目次
解説動画
第90期棋聖戦第4局
棋聖戦第2局
対局情報
渡辺 明 棋聖(三冠)<後手>
藤井 聡太 七段<先手>
産経新聞社
公益社団法人日本将棋連盟
(棋譜利用問い合わせ済み)
局面解説
序盤
23手目:形勢判断と候補手
互角:▲3七桂、▲6六歩、▲9六歩、▲4六歩 など
23手目では、▲6六銀と出る
急戦の
含みを残して、
▲3七桂~▲4六歩~▲4七銀のような指し方も有力です。
本譜は▲6六歩と突いて、しっかりと囲いを作る手順を選択しました。
28手目:形勢判断と候補手
互角:△6四角、△7三銀、△9四歩、△4二角、△4三金右 など
28手目で△7三銀と上がって、先後同型を維持する指し方は有力です。
本譜は△6四角と出ました。
これで▲3五歩 △同歩 ▲同角には△3六歩が生じるため、
先手の攻撃陣の動きをけん制することができます。
対して、先手も▲4六角と上がって、角が見合ったので、
「脇システム」と細分化される戦型になりました。
41手目:形勢判断と候補手
互角:▲6四角、▲3五歩、▲1八香、▲2六銀、▲6八金寄 など
お互いの
駒組みが飽和状態となったこともあり、
この局面で最大の分岐点を迎えます。
後手から角交換をしてもらう場合は、
▲3五歩 △同歩 ▲2六銀か、単に▲2六銀と動いていく手が有力です。
但し、△4六角 ▲同歩となると、4筋の歩が上ずったことで隙が生じるので、
後手に馬を作られて、先手の攻撃陣を狙われてしまう恐れがあります。
他に、わずかに消極的ではありますが、▲6八金寄として角交換に備えたり、
▲9八香や▲1八香と
手待ちをしたりする指し方も実戦的には難しいです。
本譜は▲6四角と先手から角交換をしました。
これに対しては△同銀も△同歩も有力です。
後手の駒が手順に前進するので、先後が入れ替わる計算にはなりますが、
先手は隙を少なくしたままで、▲2六銀からの端攻めを狙うことができます。
中盤
44手目:形勢判断と候補手
互角:△6五歩、△7五歩、△9五歩
後手も△8四銀と上がって、先手と同じ攻め方をすると、
先手から先に仕掛けられてしまい、1手遅いので、一工夫する必要があります。
歩の下に銀がいる状態で、攻め幅を広げつつ、スピードアップを図るためには、
複数の歩の
突き捨てが重要になるので、その順番や組み合わせを考えます。
この場合、△6五歩・△7五歩・△9五歩のいずれも有力で、
将来的には8筋の歩も突き捨てます。
51手目:形勢判断と候補手
互角:▲1五歩
先手は馬を作られてしまいましたが、
後手の右銀や右桂が前進してくるまで、攻め込まれる恐れはありません。
よって、下手に馬を追い回すことはせずに、
この段階で▲1五歩と突いて端攻めを始めます。
52手目:形勢判断と候補手
互角:△9五歩、△8六歩、△6五馬 など
52手目で△同歩と応じる手もありますが、
▲同銀で攻め駒を前進されてしまいます。
後手は1筋を
手抜いて、攻め合いに持ち込んだ方が、
先手の右銀が2六に残ってしまう可能性がある分、わずかに得です。
62手目:形勢判断と候補手
互角:△9五歩、△5五歩、△9三桂
後手は馬にこだわる必要はありませんが、62手目で△同馬とすると、
手順に▲同桂と跳ねられてしまうので、少し面白くありません。
△5五歩と駒を
ぶつける手は有力ですが、
次に▲6四角とされても、△同銀と手順に前進できるので、
本譜は△9三桂と跳ねて、△8五桂の攻めを急ぎました。
先に△9五歩と突き捨てておく手順も有力です。
71手目:形勢判断と候補手
互角:▲8四歩、▲7六歩、▲7五歩、▲6五歩、▲2八飛
71手目で先手が攻めるならば▲4六角~▲1三歩成ですが、
端を突破できただけでは決め手になりません。
そのため、自分の攻めよりも、
後手からの攻めを優先して考えることが重要となります。
ここから△9五歩~△8五桂と△6五歩~△7五銀が実現してしまうと、
後手に銀桂を両方共活用されてしまい、明らかに先手の攻めを上回る厳しさです。
よって、本譜は▲7六歩と打って、後手の狙いを潰しました。
消極的な受けにも見えますが、歩1枚で1手以上稼ぐことができています。
他に、▲8四歩と突いて△同飛と取らせたうえで、
▲8七歩と修復する受け方も有力です。
後手は8筋を力技で突破することが難しくなったので、
