【将棋解説】
第32期竜王戦七番勝負第3局 広瀬竜王vs豊島名人

目次

解説動画



対局情報

棋戦
第32期竜王戦七番勝負 第3局
対局日
持ち時間
8時間(2日制)
対局者
広瀬 章人 竜王<後手>
豊島 将之 名人<先手>
戦型
角換わり腰掛け銀
主催
読売新聞社
公益社団法人日本将棋連盟
(棋譜利用問い合わせ済み)
対局場所
兵庫県:神戸ポートピアホテル

局面解説

序盤

【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第3局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で20手指した局面
本局は先手が豊島名人、後手が広瀬竜王です。
戦型は角換わり腰掛け銀となりました。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第3局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で30手指した局面
先手が2九飛&4八金型、後手が8一飛&6二金型の流行形です。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第3局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で38手指した局面
後手が玉や金の移動に手数をかけて、
手待ちの方針を明確にした序盤となりました。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第3局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で46手指した局面
point
47手目:形勢判断と候補手
互角:▲5九飛、▲4五歩、▲1五歩
後手玉は少し薄いですが、3一まで離れたので、
次に△6五歩と仕掛けても十分な態勢となりました。
後手の駒組みは先手よりも3手遅れているので、
それを咎めるためにも、先手から動いていきたいところです。

本譜は▲4五歩と仕掛けました。
△同歩と取られたら、すぐには取り返せませんが、
▲3五歩 △同歩 ▲5五歩 △同銀と突き捨てをすれば、
▲4五桂が実現して、さらには2筋の歩を交換したり、
▲5三桂成から角の打ち込みを狙ったりすることができます。
いきなり2歩損するので、部分的には少し無理気味の仕掛けですが、
玉の堅さがかなり違うので、攻めが続きさえすれば成立していると言えます。

他に、47手目では▲5九飛と回り
▲5五歩から少しずつ駒を前進させる指し方も有力です。




中盤

【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第3局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で57手指した局面
point
58手目:形勢判断と候補手
互角:△4四銀直、△8一飛
58手目で本譜は△4四銀直としました。
先手に歩を渡すと▲7四歩が生じるため、▲4五桂を防ぐことで、
歩切れのままにして困らせようとするのは自然な指し方です。

他に△8一飛と回って、あえて▲4五桂と跳ねさせる指し方も有力です。
その場合、後手は桂が質駒になっていることと2枚の持ち歩を生かして、
9筋の端攻めをしたり、7六に駒を打ち込むような攻めを狙ったりします。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第3局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で67手指した局面
point
68手目:形勢判断と候補手
互角:△1七香成
後手は7三の桂を取られてしまいますが、△同金で と金は残りませんし、
1筋で香をもらっているので、駒割りは後手の3歩得となります。
逆に言えば、先手は歩が足りなくて、手が作りづらく、困っています。
△7六香と打って駒得を目指しても、先手は歩が手に入ることを喜ぶだけです。

68手目は△1七香成として、目先の△2七成香や、将来の入玉を見せることで、
先手にプレッシャーをかけて無理矢理動いてもらいます。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第3局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で76手指した局面
point
77手目:形勢判断と候補手
先手有利:▲4二歩
77手目で▲3八馬と逃げてはいけません。
後手に1手の余裕を与えてしまうと、
△4二香や△4六歩で4筋を押さえ込まれてしまいます。
先手は攻めが切れてしまうと、駒損が響いてジリ貧となります。
今は攻めを続けることが最重要なので、馬は2の次です。

本譜は▲4二歩と打ちました。△同飛に▲5四桂と捨て駒を続ければ、
手順に6三の角の利きを遮ることができて、4筋の勢力が逆転します。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第3局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で81手指した局面
point
82手目:形勢判断と候補手
先手有利:△4一香
82手目は△4一香と打つ1手です。
先手は歩切れなので、飛車取りの対応に困ります。

尚、同じ様でも△4三香だと▲同飛成 △同金 ▲2三馬と迫られてしまいます。
馬に活躍されてしまうと、玉の薄さが響いてくるので注意が必要です。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第3局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で88手指した局面
point
89手目:形勢判断と候補手
先手有利:▲4六馬
89手目で本譜は「香を持ったら歩の裏を狙え」で▲3四香と打ちました。
次に△5六桂と馬を取られても新たな駒取りとはならないので、
強く攻め合うことができるタイミングではあります。

しかし、一旦▲4六馬と逃げておいて、目先の駒損を避けた方が有力でした。
▲3四香を防がれたとしても、▲1七飛と香を補充できます。
先程、馬を見捨てた局面と違い、先手には複数の攻め筋があるのです。
馬桂交換の駒損は痛いので、急ぐ必要のない局面では避けた方が良いです。




