攻守交代とはなりますが、
先手の攻めに「渡す駒の制約」が追加されたので、受け方も楽になっています。
終盤
109手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲4四歩、▲2四歩 など
後手の粘りによって、先手が張り付きづらい形になっているものの、
▲5二と のような迫り方では、△8六歩から形を崩されて危なくなります。
「後手に角や銀を渡さなければ良い」という条件は確かに重要ですが、
「後手に角や銀を渡さない限り勝ち」という訳ではないのです。
そもそも、先手玉を最も脅かしているのは後手の竜なので、
それさえいなくなれば、渡す駒の制約もなくなると考えられます。
つまり、△2九飛成で後手玉がより安全になったことは確かですが、
後手が竜を引き揚げると、先手玉も安全になってしまうので、
後手にとって、△2三竜や△2四竜のような手は最終手段となるのです。
よって、2九の竜の守備力はそれほど恐れる必要がなく、
▲4四歩や▲2四歩と叩いて、駒交換から寄せの形を目指すことができます。
119手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲2二角、▲7九歩、▲7九金打 など
先手玉は△8八桂成からの詰めろになっていますが、
後手玉に詰みはありません。
よって、本譜は▲3九歩と打って、一旦、詰みを防ぎました。
△同竜には▲6六角の王手竜取りがあります。
先手は自玉の詰めろさえ落ち着いて解除すれば、
あとは▲3五銀と上から押さえつけて、分かりやすい勝ちとなります。
他にも勝ち方は複数ありますが、おしゃれな手順を1つ紹介します。
まずは▲2二角と王手をします。唯一詰まない応手は△2四玉ですが、
そこで▲5三桂成と銀を補充しながら包囲すれば、後手は受けが困難です。
一見すると、先手が詰めろを受けていないように見えるので、
後手は喜んで△8八桂成 ▲同金 △8九角と詰み筋に飛び込みます。
以下、▲同金 △同竜 ▲同玉となると、
拠点はなくなりましたが、
持ち駒に飛車と金3枚があれば十分です。
次は△6九飛と1つだけ離して打つのがポイントで、
▲7九金と
合駒をしても△7八金と捨てて詰みとなります。
盤上に拠点となる攻め駒がなくて、持ち駒だけで詰ますことを、
詰将棋においては「無仕掛け」と言いますが、その中でも有名な形です。
実戦でもたまに現れるので、変化は多いですが、
それぞれの詰み筋をしっかりと確認しておきたいです。
ところが、
今回の変化手順の場合は7九に角を合駒することで
逆王手となるので、
△7八金と打つことはできず、先手の勝ちとなります。
但し、次の一手のような派手な勝ち方しかないことは稀なので、
読み抜けて逆転するリスクを考慮すると、地味でも確実な手が1番です。
127手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲4八銀打、▲4八金、▲8八銀 など
見たことのない形が盤上に現れると、つい慌ててしまいますが、
「冷静になって相手の狙いを看破しよう」と意識することが重要です。
127手目から▲4八歩だと△8九角 ▲同玉 △3九飛成となり、
手順に2九の竜の脅威が復活して、合駒ができずに詰まされてしまいます。
△3九飛成に対する合駒を用意するために、
▲4八金~▲4九歩としても受かっていますが、
△3九飛成自体を防ぐ▲4八銀打の方が分かりやすいです。
129手にて、後手の渡辺王将が投了し、
渡辺王将の2勝、広瀬八段の2勝となりました。
投了図以降、△4三玉に▲3二角と打って上部脱出を防ぎ、
△4二玉 ▲3四桂 △3一玉 ▲2二金で詰みとなります。
本局では広瀬八段の、
相手の細い攻めを凌ぐ指し回しが非常に勉強になりました。
王将戦第3局
王将戦第5局