目次
解説動画
王将戦第2局
王将戦第4局
対局情報
渡辺 明 王将(三冠)<先手>
広瀬 章人 八段<後手>
スポーツニッポン新聞社
毎日新聞社
公益社団法人日本将棋連盟
(棋譜利用問い合わせ済み)
局面解説概要
序盤
23手目:形勢判断と候補手
互角:▲6九玉、▲6八玉、▲1六歩 など
先手は▲3五歩 △同歩 ▲同銀から▲2四歩と攻めたいのですが、
現状だと2四で
清算した後に、△1五角が王手飛車取りになります。
居玉が祟る典型的なパターンなので「
居玉は避けよ」となりますが、
▲6九玉、▲6八玉、▲5八玉の3か所はいずれも有力です。
24手目:形勢判断と候補手
互角:△9四歩、△7三桂、△5二玉、△6二金 など
5か月ほど前に行われた
王座戦第1局の千日手局では
24手目の局面で△9四歩と突いて9筋の端攻めを急ぎました。
一方、本譜は△5二玉と上がって、先後同型を維持しました。
「先手が中住まいだから、手薄の端を先攻して主導権を握る」のか、
「先手が中住まいだから、端攻めでは争点が離れすぎている」のか、
この段階での比較は非常に難しいですが、
△9四歩の方が、後手の方針は分かりやすくなります。
28手目:形勢判断と候補手
△8六歩、△1四歩、△7三桂 など
相手の銀が五段目に出たタイミングで、
△8六歩~△8五歩と
継ぎ歩攻めを行うのが対早繰り銀の頻出手筋です。
3五の銀と8九の桂が
浮いており、△8五飛で
両取りになることを避けるため、
先手は▲8五同歩と取ることはできず、8筋を押し込むことができます。
中盤
33手目:形勢判断と候補手
互角:▲3四歩
33手目は▲3四歩と打って、
拠点を作りつつ、後手の左銀を後退させます。
▲同銀と取る手もありますが、お互いが銀を持ち駒に加えた場合、
新たに生じる含みでは、△5四角~△2七銀や△8六歩~△8七銀のように、
後手の方が分かりやすく、その対応で先手がわずかに苦労します。
40手目:形勢判断と候補手
互角:△7二金、△7三桂、△6二金、△9四歩 など
40手目で△8七角と打ち込んだらどうなるでしょうか?
▲同歩は△同歩成で、8筋を突破されて竜を作られてしまうので、
先手が多少の
駒得をしていても、後手優勢です。
よって、金取りを受けて▲7九金と
引くのが
最善手になります。
後手は△7五歩と突いて暴れるしかありませんが、
▲3七角と打って、6四の銀を釘付けにすれば、
後手の攻めは続かず、駒得の結果だけが約束されるので先手優勢です。
プロの対局で、このような無理攻めが見られることはありませんが、
アマの場合はその保証がないので、きちんと覚えておきたい受けの手筋です。
50手目:形勢判断と候補手
互角:△8七歩成、△6四銀
50手目で強く攻めるならば△8七歩成が有力です。
以下、▲同歩 △8六歩 ▲7五歩 △8七歩成 ▲8五歩 △同飛 ▲7六銀
△7八と ▲8五銀 △1五角 ▲4八玉とほぼ一直線の手順になります。
形勢はまだ互角ですが、先手の方が時間を使わされる展開です。
本譜は△6四銀と引きました。こうなると戦いは長引きますが、
6四のままでは銀が使いづらいので、
終盤で取り残されないように意識します。
59手目:形勢判断と候補手
互角:▲5六歩、▲1六歩、▲9六歩、▲2二歩 など
中住まいの
中盤はバランスを保つ優先度が高いので、
局面が少し落ち着いてしまうと、動かせる駒が少なくて困ることが多いです。
「
手のない時は端歩を突け」で▲1六歩や▲9六歩はありますが、
後手も△1四歩や△9四歩と端歩を突き返したら、指し手は難しいままです。
また、△1八歩 ▲同香 △5四角や、
△9八歩 ▲同香 △8九角のような端攻めの含みが後手に生じることもあり、
手待ちとしては指しづらいです。
▲2二歩と打って△同金と形を崩すのは手筋で、
先手の持ち駒の歩が2枚以上あれば、是非指したいですが、
後続の攻めがないと
歩切れになるだけなので、やや指しづらいです。
▲5六歩は、先手玉が少し弱体化するものの、
将来の5筋攻めと、▲5七銀と引く含みが増えるので、比較的無難です。
本譜は積極的に▲6五桂とぶつけました。
桂交換後に▲5六桂と打てば、4四の銀を捕まえることができます。
但し、△5四桂と打たれて、4六の銀が狙われる形は嫌なので、
手番が後手に移ることを踏まえると、わずかに無理気味な動き方です。
65手目:形勢判断と候補手
後手有利:▲5六桂
65手目で▲4五桂と逃げるのは自然なようですが、
△5四桂と打たれた時に▲4五銀と逃げることができなくなります。
