穴熊(居飛車):将棋の囲い

目次

穴熊(居飛車)の基本形

下図が居飛車の穴熊(あなぐま)の基本形です。
「いびあな」と省略して言われることも多いです。

最小構成として、玉・左香・左桂の配置が同じであれば穴熊と言えますが、
ほとんどの場合で、それらの近くに金銀を密集させています。
将棋で「穴熊(居飛車)」と言われる囲い
「居飛車穴熊(いびしゃあなぐま)」と言った場合、
(囲い単体ではなく、)戦法・戦型を表していることもあります。
囲いが決まれば、必然的に攻撃態勢も見えてくるためですが、
この辺りは文脈によって判断する必要があります。

囲いに限定して述べる場合は、
  • 「居飛車で囲いは穴熊」
  • 「囲いは居飛車穴熊」
のような表現になります。

「居飛車」を省略して「穴熊」と言う場合、
「振り飛車の穴熊」と勘違いされないように使い方を注意する必要があります。
(当ページでは「穴熊(居飛車)」と表記します。)

銀冠穴熊」「ビッグ4」「松尾流穴熊」などの囲いも穴熊の一種で、
一括りに「穴熊」と言うこともありますが、
細かく分類した場合、当ページに記載の「穴熊(居飛車)」は、
それらの囲いに進展する前段階ということになります。

尚、「矢倉穴熊」も穴熊の一種ですが、
これだけは相居飛車である点が大きく違うので、親戚のような位置付けです。

穴熊(居飛車)の特長

穴熊(居飛車)は主に対抗形の居飛車側で現れる囲いです。
左香を1つ上がって、その下(盤の隅)に玉を囲い、
近くに駒を密集させることで、玉の周囲で空いているマスをなくします。
まず、これによって、相手の攻撃態勢や持ち駒を問わず、
王手がかかるということは絶対にありません。
また、有効な王手に絞って考えても、
戦場から玉が遠いので、相手が自陣に攻め込んできてからでも、少し余裕があります。

つまり、相手から迫られていない限り、自玉の安全が分かりやすくなります。
これは、特に持ち時間の限られている将棋では非常に大きなメリットです。
少なくとも「何の駒を相手に渡したら自玉が詰むか」という思考がほぼ不要となり、
そこでミスをする恐れがありません。
攻めが繋がりさえすれば、渡す駒にほぼ制限がなく、好き勝手攻めることができます。
これが穴熊人気の大きな理由です。

また、穴熊は攻め込まれて薄くなってしまっても、
持ち駒(特に金駒)があれば、それを囲い周辺に打つ(埋める)ことで
すぐに堅さを復活させやすいということも特長です。
相手が中途半端な攻めをしてきた場合には、
相手の攻めを上回る速度で穴熊を堅くして凌ぎきるという指し方も有力です。

穴熊(居飛車)は完成してしまうと、相手にとってかなり厄介な囲いなので、
振り飛車側は、居飛車側が穴熊を組む前に早く仕掛けるか、
どこかで主張が残るようにする必要があり、序盤から工夫を求められます。

穴熊(居飛車)の評価

標準手数14
横の耐久力85 /100
斜めの耐久力85 /100
上部の耐久力85 /100
端の耐久力75 /100
玉の広さ20 /100
玉の遠さ95 /100
囲いやすさ65 /100
陣形バランス60 /100
囲いの進展性60 /100


※弊サイト独自の評価です。戦型や局面によって変動しますし、点数の合計が大きいからと言って必ずしも優れているということではありません。あくまでも目安としてお考えください。

穴熊(居飛車)の前段階

基本的には舟囲いから一直線に囲いを目指します。
その間はやや中途半端な形になりやすいです。

穴熊(居飛車)からの進展

穴熊(居飛車)のままでも十分に堅い囲いですが、
相手が攻めてこなければ、更なる堅さや上部の厚さを求めることもできます。

主な相手の囲い

  • 穴熊(振り飛車)
  • 銀冠(振り飛車)
  • 高美濃

穴熊(居飛車)の主な弱点

組み上がるまでに手数がかかる

穴熊(居飛車)は、玉の移動だけでも4手かかります。
また、角と香の移動が必須で、さらに、金銀を左側に寄せる必要もあるため、
組み上がるまでに手数がかかります。

また、駒組みの分岐点となる指し手は「香上がり」で、
この手を指すと原則として穴熊の完成を目指すことになります。
それ以外の囲いに変えてしまうと、「香上がり」が無駄な1手となるばかりか、
を攻められた際にマイナスの手になる恐れもあるためです。
この「香上がり」を起点として考えても、完成まで手数がかかるので、
その間、狙われやすい状態となります。