終盤

【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第3局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で103手指した局面
point
104手目:形勢判断と候補手
後手優勢:△6九銀、△2八飛、△1三玉
104手目は「玉の守りの金を攻めよ」で△6九銀と打って、
7八の金を取りにいくのが矢倉崩しの基本手筋です。

これに対しては金をかわされる手を気にする必要がありますが、
▲6八金と寄れば△同桂成ですし、▲7九金と引けば△7八歩と打てます。
▲7九金打が最強の粘りですが、
後手は実質0手で金銀交換というわずかな得をすることができます。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第3局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で116手指した局面
point
117手目:形勢判断と候補手
後手優勢:▲7八歩
116手目の王手に対しては7八に合駒をするしかありません。
本譜は▲7八歩と安い駒を打って、ジッと我慢しました。

尚、▲7八角と打てば△8九飛成の桂取りを防ぎつつ、
遠く後手陣まで利いているので、の良い攻防手に見えますが、
これに対しては△5九角と打つのが手筋で、7八の角は取られて攻めには使えず、
飛車か角のどちらかが、自玉の間近に拠点として残ってしまいます。

高い合駒をする場合には、特に送りの手筋にも注意が必要です。
駒の損得がほとんどない状態で、手順に寄り形ができてしまいます。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第3局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で127手指した局面
point
128手目:形勢判断と候補手
後手勝勢:△4七金、△5六香
現状、後手玉は▲1四桂打や▲3四桂という嫌な王手があるものの、
詰めろにはなっていません。
先手玉も詰みませんが、詰めろをかけ続ければ後手の勝ちです。
先手玉をすぐに危険地帯へと引っ張り出すことは難しそうなので、
その周囲にいる3枚の金駒に着目しますが、
詰みを防いでいるのは5七の銀と6九の金です。
よって、これらを直接狙えば、詰めろがかかりやすく、
後手の持ち駒が豊富な本譜の場合はすべて詰めろとなります。

但し、△4七角のような手で6九の金を狙うと、
▲3四桂と王手で金を補充してから▲7九金打と竜取りで粘る手順があります。
消去法で5七の銀を狙った方が粘られる余地が少ないので、
シンプルに銀を取りにいく、△4七金が有力です。

本譜は△4五金と上がりました。金取りを避けつつ、
△5八金からの詰めろになっているので、一見すると味が良さそうです。
しかし、△5八金という捨て駒は先手の金駒を剥がす手ではないので、
詰めろが解除しやすく、絶妙な詰めろ逃れの詰めろが生じてしまいました。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第3局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で132手指した局面
point
133手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲2一角
133手目で▲2一角と捨てて、△同玉 ▲2三竜の一間竜を狙うのが決め手です。
△1一玉と引けば、有効な王手はないのですが、
▲8五銀と歩を取れば、▲1二歩からの詰めろとなるうえに、
自玉の逃げ道も確保できたので、△5八金からの詰めろが消えています。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第3局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で135手指した局面
point
136手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:△2二角
136手目で後手が詰みを逃れるためには2二に角を合駒するしかありません。
▲3三桂 △1一玉 ▲1三竜からの詰み筋を防ぐためには、
2二の合駒によって、1三の銀に紐を付ける必要があるのですが、
金や銀では別の詰み筋が生じてしまいます。

この逃れ方は、詰将棋をたくさん解いていると見えやすくなってきます。
▲3三桂に△3一玉で生じる詰み筋は、余力があれば読んでみてください。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第3局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局で146手指した局面
point
147手目:形勢判断と候補手
先手勝勢:▲同玉、▲5七玉
147手目は▲同玉でも詰みませんが、8九の竜を絶対に活躍させないためにも、
▲5七玉と安全になった上部に逃げる方が無難です。

尚、▲同金と取ってしまうと△5七金の捨て駒から、
▲同玉に△5九竜で一間竜の形ができて、先手玉が詰んでしまいます。

対局の途中で「勝った」と思っても、相手が投了しないということは、
このような罠が残っている証拠でもありますので、最後まで油断は禁物です。



【将棋】第32期竜王戦七番勝負 第3局 広瀬章人 竜王 対 豊島将之 名人の対局の投了図
157手にて、後手の広瀬竜王が投了し、豊島名人の3連勝となりました。

投了図以降、△同玉 ▲1四桂打 △同銀 ▲同桂となれば、
後手玉は狭いので、あとは金銀を打って詰みとなります。

本局では豊島名人の逆転を狙った我慢強い粘り方が非常に勉強になりました。


- スポンサーリンク -

- スポンサーリンク -