目次
第59期王位戦第7局
王位戦第2局
対局情報
豊島 将之 王位(三冠)<先手>
木村 一基 九段<後手>
局面解説
序盤
18手目:形勢判断と候補手
互角:△5二玉、△6二玉、△8二飛、△2二銀 など
まだまだ
駒組みが続く、手の広い局面ですが、
近年の主流は△5二玉や△6二玉です。
続いて△7二銀と上がるだけで陣形のバランスが良く、
場合によっては美濃囲いとしても利用できます。
本譜は△4一玉と寄って、中原囲いを目指しました。
中原囲いは金銀4枚が玉の周辺に集まっていますが、
左右どちらから攻められても金銀2枚分の耐久力しかないため、
決して堅い囲いではありません。
また、低い陣形で完成してからの進展性に乏しいので、
早い段階で動かせる駒が少なくなり、主導権を握りづらくなります。
そのため、相手に攻めさせて囲いが半壊してから、
蓄えた持ち駒で本格的に反撃するという少し難しい指し方が求められます。
途中までは玉でも囲いを支えますが、王手がかかりだすと脆いため、
玉を逃げ出すタイミングがポイントです。
28手目:形勢判断と候補手
互角:△5二玉、△2五歩、△7四歩 など
28手目で本譜は△2五歩と打って先手の飛車先を止めました。
8五飛型ならではの1手ですが、
この歩は先手が▲3七桂と跳ねる前に打つのがポイントです。
▲3七桂と跳ねた後に打っても、▲同飛や▲同桂とは取りづらいのですが、
桂が2九にいないので▲2九飛と1手で引くことができます。
この▲2九飛と深く引く形が狙われにくくて、とても良い位置なので、
▲2七飛や▲2八飛と途中下車させた方が、後手にとって1手の得です。
34手目:形勢判断と候補手
互角:△8六歩
34手目では△8六歩から横歩の取り返しを狙って攻める手が有力です。
他に△5二玉、△9四歩、△1四歩のような候補手もありますが、
先手には▲3三角成~▲8八銀~▲7七銀や▲4八金のように、
確実にプラスになる手が複数あるため、穏やかに指すと作戦負けに繋がります。
本譜は△2三銀と上がりましたが、やや危険な1手でした。
仮に、後手が美濃囲い&8四飛型であれば、
△2四飛とぶつける手を見せて有力になることが多い銀上がりですが、
4一玉型の場合は中終盤で▲2一飛の打ち込みが王手香取りになるなど、
隙が増えるマイナス面が大きい割に、攻撃面での見返りが少ないです。
中盤
38手目:形勢判断と候補手
先手有利:△5五飛、△8一飛、△8二飛
37手目の▲7七桂が8五飛型に対して是非とも指したい1手です。
左桂を活用しつつ、後手の飛車を追い払うことができます。
38手目は△8一飛や△8二飛と
引くか、
あるいは△5五飛と
回るかの分岐点で、いずれも有力です。
飛車を引くと▲7五歩と
桂頭を攻められたり、▲2五桂と跳ねられたりして、
しばらく受け続けることになります。
そして、飛車を回ると、飛車が狙われやすいため、捕まる心配があります。
先手の桂が2枚とも跳ねているので、中央のスペースは意外と狭いです。
49手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲8五桂
後手からの攻めが何もないので、
49手目で▲1六歩と突いても優位を維持できますが、
本譜の▲8五桂跳ねが優位を拡大する好手でした。
△同桂には▲9一角成で香を取りつつ馬を作ることができます。
△6四歩と受けても、▲7三桂成で左桂が持ち駒に変わりますし、
角の退路も確保できています。
先手の角も狙われやすい状態であることに変わりはないので、
いずれの変化もその心配がなくなっている点がかなり大きいです。
終盤
57手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲5六桂、▲1五歩、▲2五歩、▲6八銀 など
後手は飛車を取られた後のことを見越して、
少しでも
粘ることができる形を目指していますが、
この段階で自陣に手を入れているということは、
見方を変えれば、後手からの有効な攻めがないということです。
このような場合、▲1五歩や▲3五桂のように直接攻めても勝ちは勝ちですが、
△2四飛と
ぶつけられないように▲2五歩と打っておいたり、
△6五桂&△4五桂の攻めに備えて▲6八銀と上がっておいたりすると、