代表的な振り飛車側の対策としては藤井システムが挙げられます。
例えば、下図は、先手が穴熊を目指して▲9八香と上がった局面です。
「穴熊(居飛車)」の注意点1
上図から後手が△8五桂や△6五歩と仕掛ける手も考えられますが、
先手が▲9九玉と潜った段階では後手の角筋の厳しさが変わっていません。
よって、後手は1手だけ力を溜める余裕があり、△6二飛が最善手です(下図)。
「穴熊(居飛車)」の注意点2
上図から先手が▲9九玉とすれば、そこで後手が△6五歩と仕掛けます(下図)。
「穴熊(居飛車)」の注意点3
上図では、後手の飛車・角・右桂がよく働いていて、既に後手が主導権を握っています。
以下、先手が一方的に攻められてしまい、作戦失敗です。
先手が穴熊にかけた手のうち、香上がりや玉の入城が堅さに繋がっていないどころか、
後手の仕掛けが間に合うことで結果的に相手の角の働きを強めてしまっているのです。

対策は少し難しい話になりますが、
先手は▲9八香と上がった手を後回しにする必要がありました。

▲3六歩と突いて、後手に△6三銀や△6二玉を指させることで△6二飛を緩和するか、
▲7八金と上がって、離れ駒をなくして相手の早い仕掛けに備える手が有力です。

穴熊を目指すためには、繊細な序盤が求められるのです。

自分の攻め駒が少なくなりやすい

穴熊は自分の駒が囲い側に偏りやすいため、
必然的に攻め駒が少なくなり、仕掛け方が難しくなります。

また、相手への攻めが切れてしまうと、
穴熊が健在でも、何も手出しができなくなって敗勢となります。
(「穴熊の姿焼き」と言います。)

将棋は攻めと受けのバランスが重要なので、
必ずしも囲いが堅ければよいという訳ではありません。

右金が浮いている

穴熊(居飛車)は上部や斜めからの攻めに備えるため、
左金が三段目に上がることが多いのですが、この金が浮きやすいです。

例えば、下図のように相手の持ち駒に角がある状態で、
自分の飛車先を歩で叩かれるだけでも対応に困ります。
(歩を飛車で取ると、飛車金両取りの角打ちがあります。)
「穴熊(居飛車)」の注意点4
自陣の隙が多いので、そもそも角打ちの隙が生じやすいのですが、
狙われやすい駒があると、両取りの変化が多くなるので、注意が必要です。

袖飛車で角頭を攻められやすい

穴熊(居飛車)は右金と右銀を三段目に繰り出しているので、
上部からの攻めに対しては基本的に強いのですが、
唯一、角頭だけは金1枚しか利きがありません。

よって、下図のように、相手が袖飛車に振り直してから、
銀と連携して攻めてくる筋が厳しくなります。
「穴熊(居飛車)」の注意点5
上図のようになってしまうと、角を逃げる必要があるうえに、
逃げた角の働きが悪くなるため、形勢を損ねます。

対策ですが、上記のような攻め筋が考えられる場合には、
左銀を上がる手を保留する必要があります。
そして、同様に攻められたら、下図のように角を玉側に引きます
「穴熊(居飛車)」の注意点6
上図の穴熊は少し不安なようですが、角は確実に受けで働きます。
また、相手が攻めを続けることはできますが、
低い陣形で受けているので、相手は銀の進出に手数がかかっています。
その分、後手玉が堅くなっていない(=薄い)ということでもあるので、
相手の攻めは「持ち駒を入手する良い機会」と捉えて、反撃を楽しみにしましょう。

端攻めに対してはあまり強くない

穴熊(居飛車)は、金駒がやや密集しているものの、
利いている金駒は左銀だけです。
そこを相手から攻められてしまうと、
玉頭でもあるため、すぐに不安定な状態となりやすいです。

また、早い段階で端を狙われた場合、
下図のように桂を跳ねられると、角取りの先手になってしまう恐れもあります。
「穴熊(居飛車)」の注意点7
特に相手が端を詰めている(突き越している)場合は、
仕掛けで相手に歩を渡す前に、端攻めの反撃を考慮しておく必要があります。

対抗形の場合、玉側の端で戦いが起こるということは、
相手の玉形も少しは乱れるはずです。
そこは、こちらから反撃する際の狙い目でもあると言えます。

角の活用方法が悩ましい

穴熊(居飛車)の角について、主な活用方法は2つあります。
  • 角道を止めている右上の歩を突く
  • 角を右側に転換する
前者の歩突きは、そのままを取ることができれば良いのですが、
こちらの穴熊が組み上がる段階では、相手の駒組みも進んでいるので、
ほとんどの場合、突いた歩をタダで取られてしまう状態になります。

後者の転換は、角を1度引く必要があるのですが、
その瞬間に角の働きが弱くなり、相手から攻められてしまう恐れがあります。

どちらを選択するかで、だいぶ戦い方が変わってきますが、
基本的に相手の動きを見て判断する必要があります。
穴熊だからと言って、組んだ後に好き勝手出来る訳ではないのです。

崩されると玉の逃げ場がない

穴熊(居飛車)は、玉が盤の隅にいますが、
囲いを無視して考えると、少ない駒で詰まされやすい位置と言えます。

つまり、囲いの金駒剥がされてしまうと、
安全度の高い位置(=中段)まで玉が逃げ出すことが難しい状態です。
こうなると、受けがないことも多いので、
その段階で相手玉を寄せ切れなければ負けとなります。

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