厚みで制圧する方針に切り替えましたが、先手に攻めの番がまわってきました。
83手目:形勢判断と候補手
互角:▲6四歩、▲1三歩成
83手目は▲6四歩と馬取りに
叩く手が有力です。
△同馬は▲3六飛で金が
タダタダなので、後手は馬を逃げるしかありませんが、
手順に
拠点を作ることができます。
先手が1筋を突破した後、後手玉が中央方面へ逃げ出す可能性もあるので、
6四の位置に拠点があることは大きいです。
92手目:形勢判断と候補手
互角:△4六金、△8六香、△1一香
92手目で本譜は△4六金と寄って、馬の
利きを通しました。
△5七歩と捨てた効果で飛車角
両取りとなっています。
これで大駒と金の交換が確定したので、
先手は
駒損が響かないように、強く攻め込んで
寄せを目指すことになります。
終盤
99手目:形勢判断と候補手
互角:▲8七香、▲1二歩
99手目で▲1三角成とすれば▲1二金までの
詰めろにはなっていますが、
狙いが単純なので△1一香のように受けられてしまうと攻め方が難しいです。
後手からは「
香を持ったら歩の裏を狙え」で△8六香と打つ攻め筋があり、
それを先受けする意味で▲8七香と打つ手は有力です。
本譜は▲1二歩と
垂らしました。これで次の▲1三角成が厳しくなります。
106手目:形勢判断と候補手
互角:△3一玉
106手目で後手が攻めるならば△8六歩 ▲同金 △8五銀ですが、
これに対しては、歩を取られたことを生かして、▲8二歩と叩くのが
好手です。
△同飛と取らせてから▲1三角成とすれば、
後手陣の飛車が受けに利かなくなったので、後手が少し攻め合い負けします。
本譜は「
玉の早逃げ八手の得」で△3一玉と寄りました。
△4二玉と広い方へ逃げ出せるようになるだけで、危険度はかなり下がります。
113手目:形勢判断と候補手
先手有利:▲3三金、▲3三銀、▲3三歩
113手目で▲4六馬と逃げていては、△6六銀と迫られてしまい、
駒損も大きく、先手
敗勢です。
とは言え、▲同馬はやり過ぎで、
小駒だけで広い後手玉は捕まりませんし、
馬がいなくなれば△6八飛成も生じます。
本譜は▲3三銀と打って食い付きました。
△同金と取ることはできませんし、△1三金には▲3二金の1手詰です。
よって、△1三飛成として馬を取りますが、先手玉が少し安全になりました。
あとは小駒だけで後手玉を寄せ切れるかどうかです。
125手目:形勢判断と候補手
先手優勢:▲2二銀、▲2一銀、▲1五歩 など
125手目で本譜は「
玉の腹から銀を打て」で▲2二銀と打ちました。
後手玉を動けなくしたうえで、▲1三歩からの詰めろになっています。
尚、▲1五歩と打って、竜を押さえ込む手も有力ですが、
詰めろになっていないため、△6八香成とされた局面で、
先手玉が詰まないことを読み切る必要があります。
実戦的にはやや危険な決め方です。
131手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲同玉
131手目で▲同玉は△1八竜と活用される手が見えていますが、
それを嫌って▲9八玉と寄った場合、△9七香と打つのが好手で、
▲同玉 △8五桂 以下、先手玉は長手数の
詰みとなります。
後手は
持ち駒が豊富なので、
先手が受け間違えて詰まされる変化は他にも多数あります。
147手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲7五玉
146手目の
開き王手に対しては
合駒をするとすべて先手玉が詰みます。
後手が最も欲しい駒は金なので、
△8七成桂と王手で金を取られてしまう展開だけは避ける必要があります。
先手は後手の馬の存在が怖いものの、
後手の包囲網をすり抜けながら、逃げ切りを図ります。
157手にて、後手の渡辺棋聖が投了し、藤井七段の1勝となりました。
投了図では
逆王手がかかっているので、後手は2四の桂を取るしかありません。
△同歩は▲2一銀打や▲2一角から、後手玉が狭いので詰みとなります。
△同竜ならば、再度の逆王手ですが、▲同歩で先手玉が安全になるうえに
後手玉には必至がかかります。
本局では、藤井七段の、
細い攻めの繋げ方とギリギリの凌ぎ方が非常に勉強になりました。
第90期棋聖戦第4局
棋聖戦第2局