逆転要素が皆無になるため、大会などの真剣勝負ではお勧めです。
場合によっては、指し手に困った相手が
投了してくれるかもしれません。
これは攻めを選んで勝つよりもかなり楽です。
68手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:△6五桂、△4五桂 など
後手が勝つための道筋としては5七の突破しかありません。
まずは△6五桂と打ち、次に△4五桂と跳ねます。
あとは、玉を5七に露出させて、王手飛車取りなどの大技を密かに狙います。
アマチュアの早指しならばこれに賭けるしかありません。
但し、プロで通用する攻め筋ではないため、
本譜は△4五歩と突いて、攻め駒にプレッシャーをかけました。
71手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲5四桂、▲同飛 など
71手目では▲同飛とする手も有力ですが、
▲5四桂と跳ねて、
ただ捨てするのが
好手です。
▲5四桂に対しては銀取りなので△同歩と取るしかありませんが、
将来的に5三に駒を
打ち込む寄せ筋が生じたり、
▲2四飛~▲5四飛の
王手が受けづらかったりします。
後手は桂取りでなくても△4六歩を攻めの手として指したいのです。
▲同歩となれば、△5四桂~△4六桂のような攻め筋が生じるうえに、
3六の歩がいなくなれば△1四角のような王手も見えてきます。
現状は攻めのついでに桂を取られそうなのですが、
別の場所で桂を取らせることで相手陣が弱体化するならば明らかにお得です。
このような活用もあるため、どうせ取られてしまう駒だからと言って、
早々に見捨てないことは重要です。
81手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲3二竜、▲9三竜、▲2四竜 など
81手目で本譜は▲3二竜と切って最短の
寄せを目指しました。
持ち駒の少ない先手にとって、金はとても欲しい駒です。
但し、相手に飛車を渡して寄せに失敗すると、
逆転してしまうリスクも高まります。
必勝の将棋を逆転負けするのはとても悔しいので、
実戦では他の候補手を先に考えておくべきです。
まず、先手の持ち駒において歩以外で唯一の駒である
香を使う手は候補から除外します。
これは△3四桂と打たれて、△4六桂を狙われた場合に、
自陣の駒を移動して受けると、陣形のバランスが崩れてしまい、
角打ちなどの継続手が生じやすくなりますが、
▲4八香と打ってしっかりと受ければ不安要素がないためです。
よって、ここでは盤上の駒、特に竜の活用から考えます。
例えば▲9三竜は7三への
合駒を強要しており、
後手がさらに戦力不足になるため、損の少ない手です。
▲2四竜と引いて▲3三銀成を狙う手も、
△4五桂のようなただ捨ては気になりますが、基本的には厳しいです。
他に、▲2四歩と
垂らして、▲2三歩成から金を取りに行く手もあります。
但し、かなり遅い攻めなので、形勢が大差の時に限ります。
この辺りの候補手を読んで、指し手を1つ決めた後で、
余った時間で▲3二竜を読むようにすれば慌てずに済みます。
91手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲4四香、▲6一銀不成 など
後手玉の上部に桂の
利きがあるからと言って、
▲5三金と打ってしまうのは少しもったいないです。
91手目は「
金はとどめに残せ」で▲4四香と打つのが寄せの好手です。
△同桂は▲5三銀成以下、持ち駒の金が威力を発揮して
詰みとなります。
持ち駒を使わない手であれば、▲6一銀不成も有力で、
5二の桂を取って、▲3五桂と打つ寄せ方が分かりやすいです。
99手にて、後手の木村九段が投了し、豊島王位の1勝となりました。
投了図以降、△1四玉は▲1五歩で詰み、△1二玉は▲3二竜の一間竜で、
2二に何を合駒しても▲2三歩成までの詰みとなります。
△2二玉と引けば詰みはありませんが、▲3四桂 △2一玉 ▲2三歩成で
後手玉は
必至となります。
本局では豊島王位の、一瞬の隙を逃さない仕掛けと、
緩みの無い押し切り方が非常に勉強になりました。
第59期王位戦第7局
王位戦第2局