本譜は▲5六桂と打ちました。先手が少し
駒損となりますが、
後手玉の
こびんが開いて弱体化するので、そこを狙って帳消しにしたいです。
76手目:形勢判断と候補手
後手有利:△同飛
76手目で△同歩は、打ったばかりの角の働きが弱くなるうえに、
▲7五銀から王手飛車をかけられてしまうので、形勢を損ねます。
本譜は強く△同飛と取りました。
後手としては△6六桂打さえ通れば、先手の中住まいを崩すことができるので、
それを防いでいる5五の銀には飛車と交換するだけの価値があるのです。
87手目:形勢判断と候補手
後手有利:▲6七玉
次に△7七金と打たれてしまうと、玉を下段に落とされたうえに、
成桂を作られてしまうので、受けが難しくなります。
安い駒で7七を受けるとすれば▲8九桂ですが、単に受けただけの手なので、
△5六銀や△4八銀と数を足されて、これも受けが難しくなります。
87手目は「
桂頭の玉、寄せにくし」で▲6七玉が受けの手筋です。
これで△7七金には▲6六玉と桂を取って、上部に脱出することができます。
終盤
95手目:形勢判断と候補手
後手優勢:▲4六歩
95手目で▲6一角や▲6一銀と打って
王手をかけることはできますが、
後手玉に詰みはないので、先手は必ず受ける必要があります。
先手玉には△6八成桂寄~△3八金という
詰めろがかかっていますが、
▲4九銀と打って3八に利きを足しても、△3八歩成と
成り捨てるのが
好手で、
▲同銀に△6八成桂寄~△5八金~△4八銀で詰まされてしまいます。
3八は先手玉の逃げ道でもあるので、先手の駒が残っても邪魔になるのです。
ここで粘るならば▲4六歩と突くしかありません。
△3八歩成が△4八金までの詰めろになりますが、
▲4七玉と逃げ出せば、詰まされることはありません。
98手目:形勢判断と候補手
後手優勢:△2九と
98手目で寄せの原則としては△4八金と打って▲5六玉と追い込んでから、
△2九と と飛車を取ります。これで先手玉は受け切り困難です。
但し、この局面では5六に上がった玉の利きによって、
後手玉に長手数の詰み筋が生じるため、飛車を取ったら大逆転です。
このような
紛れがあるので、攻め込まれても、単に受け続けるだけでなく、
▲6二歩のように、どこかで相手玉へ絡んでおくことが重要なのです。
よって、本譜は単に△2九と と飛車を取りました。
と金が離れるので、先手玉が広くなってしまいますが、仕方ありません。
108手目:形勢判断と候補手
後手有利:△1二玉、△6九飛成
一見すると後手玉はまだ安全そうですが、
角を渡すと▲3三角から詰まされてしまいます。
108手目は非常に難しいのですが「
玉の早逃げ八手の得」で△1二玉と寄って、
▲6四成銀に△6九飛成とすれば、
入玉を防ぐことができるうえに、
先手が攻めてきた際、王手がかかる前に駒を入手することができるので、
後手の1手勝ちが見込めました。
本譜は△8二角と引きました。
自然な手ですが、攻守が逆転しました。
118手目:形勢判断と候補手
後手優勢:△2五桂
後手は次の▲3四角を防がなければなりませんが、△2五桂と跳ねれば、
△3七銀からの詰めろとなっているため、再逆転でした。
結果的には、飛車銀両取りとして1六に打った角が、
盤上の働きの悪い位置で、そのまま残ってしまうことになるので、
先手は▲3四歩~▲1六角と両取りをかけるのではなく、
単に▲2一角と王手をかけて▲4三金と張り付くしかありませんでした。
本譜は△2五歩と突きましたが、これでは先手玉が詰めろにならないうえに、
2四に隙が生じたので、先手の攻めが続いてしまいました。
125手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲2五金
125手目は▲2五金と歩を
払うのが決め手です。
これで先手玉が一気に広くなりました。
△同桂は▲3二飛成から後手玉が詰むので、
次で取り返されることはありません。
小駒しか持っていない後手が粘りだしたので、
先手としては一安心できます。
後手に飛車を渡すことはできませんが、
それさえ気を付けて、少しずつ迫っていけば、もう逆転することはありません。
145手にて、後手の広瀬八段が投了し、
渡辺王将の2勝、広瀬八段の1勝となりました。
投了図以降、△同金の1手に▲3二飛成~▲2四桂~▲2三金とするか、
▲同竜~▲3二飛成から金をベタベタと打っていけば詰みとなります。
本局では渡辺王将の、
相手を焦らせながら凌ぐ指し回しが非常に勉強になりました。
王将戦第2局
王将戦第4局